32魔導列車
話を聞いてもらうのはとても不思議な気持ちがした。
誰も聞いてくれない方が多かったもので。
野蛮な女だとか、野蛮な令嬢だとか、野蛮な男爵だとか散々言われていたみたいだが、そんなものはどうでもよかった。
無事に家に帰れるだけでよかったのだ。
「おれを夫として扱えばまた違った気持ちになれるかもしれないな?」
「そういえば、私たち夫婦でしたね。言われないと忘れてしまいます」
「夫婦どころか恋人のふりさえ普段してねぇからな。仕方ないことだ」
普段そういうことをしてないので、言われねば夫婦だとか結婚しているだとか、秒で忘れる。
一々言っておかねば、難しい。
この大会、無事にやり切れる自信など始めからなかったのだ。
今もやり切れるとは思ってない。
ノイスはどうやって大会を進めるのかと確認のために足を動かしつつ、質問する。
「あのお、ちょっと色々聞きたいのですが」
「魔導列車の時にも聞けたと思うが、やっとか?」
景色や国外ということもあり、わくわくで話しかけても違和感なく過ごせて、質問するべき時間が取れなかったせいだ。
からかうように聞いてくるノイスにヒノメールはポカ、と彼の胸付近を軽く叩く。
「あ、すみません!」
初めての行動に慌てて離れようとする。
謝りながら後ずさるが、彼は手を離さないのでちょっとしか離れられない。
「気にするな。お前も少しずつおれに親近感を感じてくれて安堵してる。もっと気安く接してくれ。他のやつら同様にな」
「そ、そっ、そんな」
「今は夫婦だ。むしろそうした方がいい」
相手は口元をゆるりと上げ、得意げにしている。
それを見たヒノメールはちょっと呻く。
「す、少し考えたいので待ってもらえませんか」
「考えるも何も明日から大会なんだから今やらないと意味ないぞ?」
喉を震わせて笑った男に確かに、と従うしかない。
今やらなくても、手を繋いだり夫婦の当たり前を大会でしていかねば、その時に絶対に行わなくてはならないのだ。
「ヒノメール、頑張ってくれ」
「そこを初々しい妻として設定すれば、誰も違和感を抱きませんよね?初々しいならキスや手など繋げなくてもおかしくないですよね」
「大会で優勝を目指したい」
「うっ!」
真っ赤になるのを止められない。
「こ、こうなったらっ!ふん!ふん!ふんんっ」
息を吐いて、吸う。
「あまり力を込めると明日に障るぞ?……は?まさか」
彼が見た先にいたヒノメールの目はもう据わっていた。
「軍妃モードか……?無茶をするっ」
苦い口調で跡を残すノイスはかなり追い込みすぎたなと独り言をぽつりとこぼす。
「あなた、これで満足かしら?」
「まあ、初々しい新妻よりも明日の大会の優勝には近付いたがなぁ」
なにか言いたげな男の視線は無視する。
槍がないのでキツネたちが今持たせてくれた棒を手にくるりと回す。
ステッキをかつりと地面に落とす。
杖先を地につけながら、ノイスへ手を伸ばすと彼は察して手を差し出してくる。
「どう?」
「色気もなにもない」
「当たり前でないの。私達は愛し合ってないのだから」
ふん、と鼻で笑わう。
「じゃあ、夫婦らしくそれらしい空気出せよ」
もう初々しくないので、ノイスもはっきり物申す。
ずっともだもだして、手を繋がなかったのでそろそろどうしようかと悩んでいたので、この状態になりよかったのかもしれない。
「ノイス、行くわよ。最後のポイント」
「呼び捨てとは随分跳んだな」
「あなたが距離感を詰めていいと許したんじゃない。もう忘れたの?」
「嬉しいことのはずなのに、嬉しさが薄い」
なにか色々言っていたが、ヒノメールは聞かずにずんずんと行く。
「ヒノメール、早いぞ」
「優勝目指すのなら早歩きでも遅いのよ。傭兵の足腰を今発揮しなさい。遅いわよ」
「積極的なのはいいが、うおっ」
ぐいっと引っ張られたノイスは、サクサク進むヒノメールに苦笑していた。
ポイントを過ぎたのでホテルに戻る。
ノイスが最先端の魔道具である魔導テレビと呼ばれるものを手にしていたので、それを見せられた。
軍妃モードが解けた自分が気まずげにずっとノイスを見ていたから、気を使ってくれたのかもしれない。
「それってテレビと呼ばれているものですよね?」
「そうだ。これは今小型化が進んでいる最新の商品だ。仕様を確認しろと無理矢理手渡された」
「そんなものを無理矢理渡されるのってすごいですよ。試供に参加なんて、なんだか憧れるというか、そういう体験してみたいです」
「今してるだろ?」
「いえ、それはノイスさんの近くにいたからで、わたしだけならばテレビという魔道具なんて使えなかったですよ」
「そうか?普通だろこんなの。好きなだけ見ればいい。妻だしな。特権使え」
「つ、妻……!」
照れた。
唐突の発言に、顔に手を当てて熱を冷ませる。
しかし、ノイスはこちらの反応にもうからかう態度はせずにテレビを起動。
「お前を追い込んだら急に変化するから、扱いには気をつけないとわからされたしな。今後も微調整していくことにした」
テレビをつけた先に写るのは見覚えのあるような、ないような二人。
「これは録画だから今の映像じゃなくて、過去に撮影したものになる」
「そ、そうなのですか?心臓がドキッとしました」
ヒノメールはやはり見覚えのない二人を見る。
「だれですか、この二人?」
ノイスは「知らないのか」と一言。
何がだろう。
「こいつがお前を戦場に行かせた最大の原因で今も何故か捜索願いをかけた張本人。王子バラトと王女エカチェリーナだ」
「えっ!?こ、この二人が?」
知らなかった。




