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26婚姻と指輪

仮面を手にした彼は、それを指で遊ばせながらベンチに座るよう足す。


習って隣に座ると、真正面から見た彼はその瞳を悩ましげに揺らす。


「この前、お前の捜索についての話はしたな」


「はい。私を探していると」


「万が一を考えれば保険をかけておきたい」


「見つけられては戻されそうですよね。無理矢理」


あの国ならやると言えるのが、嫌だ。


「提案のことだが……だれかと婚約、もう少し強い権利を得るために、できれば書類上で婚姻をしてほしい」


「婚姻を?言いたいことはわかりました。そうしなければ戻される。戻されないためにはこの国の市民権を取らなければいけないのですね」


この国の法律は深く知らないが、市民権についてはさすがのヒノメールも調べた。


「そうだ。書類上でいい。今後結婚する意思のないやつを選べばいい」


「その言い方だと、傭兵団のみんなのうちのだれかという想定でしょうか」


「それが一番、手間もない……とお前に提案をするつもりだった」


こくりと首を上下に揺らす。


彼が色々考えてくれているみたい。


手間をかけさせて申し訳ない。


「すみません。私など、さっさときめてないのであやふやな立場ですよね」


悪いのは祖国の王族たちだと弾く。


「他のやつを進めようとしていたが。おれでもいいんじゃねぇかと思い始めてる」


「え?」


豆鉄砲を喰らった顔になる。


「あの、ノイスさんは結婚する予定はありますよね?若すぎる身で投げやりすぎでは?もう少しよく考えてみては」


「ふりだ。ふり。別に長だからと言って、ダメなわけじゃないしな」


「ふりですけど、書類上ですから本物ですよね?事実婚の何物でもないです」


首を振る。


「取り敢えず用紙はすでにできてるから、あとは記入するだけだ」


「早すぎます」


「さっきは受ける気で聞いてただろ。おれだと知って急にダメと言われてもな」


「それは、その、結婚する気はないというからで」


「じゃあ、決まりだな」


「今後だれかと結婚したりしたくなったらどうなさるんですか?」


叫ぶように彼へ投げかけた。


「そんときゃ、考える。急ぐぞ」


「急ぐって、わ!」


急ぐとは出店を周る速度らしい。


ヒノメールが慌てるのは、彼が手を掴み早足で進めるからだ。


「ちょ、の、ノイス、さんっ」


祭りは周るためであって、網羅するものではない。


足早に行く男は、女の様子を見ずに全部買い込んだ。


お金は全部ノイスに払われてしまい、財布を出す隙もない。


「買いすぎです!聞いてます!?ノイスさんっ」


「元々、全部買う予定だったから気にするな」


(そうだったの!?)


それは、いくらなんでもやりすぎな気がする。


全て本当に買うので、嘘じゃなさそうなところが、疑いにくさを産んでいた。


「ノイスさんて、破天荒ですね」


「そうか?傭兵は破天荒だろ」


「普段のことを言いたいのですよ」


疲れた。


街中を歩き回った。


なにかのリレーみたいになっていた。






ヒノメールの部屋かノイスの部屋かとなったが、リビングになった。


なにを?


婚姻届を記入するための部屋だ。


「ほら、記入しろ。さっさとミスズィ・ヒノメールになれ」


「団長、ひどい」


「ああ、ひどい。こんな結婚の仕方あるか?」


「抗議する!味気ない!」




リビングには当然他の人たちもいるので、みんなは婚姻届の件でわらわら集まりノイスのやり方に文句を述べていく。


ヒノメールもこくこくと同意の動作を行う。


「うるせえな。お前らどっちの味方だ」


「今はヒノメール」


「一票」


「二票」


「跳んで十五票」


「一人で全員の分、勝手に使うな」


ノイスに言われたが、彼らはぶうぶうと反対してくれる。


「みなさん!そうですよね。自分たちのトップが私と結婚なんてっ」


「全然?」


「え?別に?」


「結婚することは反対しないよ」


「……はいっ?」


ヒノメールは素っ頓狂な顔で、疑問符を周りに散らばらせた。


「結婚式もしないとか、プロポーズとかしてから書かせるべきなんだよなって。なぁ?」


一人がみんなに問いかけるとここにいる人たちは頷く。


綺麗に揃う。


その姿に絶句。


「え、なっ。は、反対者は!いませんか?誰かっ」


「いませんいません。で、プロポーズしてくださいよ。ふりでも大事でしょ、団長。相手は普通の子なんだからな?」


「はぁ……わかったわかった」


ノイスは全員からなじられて、目を閉じてから立ち上がるとこちらへ来て膝をつく。


夢に見てまで、というより小説で読んだことがある展開。


「ひ!?」


後ずさろうとしたが、その前に彼はこちらの手を掴む。


戦闘職なだけあって、握力が強い。


「ちょ」


「クレームが入ったから、仕切り直させてもらう」


ノイスはポケットから丸いものを出して、指にはめる。


まさかの事前予告なしの、指輪はめをされる。


「団長っ?」


怒りの滲む女傭兵の声。


「プロポーズが先でしょうが?」


「いや、私なにもまだ言ってませ」


「結婚してもらおうか」


「してほしいじゃなくて!?」


めちゃくちゃなプロポーズのセリフを言われて思わず荒ぶる言葉が出た。


人生に一度あればいい光景は。


勝手につけられた指輪が光り、団員たちにおめでとうおめでとうと祝われるものだった。

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