05イエロードラゴン
なんとも間抜けな姿。やはり町に移った方がいいのかも。面倒になってきた。魔山羊たちも移動させねばならないし。
ノイスたちも来たのだから、イエロードラゴンも近々退治されるだろうから。そう思っていたが、何日経っても倒されたという新聞の記ことも噂もなく、なにもない日が続く。
どういうことかと頭を横にした。戦闘には詳しくなく、駆け引きというものを知らないので彼らがどうおもってなにもしないのか不明だ。
賢ければ分かったのに。そこだけは歯がゆい。のんびりとした環境でそだったので策略とかは苦手なのだ。
「まさか、引っ越し先でドラゴンなんて、不運だ」
いい天気な日、買い物に行こうかと思い立ち財布を手に取った。最近、なんだか昔みたいなほのぼのとした空気が戻ってきたような気がする。
「あら」
そとに出て、少し歩くと見覚えのある男がこちらを目指して歩いてきている。何度も来たというが顔面に覚えがなかったが、今回は早めに会えたので覚えていた。
それでも部下とやらをつれてきたから肝心の顔はそこまで強く思い出せず。向こうもこちらに気つき、少し早めに歩いてくる。
ザッザッ、と砂を蹴る音に人気のない土地によく人が立ち入るようになったな、と関係ないことを思う。
「また会ったな」
「はい。こんにちわ」
「軍妃はいるか」
「いませんよ」
本当のことだ、家には居ない。不在なのは真実。
「お前は無防備に出掛けてるのか。軍妃はハウスメイドすら警護しないってか」
(訂正するべきかしら)
どの時点で、男と面識を得たのかは知らないが、己にたいして変な偏見を持っているのが感じ取れる。どんな悪女を想像しているのか、聞きたくない。
「あの、もう行っても?」
延々とヒノメールの悪口を聞くほど強くないから。直ぐに退くだろうという予想を裏切り、男は付いていくと述べた。友達でもないのになぜ。
変な男である。傭兵は理性のない獣という偏見を、がっつり抱いていてしまっている女は少し引き気味に、早足に歩く。
ついてくることはないと思ったのに無言でついてきた。軍妃のことでも探るつもりかな。というか、イエロードラゴンを討伐もしてないのになにをうろついているのか。女のお尻を追いかけるなんて。
*
「へ、変態、なの?」
「……だれがだ」
ノイスは、最初己に問いかけられているとは思わず、話題を振ってきたのかと思った。
「な、なん、なんでもございません」
相手が、変な趣向を持っていると察した女は、男を刺激しないように口を閉じた。数秒してから男はもしかしておれに言ったのか、と少し悶々としていた。
「おい」
「ひっ、あ、な、なんでしょう」
女の怯え具合にやっぱりおれのことかよ!と小声で言い、誤解を解こうと試みる。しかし、女は肩を前に戻して関わらないようにしよう、という態度だったのでどう言っても伝わることが無さそうだ、と今は止めておく。
覚えていろよと念じた。互いに距離を保ちながらも町につく。町について早々乱暴な空気がこちらに伝達してくる。町の人たちがヒソヒソと噂する。
「こええよな。まただぜ」
聞いているとどこかの傭兵と傭兵が言い合いをしていて、今にも互いを武器で攻撃しようとしているとか。
この町もこの街で小競り合いにより治安が悪化していて、どちらの方がマシなのか。でも、警備くらいは働いてくれるとヒノメールはメリットを脳内で書き出す。
それに、家に入られることもなくなる。周りの近所つき合いが面倒だけど。デメリットが突然現れてメリットをなくそうとしている。
「どこも荒れてるな」
男がぽつりと同じことを思って呟いていた。全く同感。でも、町の外よりはマシかもしれない。
魔牛たちを飼えるように小屋のある家にしないと。土地を探すには先ず物件を取り扱いをしている店に行かなくては。
「おい、あれ見ろよ」
「なんでここにいるんだ」
「ミスズィ・ノイス!」
町に入っていくと傭兵たちの無遠慮な視線と声が聞こえてきて、ノイスはその畏怖を感じとり唇を引き上げる。それを恐ろしいと身震いする男たち。
ここにはもっと礼儀のなってない傭兵が屯しているのに、なぜなにもしてない男なんて警戒するのか、小一時間問い詰めたくなる。
女一人の家に襲撃してきた輩の方が最悪な部類だ。それに、ドラゴンをどうにかしてくれるのも彼らの中にいつか生まれるかもしれない。
