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新しい友情に花が咲く

作者: 桜橋あかね

桜舞う4月。

高校3年生の私は、とある離島に引っ越した。


父がその離島の医師として、やってきたのだ。


「思ったよりも、不便ではありませんねえ」

港に着くと、母が言った。


それには私も同意見だ。

最初写真で見たときは、小さな島と思っていた。

……が、その故か必要な施設はひとまとめになっているから、買い物とかそう言うのは大丈夫だろう。


それに、学校は高校まで揃っている。

と言っても、高校は本州にある私立の分校だそう。


「なんでまた、高校は私立の分校なんだろうね」

私がふとそう言う。


「学校の理事長がこの島の出身で、学生の時に苦労したから開設したと聞いた」

そう父が返す。


なるほどな、と私は納得した。


▪▪▪


私達は役所で手続きを終わらせると、その足で診療所兼自宅へ赴いた。

前任者の医師は大学病院の方に移る話が出ていて、丁度その病院に居た父が変わるという流れになった。


……父は私や母に言わなかったけど、前からあの病院とは折り合いが合わなそうな感じがしていた。

気分一転として、その話に乗っかったのであろう。


私は、通っていた高校に残ってもいいと話が出たが断った。

あと一年で卒業だし、島の生活をやってみてたい気もしていた。


「あら、新しい先生さんですかねえ」

隣の家の奥さんが、話しかけてきた。


「はい」

父が言うと、その奥さんは笑顔になった。


「あらあらまあ、いい人そうなこと!これなら安心出来ますねえ」


「お母ちゃん、そんな声出してどうしたね」

玄関から、私と同年代の女の子が出てきた。


「ほーらあ、診療所の先生さ新しい人になるうて話とったやろう?その先生が来たんね」


「へえ、ってことは」

私と目が合った。


「転校生が貴女って事ね!」


▪▪▪


一通り物を家に置いた後、私はさっきの子と話をしたいと誘った。

その子は二つ返事で了承してくれた。


彼女の案内で、小さな商店街の片隅にある喫茶店に入った。

カウンターに座るなり、「マスターいつもの。この子にも同じのちょうだい」と言った。

マスターは無言で頷いた。


「行きつけなの?」

私が聞くと、彼女は頷いた。


「……ああと、自己紹介まだよね。私、藤峯(ふじみね)高校篠原島(しのはらじま)分校に通っている松田燐と言うよ」

「えっと、私は碧川ちひろって言います」


「じゃあさ、『ちーちゃん』って呼んでいい?」

燐が言うと、その時マスターはコーヒーとケーキを出した。


「初対面なんでしょう、それはどうかと思いますが」

マスターは表情を変えずにそう言う。


「べ、別にええやんか。同級生なんやしさあ」

燐がそう返すと、マスターは微笑む。


「ご冗談なのは、お分かりでしょう。高校生は燐さんお一人でしたから、嬉しいと思いまして」


燐は顔を紅くしながら、「もう!」と突っ込む。

「それは今言わなくてもいいのに~」


「そうなの?」

「ええ、まあねえ。島の子は居るっちゃ居るけど、殆どが小中学生よ」


それから、私と燐はコーヒーとケーキを口にした。


「おいしい!」

私がそう言うと、マスターは「ありがとうございます」と返す。


しばらく話していると、燐の携帯が鳴った。

燐は私に「ごめんね」と言い、電話に出た。


「お母ちゃんどないしたんね。……あ、うん、分かった」

燐は電話を切ると、私の方を見る。


「ごめん、ちーちゃんの歓迎会をするんだけどさ……どうやら、料理が間に合わんらしいんよ。燐も手伝えさって」

「あ、うん。行ってきていいよ」


燐は「ほんとごめん!」と言いながら、お金をトレーの上に置いた。

「マスター、また来るで」


私の方に向き直して手を振ると、燐は喫茶店から出た。


▫▫▫


「ちひろさん、と言ったかな」

残りのコーヒーを飲んでいると、マスターに話しかけられた。


「あ、はい」

そう返すと、マスターは私の方を向く。


「さっき、燐さんの同級生が一人も居ないと言ったでしょう。あれは理由がありましてな、実は同級生は他にも居たんですが、中学校を卒業すると皆島から出たんですよ」


そんな事があったのは、知らなかった。

ふと気になった事があるので、それを聞いてみる。


「でも、島には分校があるじゃないですか。なんで島から出ていったんです?」


マスターは深いため息を出す。

「……島の生活は不便、だったのでしょう」


確かに、マスターの言う通りかもしれない。

大きくなるにつれて、田舎よりも都会とかに憧れる……それに似た感じになるのだろうと。


燐が残った理由は、『島の事が好きだから』とマスターは追加して話す。


(燐ちゃん、離れていく同級生を見て本当は寂しかったのかな)


正直、島の子って結構仲良くしているイメージだ。

仲良くしていた人が離れていくのは、表面上は大丈夫になっていても心の奥深くでは暗い影を落とし続けるだろう。


「マスター、燐ちゃんの事お話ししてくれてありがとうございます。……後で、その事を話してみます」


▪▪▪


その後、私の家族の歓迎会が行われた。

豪勢な島の料理はとても美味しかった上、歓迎された事が嬉しかった。


「燐ちゃん、ちょっと話があるんだけど」

片付けが終わる頃、私は燐に話しかける。


「ええよ」


そのまま会場の公民館から出て、近くにあるブランコに二人は腰をおろす。


「話しってなんなん、ちーちゃん」

燐が聞く。


私はマスターから聞いたことを話す。


「あー……マスター話しちゃったんや」

そう、少し小さめの声で言う。


「本当は、寂しかったのかなって思って」

私がそう追加すると、燐は俯く。


「ちーちゃんの言う通り、やで。みんな島の外に出ていくの見て、涙が止まんなかった」

燐の手が震えるのが見える。


「時間が経てば寂しさが埋められる、そう思ってた……けど……」

燐の頬に、涙が見えた。


「燐ちゃん」

私は燐の手を握る。


「……私、決めた。この島に残る」


燐はその言葉に、顔を上げる。

「えっ……?」


「最初は高校生活が終わったら、島を出ようと思ってた。けど、島を大事にする燐ちゃんに出会って、一緒に居たい……そう思った」


「ちーちゃん……」

「これからずっと、仲良くしてくれるかな!」


燐は号泣しながら、「うん!」と言ってくれた。


▪▪▪


学校生活は、それはそれは楽しかった。

特に夏の時期は、海がプール代わりになって毎日泳いでいた。


燐とは喧嘩することもあったけど、すぐに仲直りが出来た。

……今までの友達よりも、燐と過ごすのが楽しいかな。


元はと言えば、父に着いていったのが始まりだったけど……

その判断は間違えでは無かったかな。


学校生活も、残りわずか。

―――あの時芽生えた友情は、一生大事にしないとね。

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― 新着の感想 ―
父親に連れられて始まった、離島での生活と、そこでの同級生との出会いが、とても生き生きと伝わってきました。期待と、不安もある中だと思いますが、温もりのある島の人々とのふれあいが印象的です。 島を出てい…
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