27不審なもの達
感謝祭が終わったあとの空気感には名残惜しさが漂う。
ヒノメールはいつものように魔動物の横を掃く。
落ち葉が落ちたままでも彼らは気にしないし、食べてしまうがいつもの習慣でたまにする。
「メェ」
「起こしにいかないのか?それは、結婚してても寝室に行くのは違うと思うよ」
魔羊に問われて、とんでもないと手を振る。
きらり。
指先にハマる指輪が目に入ってしまい、ウッとなる。
先日、ノイスから告白されて婚姻届を役所に届けられた。
届けて受理されているので、名ばかりの妻となっている。
特にそれ以降、相手からのアクションがないのでヒノメールも変わらない日々を、送らせてもらっていた。
恥ずかしさというより、困惑が占めている。
ふりだから当然かと、思い直す。
「また、助けられてばかり」
この国に誘われて今では感謝している。
次は祖国に連れ戻されないように、婚姻まで。
恩を彼へ感じるだけにとどまらず、なにも返せない身がもどかしさを感じるようになる。
「なにかお返しを」
「ギッ」
肩に乗る魔カメレオンが答える。
「朝に起こす?だから、妻であるけど妻じゃないからだめだって」
みんなノイス推しなのか?
「それなら、肩たたきとか?槍の取っ手ならうまく使えるかも」
「おれの肩が砕ける未来しか、浮かばないんだがな」
相談をしていると突然、発言聞こえてしまう声。
「のわ!?」
音もなく現れ、反射的に箒の先を振り払う。
「足音させて、ください!」
足音が聞こえなかった。
「今の、おれじゃなかったら確実に青あざできてたぞ?」
確実にできていたかも。
「そ、それは、とりあえずすみません。でも、そちらもかなり悪いです」
彼はヒノメールの耳元で囁いたのだ。
至近距離などという話ではない。
近過ぎ。
「耳に息が届くのは、隣人としての距離感ではありませんから」
「いいだろ。奥さん」
「奥さんではないです」
「面白いから許せ」
からかっている。
冗談でもやるとは。
この、箒でぶっ叩いた方がその思考を消去できるか試してみるのも、やぶさかではない。
「すぅ」
「冗談に構えるなって。謝るから、ほら、これ買ってきた。機嫌なおせ」
「む」
箒を持ち上げて、上へ振り下ろす動作をし始めたヒノメール。
その目前に突き出される紙袋。
紙にはおしゃれな文字で『ジュルホウト』と描かれている。
「これは」
「最近新作を発売したパンだ」
「え?限定の?」
「女の情報も侮れねえ。ああ。並んだ」
「並んでないですよね」
「まぁな」
彼ならば予約して買える。
「でも、ありがたくいただきます」
「耳をくすぐらせてしまった謝罪も?」
「それは、別です!」
紙袋を抱えるように後ずさる。
「詫びになにかいるか?」
「足音お願いします」
「魔動物のやつらは全員気付いてたしな」
「それは足音というより、ノイスさんの魔力指紋に反応したのでしょう」
「妖精を探せた、謎の探知方法か」
前の件を思い出したのか、関心の声音だ。
「だれも知らないみたいなので、勝手に魔力指紋とか、他の言い方でそうよんでます」
「へえ。いいな、その指紋」
「私に聞かれても、説明はできませんけどね」
彼はパンを渡しに来ただけなのか、去ろうとする。
「あの、肩たたきとか入ります?」
「さっきのは本音だ」
そうですか?と問い返すと、彼は箒をちらりと見てから首を振る。
パンをありがとうと言い、箒を下に置いて掃除を再開した。
テーブルで雑誌を読んでいると、特集が組まれてきた箇所を眺める。
「ヒノメール、ヒノメール」
「はい」
「妖精の粉を、工学で生かしたいと思ってるんだが」
「工学ですか」
目の前にいる人は、感謝祭で工学に詳しい人が居ると言って聞きに行った相手。
案の定、事前注意を受けた通り長く長い説明が待っていた。
日が暮れて目が疲れてきたのでと、一旦待ってもらったほどである。
「妖精の粉を得るには、まず妖精を探さなくてはなりませんよ。探すは難しいですし」
「そこでお前だ。魔動物に協力をお願いしたい」
「わかりました」
「うしっ。ノイスさんに依頼として頼んでおくから金銭も発生するからな」
「どうも」
いつ文無しになったりするかわからない身の上なので、断らないようにしている。
「ヒノメールはさっぱりしてるよな。この街出身でも、国も違うのにこの国の国民性に近い」
「国に染まるようなことを国から受け取ってませんからねー」
ふふ、と笑う。
「よおし、んじゃ、妖精を捕獲するのはおれがするから、妖精を探すのはやってくれ」
頷き、承諾する。
時間になって集まり、外へ出る。
今妖精は外にいるらしい。
「捕まえるの、難しいかもしれないですね」
外となると、逃げられるのは容易い。
「かまわねーって」
軽い気持ちで捕まえるので、と相手は笑う。
「捕まえるっていうより交渉かな」
今日の依頼は探して交渉となるらしい。
森に着くと、肩に乗る魔モモンガと魔キツネが反応。
今日の魔動物たちは珍しく、二体体制。
首に巻きつくキツネが重い。
肩が凝ってきた。
「もふもふうらやましーぜ」
「気候が涼しいので今はいいのですが、暑かったら私……とてもではないですが、毛をわしずかむのも厭わないですけどね?」
「結構雑な扱いっていい感じ?」
「はい。暑いとちゃんと先に言って、離れてほしいと頼んでもダメならこっちも。自分の体の、当然の権利なので行使しますよ」
森を進むと、緑深くなっていく。
「待て」
突然、彼が止まるようにと指先をヒノメールの体に触れさせる。
「音がする」
「おと?」
耳を澄ませても聞こえない。
「この耳についてる魔工具、遠くの音が拾えるやつ。言い争う声っぽいのが聞こえる。ここからは戦場モード?ってやつで構えてくれ」
ヒノメールの戦場での豹変は知られているので、頼まれる。
「あ、でも槍ないか」
「あります」
モモンガの方に手を出すとモモンガがぷっくりと頬を膨らませて、そこから魔法陣が出現。
魔法陣からゆるりと槍が出てくる。
あんぐりする工学派の男の顔があるので、笑う。
「アイテムボックスの魔法を、再現したみたいです」
「えー……」
槍を掴むと一呼吸。
「進むわ。ついてきなさい」
「……ウッス」
小声で「あれ、おれが先導する予定だったのに」と聞こえたが先へ行く。
しばらく進むと、砂を踏む音が自分の耳にも聞こえてきた。
数えると四人いる。
「なにものなのかしら」
「冒険者だといいな」
最悪の想定を互いに抱き、見えるところまで進む。
「おい、まだ見つからないのか?」
不届き者たちはいろいろ言っている。
「簡単に見つかるんなら、依頼料はもっと安いだろ」
依頼ということは、誰かから頼まれたということ。
内容は冒険者の依頼っぽいが、なんとも素行がよくなさそうな者たちだ。
「どうするの?前進して接触をはかる?」
彼へ問う。
傭兵に属する男は相手を鋭く見ながら、悩んでいる様子でまだ接触しないという。
自分たちも妖精探しを続けようと言われて、二人は音もなく別の方向へと向かうことにした。
四人組から離れると、ヒノメールが眉間にしわを寄せる。
「妖精探しを、あいつらもしていたのではなくて?」
ここへ来る理由など、それぐらいしか思いつかない。