傭兵の込食いするお金は街に落とされて、経済的に影響を与えられる。持ちつ持たれつつ。ただし、街の人たちの本音はいてほしくないことだろうが。
「あなたは有名人なのですか?」
あまりに周りが驚くので聞いてみた。彼は首をかしげて「自分で有名人なんて言うのはおかしくねぇか」と眉間を深くする。
そうかな、でも、そうかも。自分で紅の軍妃と言うのはいやだ。恥ずかしくて名乗れない。
「でも、周りの方はあなたのことを知ってます」
「名は広く知られてるらしいな」
「強いってことですか」
「強いかは知らないが、そこそこあると思ってるな」
「そうなんですか……」
ここで一緒に歩いていたらこちらが一番目立つ。歩かなきゃ良かった。目立つのは本意じゃないのに。
これで街に入るなと拒否されるのは困る。でも、既に共にいるところを見られているので無駄なことだと分かる。
「どこまで付いてくるのですか?」
「適当についていくから決めてねぇよ」
「今からパン屋に行くんです」
「軍妃の家まで行くついでだ」
なんだかんだと付いてくる。もういいか、と諦めた。厄介なことになったと困りつつ、買い物を済ませていく。
パン屋で焼きたてホヤホヤなものを買い、その香りに顔を綻ばせる。ノイスはこんなに豊かな顔を見せる女と軍妃がよく生活できるなと不思議に思う。ただと同一だと全く思い至らないまま、買い物をどんどん済ませていく。
「傭兵同士の喧嘩だ」
「またかよ、何回目だっての」
男たちがうんざり顔で話すのを耳にする。やはり、住人は喧嘩があるのをいやがっていた。そんな小競り合いくらいで文句を言うなど贅沢な話だ。
「血の気の多いやつらだ」
男は他人ことのニュアンスで口にする。ノイスはどうなのだ。
「警備がなかなか来ないのね」
これだけ騒いでいても来る気配がないことに、かなり落胆。なにかトラブルに巻き込まれたとしても介入が遅いのでは、住む利点がなくなっていく。
ふう、と息をはく。買い物を済ませて元来た道を戻る。イエロードラゴンはいつになれば討伐されるのか。と、道すがらノイスに聞いたが討伐はされないらしい。
素材だけをほしいので完全に討伐は非効率だしな、と断言された。傭兵たちの独壇場らしい。腹が立ってきた。これからも家を荒らされるわけだ。
そんなのストレスで胃痛でも起こしかねない。ノイスは家まで来ると直ぐに帰っていく。
「案外優しいのね」
買ったりんごをお礼に持たせたときの、キョトンとした気の抜けた顔は可愛らしかった。
5日後、また傭兵が家に来たので槍で倒す。
「もう我慢の限界っ」
傭兵が100割悪いのは理解しているけど、イエロードラゴンさえせめてどこかへ行ってくれれば、こんな生活をしなくて済むのだと感じる。
魔動物に留守を任せて、奮起した。山を登る準備をして備える。洗濯物の様に干されている不届き者たちに、手を振って出発した。
「結構なところにいるんだ」
天辺だ、ほぼ。うんせうんせと登っていると途中で焚き火の跡が見えて、他の人も登っているのかとうんざり。
手柄を変に取られないようにしないと。登っていくとまたもや傭兵たちが集っている所を見かけて突っ切る。挨拶なんてするものか。
「おいおい、女がいるぜ」
「何しに来たんだ?」
こちらに気づくが、お互い不干渉でいましょうねと内心望む。せっせとさらに登ると男が二人は行く手を遮る。
なにか言っていて、わかることは女をバカにしていることだ。どうでもいいから退いて。しなる槍の出番かと拳に力を入れる。
「おい」
「……!」
(なぜここに!?)
運よくと言えないタイミングだ。後ろを向くとスタスタ歩いてくるミスズィ。ついてきたのかと一瞬警戒する。
(尾行には気付かなかったのに)
突然の男の登場にガラの悪い輩がギロリとにらみつける。そんなことでは怯むなどありえないと、男は鼻で笑う。
逆に殺気を男たちに当て、その殺気に当てられた男たちはびくりと体をいくさ慄かせて去っていく。お前の獲物にもう近づかないと言い残して。
だれの獲物でもないのだけれど。やれやれと呆れているとノイスがサクサクとこちらへ寄ってきた。
「家政婦が来るような所じゃない」
「心得ておりますよ」
「もしかして、あの女に命令されたのか?」
あの女ってどの女だ。




