03スローライフin軍妃
(だれなの)
本気で分からなかった。どうやら自分を尋ねてきたみたいだが、知り合いでもないし、でもこちらを知っているようでこんなにがらの悪い男、知らない。
不審者だ。家にあげたくないが、何度もこられたくないので名を言わず誤魔化そう。
ヒノメールはのほほんとしていると自他共に公認されているので、ノイスの顔も名前も覚えなかった。
言葉で戦ったり、槍術をやったりと忙しく夜営などで神経をすり減らしていたのでそんな余裕はなかった。おまけに敵を目の前にしてその会話をおぼろげにしか覚えていない。
高飛車を演じるので手一杯な状態だった。家にあげたあとはひたすら待つという苦行。
ノイスという見知らぬ男はなにを目的に着たのだろうか。デビュタントに出てない女は名は知られているが顔は意外にも知られておらず、化粧で派手にしていたので素の顔は余計に知られてない。
共に戦った仲間でさえ。平穏に暮らしたいから派手に勤めあげた。知られていなければだれも気にしまいと。
待たれること二時間、まだ帰る機会はない。いい加減帰ってほしい。
ノイスは傭兵と言い、先のたたかいでこんな地域に飛ばされた女を傭兵としてスカウトしにきたのだという。
内心迷惑な話だと眉をひそめた。どのみちうなずくことはない。
はて、傭兵か……確かに傭兵がいたのは覚えている。それがここにいたとして、答えるものも否だけなのに。
たたかいの記憶はスローライフに必要ないので忘却しかけていた。もう終わったことに使う脳はない。
「そろそろ支度をせねばなりませんので」
一言言って帰りそうにない男から離れた。魔牛から乳を絞り新鮮な牛乳を確保したり、乾いた洗濯物を中に入れたりとそこそこ忙しい。
ちまちま動いているのを男は中から眺めていたが太陽が沈みかけている時にもう長居は無理だと判断したのか立ち上がる。
また来ると言い残して扉を潜り去る。いいえ、もうこなくていいですと伝えても驚くだけでムスッとした顔をして再び歩き出した。
「あ、反抗したらいけないのかも。もう私は敵でもないし」
家を安定させたくて拒否したが、あの人は傭兵で戦闘のプロ。怒らせてはよくなかったなと反省。
*
ノイスはのほほんとしているのにしっかり意見を述べる下働きの雇われた女に暫し感心していた。
主人なのか友人なのかは知らないが軍妃を思って言っているのだろうと笑う。あんな高飛車でも毒舌な女でも慕われるのかと思った。
「スカウトは難しいかもしれねぇな」
守る対象がいる場合危険な仕事など行かないだろう。帰ると深夜だったのでそのままばさりと服を脱いで目を閉じた。
男が帰った扉を見て肩の力を抜いた。今思い出しても敵将のことなど名前くらいしか知らなかった。
相手のことを調べられる人員もいくさで成り上がった貴族でもなしにいるわけがない。お鉢が回ってきた時点で旨みもないたたかいだったから手伝ってくれる人も居ない。
王に届くかは分からないがしろうとなのでたたかい方を指示してくれという手紙を送っても帰ってくることはなかった。
完全に王は現場任せでこちらが死のうと生きようと気にしてない。
なので、位をあげるからと王のいる城に招かれた時は早とちりしていくさを仕掛けた主犯としか思えなく、敬意もあったものではない。
私利私欲の簡単にいくさを命じる馬鹿だとついていくなど滅相もない。ついていけばそこは死地だ。切り捨てることを即するような主についていくわけがない。
「次代の王も王妃もぜえったいに無理」
色恋沙汰で人を巻き込んでおきながら謝罪もなかった。せめて手紙でもいいから代筆でもさせられたのに。
二人は今蜜月なので人を代償にした婚約期間でこちらのことなど記憶にも残ってないだろう。
ヒノメールは結婚ができなくなったのに原因ができてしまう理不尽にため息を吐いた。結婚できなくても家族と暮らせるので羨ましくはない。
「でも、私にも結婚式の願望くらいはあるのに」
こうできたら良かったな、とか。将来は好きな人と結婚して子供を産んで、と。だれしも叶えたい夢があるのに原因たちにはなんのお咎めもなしか。
「はぁ、一人だと考えることも増えちゃう」
ぐるぐると鍋をかき混ぜて気を紛らわせた。そうだ、たまには運動でもしましょ。愛武器を手に取り、外へ軽やかに飛び出した。
彼女の運動とは前よりも使いやすくなった槍を使った体の体操。本人はスキル開花という知識なく、ただ軽くなった、振りやすくなったなどという感覚でしかない。
「はぁああ!」
──ブン
「えいっ」
──ブオ
「ふんっ」
10分程で終わり汗をかいたのでシャワーを使う。
「気分転換に町でお買い物しよう」
久々に買いだめができそうなので頬を緩めた。




