38不正だと言われる
参加者たちに肩書きで、押し込もうとした。
それは、参加者達にとって意味の無さないもの。
こんな大会が始まって少ししか経過してない時間に、そんなことを言うなんて、よっぽど悔しかったのか。
それとも焦っているのか。
どんな理由があっても、一般人に王族だからと理由を押し付けるなど、道理が通らない。
貴族だからといったところで、ここは他国。
権利も権力も届きはしない。
(言うのが思っていたより遅かったのか、早かったのか)
ヒノメールは冷たい目をしながら、そう思った。
今のこの空気をどうしてくれるのだろう。
絶対に収拾をつけてくれない。
完全にやらかした。
そばにいる姫をほったらかしにして。
王子はただただ、ひたすらに文句を言いたいのかも。
それを言って順位が変わるわけもなし。
二位でもないし、最下位だ。
ノイスらに不正を指摘して、大会をやり直しさせようとさせているのかもしれない。
陳腐な企み。
それとも一番の脅威であるこちらを、はめるために。
出場停止にさせようとしているのかもしれない。
「おやめください。次の競技に出られなくなりますよ」
他の大会主催者の人たちが駆けつけて王子王女カップルを囲む。
そうすると、さらに叫ぶように言い出すバラト。
「横暴だ!」
エカチェリーナは他人事のように髪を触っていた。
夫の面倒を見てほしい。
他人じゃないのだから。
宥めるように係の人たちがバラトを連れて行く。
妻の方は置いていくのか。
みんなが王子を見送ると、今の出来事をざわりざわりと話し出す。
「うわあ、エカチェリーナさんが来ましたよ」
「さん付けする価値はない。無視しろ。目を合わすな。呪われるぞ」
「呪われますね、あれは」
こちらを焼けそうなくらい見てくる本人を確認して、恐ろしい話を聞いたあとの不快感が体に響く。
そうしていても、呪いの体現者がこちらに来た。
男しか目に写っていないみたい。
こちらの事は全然見ない。
最初の方で見られてはいたから、知っているだろうけど。
くねくね、うねうねとした動きで、こちらに来る女。
夫の前に立つと、媚びるように声を出した。
「うちの夫が失礼をしましたわ」
既婚者として出してはいけない類。
今夫が連れて行かれたのに、どういう神経をしているのか。
嫌悪が走る。
ノイスは舌を打つ。
話しかけてきたけれど、彼は無視した。
決して口を開かず、目を合わせない。
「なにかお詫びを」
だが、相手は逃げない。
「あ、お茶などいかがですか?ホテルに質の良い茶葉があるんですの」
それは二人という意味なの?
愚問かなと思ったけど、突っ込まずにはいられなかった。
勿論、彼は答えない。
何を話しかけられても、硬い意志でなんとしても話さない。
そうしていれば、いつか去るだろうという希望的観測。
ヒノメールにも気持ちはわかる。
自分も今すぐ遠くへ行きたい。
話しかけてもラチがあかないと理解したのか、こちらへ話しかけてきた。
「えーっと、妹様?」
それはノイスを相手にしていた時と違い、ずいぶんと優越感に浸された高飛車な顔をしていた。
妻であるし、わざとなのだろう。
自分も無視するべきかな。
あれこれと考えていると、手にぬくもりが。
彼の手だった。
どうやら、答えるなと言っているらしい。
それもそうかとうなずく。
二人は少しずつ、相手から距離を取る。
まるで、獰猛な生物に出会ったときのように、動く。
何の間違いもない。
彼女は関係してはいけない生物だ。
まかり間違って、妻という言葉を使ってしまえば、彼女の思う壺。
嫌なことか、最低なことを言われるのがセオリー。
よく小説とかなどでも、マウントという言葉が出てくる。
それを知って使用している王女は、野生動物だ。
ここは夫婦の大会。
夫にホテルへ来るように誘うなんて、倫理的に……などと関係なく。
人間と思ってはいけない。
王女はそれでも距離を縮めようとしたが、何とか距離をとって、逃げようと足も速くなる。
大会の主催者の人たちは、次の競技に気を取られている。
助けを求めるのは難しい。
やはり、大会出場中止にされるのがお似合いだ。
世の為。
次の大会競技でされるかもしれない。
ノイスはそう思ってなさそうだけど。
なければ、情報を集めたいのだろう。




