37夫妻
いつも舌戦。
いつもいつもそうだった。
なぜなら、いちいち戦っていては消耗するから。
物資も資金も圧倒的に足りなかった。
押し付けるならせめて、お金で情報ぐらい欲しかったと思う。
本当に何ももらえなかったのだ。
食料も。
終わった後にくれると言われた時は、怒りで脱力感があった。
彼らはそんなことを考えもしないのだろう。
祝賀会など、つまらない。
戦場にいた人が誰も参加していないのに、なぜパーティーに参加しているのだろう彼らは。
誰一人、支援もしていない。
自分の顔さえ全く知らないものたちだけ。
意味がわからない。
だからこそ、欠席したし、爵位だってもらいたくなかった。
疲れ切っていたし。
ヒノメールはまた思い出す。
きっと彼が近くにいるからだろう。
服からはとても爽やかな香りがしたが、服装を見ていると、やはりあの時のことを思い出す。
それは彼と対峙していた思い出。
ヒノメールは彼の匂いを知ってしまったから、なんだか恥ずかしくなった。
あの時と違って、立場も何もかも違う。
だからこそ今は、人に囲まれて幸せだ。
改めて、誘ってくれてよかったと思う。
汗をかいていないところを見ると、余裕そうだ。
重いと言われたら、おそらく、いや確実に殴る。
殴る前に殴ってしまうかも。
ノイスは軽く走ると、そのまま座れるところに向かった。
2人はそのまま一緒に座ると、夫婦たちがいるところを眺めた。
相変わらずの夫婦は揉めている。
というか、王子に姫が抱っこできるのだろうか。
王子はそんな重いものを、持ったことがないと思うのだが。
王子は拒むと思う。
大会の趣旨を理解できていないと言われるからやるだろうけど、ずっと持つのは無理だろうなぁ。
ペンより重いものを持ったことない彼が、どのようにするのか期待大。
「お、始まるようだぞ、行くか」
声をかけられて、頷く。
「はい。楽しみですね」
本当にそう思う。
「優勝は確実だ。体力の差が違う」
「それもそうですね」
ノイスが相棒なので、安心して全力を出せる。
「あのペアは最下位かもしれない。やる気が時間ごとに落ちていってるしな」
ノイスはウキウキしている目を、輝かせている。
会場に向かうと夫婦たちは揃っていた。みんな休憩できたのだろうか。
自分たちは休憩できたので、やはり余裕だ。
並んでくださいと言われたので、並ぶ。
レースは既にある道を使う。
審判がいて、その横に並ぶ夫婦たち。
二人も並び、主催者の声とともにレースが始まる。
またもや抱っこされるけれど、流石に本番は意気込みが違うので何とも思わずにいられた。
一瞬で一位に踊り出る。
最初から分かり切っていた結果。
すぐにゴールについた。
誰も敵などになり得なかった結末は、苦笑しか浮かばない。
二人で互いに、まあこんなものだなと会話しているとその空気を引き裂く、無粋な声が聞こえた。
「インチキだ!」
「ああ?」
体に悪い声が出てきた。
横から聞こえたので夫である。
不機嫌そうに答えるのはインチキと言われたからで、ヒノメールとて言われたら怒る自信がある。
とても気持ちが共感できるので隣に佇みながら、言った相手を見やった。
例の王子バラトと姫エカチェリーナ。
来るかなと思っていたし、今かとも思った。
意外と早かったな。
そんな感想しか出てこないくらい、二人のことを忘れていた。
ノイスは、わかっていたのだろう。
彼は相手を睨みつける。
普通に戦って、普通に走って普通に細工だってしていない。
正々堂々。
だから、機嫌が悪いのだろうか。
審判たちが、慌ててこちらにやってくる。
止めようとするが、バラトは文句を続けた。
「この大会は、公正ではないのではないか?」
彼には隣にいる鬼のような顔がわからないらしい。
背筋がピンとする。
他の夫婦たちも困惑している。
不正をしていないのは丸わかりなので、王子たちの難癖が理解できない。
空気はそう言っている。
主催者たちは、やめてくださいと王子たちに注意する。
王子たちは、自分たちは王族だぞと関係ないことを言い始める。
参加者たちは、何の関係があるの?と言う顔をする。
不正と王族のことについては、何の関係もないなぁ。
自分でもわかる。
それは言ってはいけないことだった。




