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43土産と冷凍

振るヒノメールに彼は、笑って使えと催促していく。


「そのために持ってきたしな」


「え?そうなのですか?」


「そうだ。土産を買わせるんだぞと周りから言われてる」


「みなさんから?それは、買わないとですねっ」


余計にお土産選びに力が入る。


お土産屋に入るとノイスも共に選んでくれるという。


甘んじよう。


ヒノメールにとっても、やったことはなかった。


「あ、また例の二人を聞いているのですか?」


なにかに集中しているのを見て、察した。


頷く彼は面白いぞと勧めてくる。


自分もあの二人の進退は、気になっていた。


あのあと、優勝できなかった二人が今どうしているのか。


「絶賛喧嘩している。大喧嘩だ」


「でしょうね。かげりがでていた空気にもうどうにもできない亀裂、崩壊もするのでしょう」


「今回のことで、決定的になったわけだ」


お土産を手にしながら告げられて、然もありなんと首を振る。


「そっちもいいが、こっちなら大人数でも分けられる。こっちもいいな。両方買うか」


もう一つのお土産を手にした男の顔が、問いかけてくる時に近寄る。


「はい。では、それも」


相変わらず綺麗な顔だなと、少し動揺した感情を誤魔化す。


こんななんでもないことで動揺するなど、まだ大会の余韻が残っているのだろうか。


勢いでキスを手にしたけれど、彼は嫌ではなかっただろうかと実はずっと、気になっていた。


チラッと見る。


「ん?」


「あのー、手、洗わなくてもよろしいんですか?」


「手?……手の甲のことか」


お土産を買って外へ出る。


「はい……き、汚くないですか?」


「くく!はは!汚いわけがない。かなり助かった。あの場のいきおいでやるには勿体無いからな?」


「え、あ、そう、ですか」


勿体無いというのは、言葉を置いといて汚いと思われてないようで、安堵した。


「はぁ、ノイスさんに怒られるかもと思いました」


「怒るわけないだろ?光栄だと思ってるぞ」


そこまでではない、と笑う。


ヒノメールは恥ずかしくなる。


ノイスはその顔を眺めてきて、髪を一房掬い上げる。


今は魔導列車への道なので、人通りはあまりない。


「の、ノイスさん?」


「報酬の他に欲しいものはないか?」


急に顔が色気あるものに変わる。


流石は凄腕傭兵。


切り替えも、ものの見事だ。


「あ、あ、あの」


「どうだ?」


「私を追い詰めるとまた切り替わってしまいますので、気をつけて下さい」


つい、口から出た。


「さっきはかっこよくやってくれたのに、おれはダメなのか?」


「私達は偽物ですし、ノイスさん的にはなしなのではないのですか?」


「いや。そもそもお前の人柄を気に入って団に誘った。そのあとは違うと知っても、自宅で傭兵たちをなぎらはっているところなんて、いいなと思ったしなぁ」


「もうやりませんよ。そんなことっ」


傭兵団の施設が奇襲されない限り。


「確かに夫婦は偽装だが、偽装じゃなくなるのも、偽装を取っ払ってもいいだろ。だめなんて記載は契約にない」


「それは、そう、ですけど」


「別に急にということはない。ゆっくり変えていけばいい。お前がいやならなにも進まない」


「随分と余裕そうですが、もしや冗談だったり、私を揶揄ってますか?」


ノイスの様子に疑いが向かう。


「なにいってる?団に誘ったのは事実だろうが。それに、おれはなにかを強要したこともない。嘘もついたことはない」


男は薄く笑う。


彼は貴族ではないので、駆け引きをする必要もない。


ノイスは純粋に言ってくれているのかと少し信じたくなる。


「それに、大会でバカたちに絡まれた時におれを庇ってくれたときも、痺れた」


「あれは、そう言わないとしつこかったですし」


もだついているとポケットにいた魔コマドリが、顔を出す。


『私の夫に色目を使うのはやめてくださいね』


あの時の再現をされて、クチバシを摘もうとする。


ああ言わないと収まりがつかなかった。


尺度だ。


完全なる営業だ。


勘違いされるとは。


慌てて手を振り全身もつられて動く。


ヒノメールは魔コマドリのクチバシを軽く抑えながらなにか言わねばと考える。


頭を回転させて、言葉をたどたどしくなった舌で発した。


「ほ、ほら、魔導列車の駅ですよ」


駅が見えてきたので足が速くなる。


今回、魔動物達は見学しにきている意味合いでついてきたつもりなのかもしれない。


ただただじっとしていたし。


逃げるように、それ以上聞かれないように髪を無意識に撫で付けながら駅の中に入る。


( ふう、びっくりした)


「すぐに来るな」


真後ろに立つノイスは話しかけてくる。


もう先ほどの空気は飛散していて、いつもの彼だった。


それに内心安堵。


駅の中に列車が入ってくると、共に魔導列車に乗る。


乗り込むとまた、外の景色に夢中になってしまう。


何度見ても、魅入られてしまう。


何の変哲もない道。


しかし、それでも人や動物、木。


いろんなものがゆっくりと過ぎ去っていく。


徒歩では見られない光景だ。


なぜこんなに、ワクワクするのだろうか。


ノイスに聞くと、もう見慣れているから、そんな新鮮な見方はできないとこちらを見て笑う。


「果物を冷凍したものを持ってきた」


「氷魔法も使えるんですね」


「使えはするが、コレは売っていたものだ。出店に冷凍果物が売っていることがあるから、買ってみた。自分には買わねえから、お前用だな」


わざわざあの時間に買ってきてくれたらしい。


優しさに、笑みがこぼれる。


こんな人が仮の夫なのか。


自慢したくなる。


何故か。


書類以上の夫の筈なのに。


言っては失礼だし、契約的に言ってはダメだろう。


先程の熱のある瞳が思い出される。


思い出してはいけないのに、頭にこびりついて離れない。


それはどこか甘く、痛いものを胸にもたらしていた


ノイスをちらりと見るヒノメール。


目が合った。


ばっちりと。


「どうした」


「ひ!なんにもありません。ありません」


「悲鳴とはひどいな。くく!」


先程のことを言っているのは、丸わかりだ。


目をそらす。


彼は気にせず果物をべりべりと剥く。


剥くと出てくる、色取りの良い果実の部分。


それを手に、彼がこちらに手渡してくる。


「ありがとうございます」


「赤くなった顔に当てると、ひんやりして気持ちいいぞ?」


「赤くなんてなってませんから」


とことんまで冷やかしている。


気を遣っているのかもしれないが、気を使うのならば急に口説くのは、やめてほしかった。


心がむくれだすのを感じながら、窓の外を見ながら美味しい果実を口に入れた。

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