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33盗聴

絵姿も出回ってないから、本当に知らずにいた。


パーティだって出てないのだから、知らなくても不思議ではない。


「祝賀会にも出ていませんし、貴族をやめたので知らないままでした。知っておかないといけなかったみたいですね」


情報はある一定のものを得られれば、それ以上耳に入れることはなかった。


「知らなくてもいいだろ。知っても飯が不味くなるだけだ」


なんて、慰められて思わず嬉しさで目元も緩む。


「そうですか?はい、わかりました」


答えた。


にこにこと笑みを浮かべて魔道式のテレビを見やる。


ノイスに見せられているのは過去だが、実際にあったことだ。


その映像が因縁の相手だろうと、写るものを見るのは面白い。


二人はなにやら話している。


『バラト様、わたし疲れましたわぁ』


エカチェリーナのくたくたな声が聞こえてくる。


『明日まではゆっくりできるから、休むといい』


バラトはため息を吐きそうな声音で、不機嫌に述べる。


『違いますの。疲れたので買い物に行きたいのです』


エカチェリーナはさらりと言う。


「ん?」


会話が繋がらない。


「意味わかんねぇよな。疲れたら休めばいいのにな」


「これはいわゆるおねだりなのでは?」


「そうだな。そういうテクニックもあるな。だが、あれがそうとは思えない。相手が少しイラついている」


「イラついているのなら、おねだりは失敗しているのではないのですか」


「失敗だ。大失敗。エカチェリーナは天然で疲れたから店に行きたい、という本音をそのまま、口にしてる」


二人で語り合うそれは、ツッコミどころが多い。


「こんなテクニックが世の中にあるのですね」


「最初は良かったかもしれないが、今はもう通用しなくなってるみたいだな。はっ、笑える」


そう伝えられる。


ノイスはヒノメールに色々解説してくれた。


わかりやすくて、恋愛に疎いので助かる。


さらに進めるとエカチェリーナは反応が鈍いバラトへもっと反応をよくしてほしいとわがままを言う。


それは、倦怠期に見える。


「もうですか。早過ぎませんか?人のことを戦場に送っておいて、結末がこれなのですね」


心底力が抜ける。


行っても行かなくても、こうなるだろうと簡単に予感できた。


これならば、行かなくてもよかったのではないかと思うが、下位貴族の辛いところは否を言えないところ。


だから、貴族じゃなくなったのだ。


やめてよかったと心底思う。


今も探しているというが、探してもう家族ではないヒノメールをどうやってなにかをやらせるのか不思議。


ただの民間人。


今や他国民を。


無理だ、動いても。


どのようにしても動かせる権利を失っている。


どのような脅しにも屈しないし、親も他国に居る。


ノイスたちだって傭兵なので人質になり得ない。


逆に人質にされるのがオチ。


「お、姫の方が外へ出た。出ても買い物なんて満足にできねぇんだがな。出店も明日から力を入れてて今は特にやる気のない店が適当に暇つぶしで出してるから、いまいち活気もねぇんだよ」


「詳しいですね」


「ああ。出店のやつらや地元民に聞いた」


「い、いつのまに?そんな時間ありましたか?」


「大会に出るって知ったらみんな快く色々教えてくれた。夫婦の肩書きは最強らしい」


「ノイスさん、早速使い倒してますね」


話し始めたら彼がこちらを熱心に見てきて、首を傾げる。


「なあ」


「はい?なんでしょう」


「ノイスって言ってみたらどうだ」


「え、言ってますけど……」


「名前を呼び捨てにしようなってことだ。軍妃モードじゃ、名前呼びを堂々としていただろ」


と、問われて首をふるりと振る。


「さん付の方が、その。夫婦っぽくないですか?」


「正論言うじゃねえか」


少し納得した目をしたが、やはり呼べと再三言われる。


「そ、その。恥ずかしくて無理と言いますか」


「お前は本当に、ギャップが乖離しまくってるな」


「ははは、はぁ……いえ、その、変わるときは気分がとても高揚しているみたいで、無敵のような気持ちになるのですよ。なので、つい……そういった感じになるのです」


謝らない。


謝っても、またしてしまうことは理解しているので。


ホテルの中で引き続き画面を眺めていると、ノイスは違うボタンを押した。


「それは?音楽?」


「ああ。部下たちが作ったのもある」


「多才なのですね」


「おれの作ったものもある」


「聞いてみたいです。聞いたら少しはノイスさんの心が、覗き見れるかもしれないですし」


などと、披露してみた。


「知りたいのなら、おれに直接聞けばいい」


「聞いても上部だけかもしれないので、ちょっとそれは」


「お前、少しは言うようになったな」


「え!?な、どこがですか?どこら辺ですか」


「無自覚なのか?いや、軍妃のときの口調や内容を思い出してみれば、なにも変わってないのかもしれないな。それに、初めらへんに会ったときは気軽に名前を呼んでた記憶があるんだがなあ?」


「それは……え?そんなの無効じゃないのですか?あのときは敵同士でしたよ」


それも、戦ってホヤホヤだった。


直ぐじゃないけど、記憶的には忘れたくとも忘れられないほど、何度も何度も対峙したのだ。


警戒して口調が敵に対するものになるのは、当然なのではないか?


それに対する、警戒が顔や態度に出るのは当たり前なのではないかと、思うのだ。


ノイスはくすくすと妖しく笑う。


楽しそうでなにより。


「仕方ないですよね。あなたもみなさんも会ったときは私のことをかなり色々言ってましたよね。お互い様なことなのです。わかりましたかっ?」


念押しする。


さらに彼は笑う。


誤魔化すために、音楽のスタートボタンを押す。


押したら箱から音楽が流れてくる。


優雅な音楽が聞こえてきたので、耳を澄ます。


「魔導バイオリン、魔導打楽器が多様されてますね」


「魔導楽器は触ったことがあるか?」


「いいえ。うちに、そんな余裕はありませんよ」


苦く笑う。


買う余裕も触る機会もなかった。


「うちにあるぞ」


「ウチニアルゾ??」


打楽器はともかく、魔導バイオリンはお高いと思う。


「手作りして作ってるやつもいるから、値段で買ったわけじゃないものもある。うちにそういう経緯で置いてあるんだ」


「凄すぎます。触りたいなぁ」


独り言に近いつぶやく。


彼が触ればいいと帰ったら、楽しみができたなと嬉しくなる。


「ほ、本当にいいんですか?本当に触りますよ?弁償とか言わないですよね?約束ですよ!約束してくださいねっ」


何度も言うと彼は「わかったから」とヒノメールの顔を押し込むように離した。


手を繋ぐときはぐいぐい来たのに、顔を近くするのはご遠慮したいと思っている行動に、目をぱちぱちする。


「えっ、なぜ顔を後ろに押すんですか?」


「近いだろ」


「夫婦なら普通だと」


「そんなのわからないだろ」


「ノイスさんのことが一つ、わからなくなりました」


しゅんとなる。


「待て。おれはわかりやすい男だ。例えばそうだな」


言われて待つこと十五秒。


何も言われない。


答えられないノイスに、ヒノメールはこの空気をどうしようと悩む。


なにかしら助言したり、補助したり。


「例えば」


(あっ、やっと思いついた?)


待つこと二十秒。


やはり出てこなかった。

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