30夫婦の大会
晴れ、のち。
「わああ!」
「上を見てばかりだと転けるぞ」
あまりに不安定な様子にヒノメールの腕を掴む男は、軽く笑う。
「あ、すみません。でも、すごくてついですね!見てくださいよ、あれ」
指をさした先にあるのは、花が包まれた氷のようなものがふわりと浮く光景。
「あれは……えっと花氷の種飛ばしっていう風物詩らしいですよ」
ショーユー地方で夫婦の大会に出ることになったと知り、二ヶ月後の今日。
「ああ。そうらしいな。夜は夜で夜の花が飛ぶらしい」
「みたいですね。夜に出ますね」
「長閑だから襲われるってことはないと思うが」
「あったらそれは単に、違う要因のトラブルですよっ」
「あのトラブル能天気頭の、中花畑王族が出るんだぞ?あの二人の命を狙った奴がいたとしても驚かない」
「まあ、そうですね。私も彼らにはいい感情はないですし」
「そういうことだ。あの国はめちゃくちゃだしな。色々言ったがお前は楽しめ」
などと、優しく言われてしまえばハイというしかない。
「ノイスさんも、私を気にせず仕事してくださいね」
「ああ。だが、巻き込んだ分は付き合う」
ヒノメールの言葉に、目元を柔らかくして笑う。
二人は魔法列車に乗ってきた。
その間、お弁当を食べたりと楽しい時間を過ごせた。
国外には移動するためにしか行くことはなかったので、色々と楽しむことはなかった。
歩きだったりして、魔法列車には全く乗ってない。
「列車に乗るのはあまりなかったのですが、すごくよかったです」
「移動は魔動物を伴ってたから、列車には乗れないよな」
「はい……まだ動物の乗車は犬しかダメらしいので」
「次は丸ごと借りるから安心しろ。今回はだから小動物になってるんだろ」
指摘されたからか、持っていたカバンから魔動物たちが顔を見せていく。
「ずいぶん大所帯だな」
「彼らは過保護ですので」
船を張って自慢の顔になる。
うちの子たちは優しいのだ。
撫でながら会話。
会場へ向けて出発していたので、受付へ。
受付には夫妻の不参加と、夫妻からの推薦状。
手渡されていたので、ヒノメールは変更ができたことにホッとした。
ダメだと言われたら旅行だけになるところだった。
「最初は軽いものでよかったです」
参加する大会の用紙をもらう。
中身を見るとそこには【スタンプラリー】と書いていた。
優しい難易度でよかった。
「スタンプラリーか。先に下見しておいて効率よく回るか」
「ノイスさんは例の人達をどうしたいのですか。優勝させたいのですか?優勝させたくないですか」
「どちらでもいいが。できたら調子にのらせたくない」
優勝させたくないらしい。
「ここで優勝すると、なにか発言権があがるのですか」
「そうだな……経歴には残る。人気にはなるが、王族として見た時はその価値はあまりないが」
「王族で仲がいいのはあって当然が国民感情でしょうしね。仲の悪い王子夫妻など、未来を不安に感じるのではないかと」
ノイスはからりと笑う。
「そりゃそうだ。おれも険悪な国に居るのはごめんだ」
同意とヒノメールも頷きスタンプラリー、と楽しい気持ちになる。
スタンプラリーというものを詳しく教えてもらいながら、周辺をあるくことにした。
結婚して苗字が変更されているので、王子らにバレる可能性はほぼない。
相手は名前くらいがうろ覚えで、ヒノメールには影も形も会ったことがない。
知れる余地がないのだ。
一周回って土地勘を得てから二人は滞在先に行く。
予め一つ一つ部屋を取っているからと伝えられていたので、一部屋に二人という恋愛小説のようなことも起こらないなぁ、と笑った。
「どうした」
ラウンジにて二人で話す。
「いえ、小説じゃトラブルがあってホテルは一部屋しか借りられないから。二人で泊まろうという展開が多いのに、起こらないなって面白くなったので、つい」
男は女のくすっとした理由に納得して、起こるわけがないなと足を組む。
「今まで数え切れねえほど色んなところに泊まってきたがそんなトラブルはないな」
日程調節をミスして、ホテルを取るのを忘れて、ということもしないらしいのでトラブル回避になっている。
「普通はそんなものですよねぇ」
「あぁ。しいていうならあの王族カップルが起こしそうだがな?」
ヒノメールは確かに……と深く賛同。
「大会ものんびりしない人達かもしれません」
彼らは傲慢さをなくしていないからこそ、なにかやらかしそうだ。
今までお膳立てされてきた人たちが、自分たちの力でしないといけないことをやれるとは、到底思えないんだけどね。




