41王子たちの提案
癒しの体毛を堪能する男は、コマドリの毛を撫でる。
とてもうれしそうだ。
前々から、そんな片鱗があった。
撫でる手を止めない。
よほど魅惑的なモフモフだったらしい。
気持ちはわかる。
仲間同士で毎回、手入れをし合っているから、いつでも艶やかな毛を維持していた。
自慢げに踊っている時もある。
撫でるのを時間いっぱいまでするノイスに、コマドリも最後まで付き合っていた。
二人はウマが合うらしく、なにやらお互い目を合わせていた。
「はぁ?あいつらなんなんだ?」
二人で会話をしながら次の競技について話していると、例のお花畑夫婦が堂々とやってきた。
ノイスの苛立ち紛れの声音が、辺りに響く。
恥ずかしげもなくここへやってくる、その頭の緩さをどうにかしてきてほしいところだ。
何とか顔を整えると、彼らに対して向き合うように体を伸ばす。
王族の二人は、優越感に滲む顔をして、こちらへ近寄るとヒノメールらに笑顔を見せた。
「先程はありがとう。助かったよ。もう少しで大会から追い出されるところだった。お礼ついでに提案があるのだが少しいいだろうか?」
「普通に嫌だが?」
「そんなことを言わないでくれ。君たちがお人よしと言うのはさっきのことで理解した」
「側だけじゃねぇか」
小さく呟かれた言葉を聞き届けたヒノメールは、クスッと笑う。
「いやいや、君たちにとっても悪い提案じゃないよ」
「話聞かないなこいつ」
ノイスは目を鋭くさせて、王子バラトを睨みつける。
なにを言い出すのだと、ヒノメールたちは警戒し出す。
「私の妻と君の妻を今だけ交換しないか?」
「はぁ?」
「はい?」
二人揃って、声も揃えた。
王子はこちらの言葉を意に介さず続ける。
「君たちは一位だ。決まってしまっているよね?」
「それで、私たち!話し合ったんですの!」
王女エカチェリーナが、話に割って入ってきた。
「エカチェリーナ。話を邪魔しないでくれ」
「バラト様ってば勿体ぶるのですもの」
「いいから黙ってくれないか?」
夫婦喧嘩が始まってしまった。
だが、すぐに終わる。
「夫婦の大会は夫婦の交流だ。夫婦同士の活動も交流に入るだろう。だから次の競技にお互い協力しないかい?」
ふざけている。
王子は優勝しない。
王女は新たにいい男に近付きたい。
利害が一致したらしいと知る。
「いいわけないだろ。耳を引きちぎるぞ」
獣のように尖った声が、倦怠期夫妻に突き刺さる。
「え?え?」
あまりの鋭さと、ばっさりいかれる否定の言葉。
恐怖に目をキョドキョドさせていく男。
「あの、私ではだめでしょうか」
なぜかノイスに近付き、チャレンジする。
「イヤリング引きちぎるぞ、口を閉じろ」
「へ……ひっ!」
ノイスの声と視線もそうだが、ヒノメールが持っている軍妃の目を見てしまったのだ。
「こ、怖い!バラト様!」
「エカチェリーナ、その演技臭い芝居はやめようよ」
バラトはヒノメールの顔を見てなかったのか、エカチェリーナを冷たい声で宥める。
「ノイスさんに二度と、近寄らないでください」
ヒノメールは言うのなら今だと、効果的な瞬間にひと言物申した。
かなりダメージになったのか王女は後ずさる。
頼みの綱の王子も当てにならなかったのだから、そうなるだろう。
威嚇も込めてヒノメールらは、バカバカップルを睥睨し続ける。
ノイスは王子に対して黙れと告げた。
王子の言い草は、まだ話が通じる前提だ。
もうそんな時期は過ぎていて、ズレていると言わざるを得ない。
酷過ぎて目も当てられないのだが、今耐えねば粘着される。
さっぱりきっぱり断って、縁をぶった斬らなければいけないと思う。
ノイスと目で会話して、ヒノメールはバラトとエカチェリーナを再度見やった。
「聞こえませんでしたか?お断りしますのでと言いました。休憩したいので、話しかけないでください」
「夫人、待ってくれ。全てと言わない。一つの競技でいいのだ」
「ルール違反で、放り出されるに決まってるだろうが。少し考えれば誰でもわかるっつうんだよ」
段々言葉が乱暴になっていくのは、言葉が全く通じないからだろう。
通じない相手に、丁寧を心がける意味はない。
「ヒノメール。こいつらはダメだ。行くぞ」
「はい」
二人で揃って夫婦の脇を通る。
最後の最後に振り返ってエカチェリーナへ通告。
「私の夫に色目を使うのはやめてくださいね」
待ってくれ、待って、との二重の言葉が聞こえたが決して足を止めなかった。
ノイスもヒノメールも、止まっては終わりだと本能で回避していく。
走ってついてくることはなかった。
もし、彼らが平民ならばついてこられていたことだろう。
王族でよかった。
それだけだったが、その部分にだけ安心を感じる。
他の部分では、王族にいてほしくない部類ではあるけど。
ノイスは気配で遠のくのを確認してから、己の頭を手でグシャリとした。
「あいつら、日々ダメな方に進化してないか」
「してますねえ。片方は焦り、片方は冷めた相手を捨てようとして、最悪な相乗効果が起こってますよ」
「なにが夫婦交換だ。この大会の根本を逆さにする提案をするやつらはもう理性がない獣だろ」
そこまで傭兵に合わせる二人は、ある意味凄いかもしれない。
彼とて色んな人と接したことがあるだろうに、その中でも飛び抜けていると言っているのだ。
「あいつらは放って次の競技について、説明するぞ」
「了解しました」
頷きノイスの声に集中する。




