24魔法コンロ
会場が近づくと、張られたテントが目に入る。
カラフルな屋根に、緩く布が広がっている。
「あれは、感謝祭実行委員会特設テント」
「え、な、口噛みます!」
言おうとしたが、長文だったので途中からやめた。
「祭りやるときの主要メンバーってことだ」
「ああ。リーダーたちですね」
そこへ向かうと、ノイスを見つけた面々が景気良く声を掛けてくる。
「ノイス!見ない間にすっかり色男になったねぇ!」
女性が口を大きく開けて笑う。
「そのセリフは十年前から変化してない。ただ言いたいだけだろ」
いつものやり取りなのだろう。
「おや、バレたか!」
女性が笑う。
このやりとりも、全く変化してないとのこと。
定番のやり取りって憧れる。
「ん、そっちのお嬢さんはあんたんとこで預かってるっていう子だろ」
こちらに目を向けられる。
「初めまして」
「窓から見かけたことはあるよ。声はかけたことないねぇ。でも、うちもそろそろ草むしり頼もうと思ってたから、そんときは頼むよ」
「はい。ご入用の際はよろしくお願いします」
頭を下げて宣伝しておく。
あるに越したことはない仕事。
「次行くぞ」
「待て待て待ていいい」
背中を向けて行こうとするノイスに、声をかけたのは男性。
「ノイ坊よ。おれを無視するたぁ。偉くなったなぁん」
「実際偉くなったしな。エリートだし、社長みたいなものだ」
「ええ、おいおい、自分でエリートとかいうなよ」
真面目に突っ込まれていた。
横を向くと聞いてないけれど「冗談だ」と付け加えられる。
「じょ、冗談でしたか。ほんきでそう言っているのかと」
「エリートなのも社長なのも事実だから、ちょうどいいネタなんだよ」
男は面白いだろ、と犬歯を見せるように笑う。
「そっちのおじょーちゃんは新入りだろ?お前職の割には女っけないから心配してたけど、どうやら杞憂だったみてぇだな」
「勘違いしてるし、おっさんに言われるほど枯れてないから安心しろ」
今度こそ実行委員会のテントから離れた。
「テントはもう紹介したから、次行くぞ」
逃げるように進む彼は、やはりどんどん親近感が湧いてくる。
ここへ連れてこられたときはそこまでではなかったが、少しずつ彼の側面をこの街が教えてくれた。
「大丈夫ですか?休みます?」
「休まない。平気だ」
精神的にちょっとずつ、削れているように見える。
「あちらに美味しそうなものが売ってますので、あそこへ行きましょう」
「あっちは確か、肉屋の親子が肉を焼くと張り切ってた」
「忙しいのによく情報を集められますね。寝てますよね?夜通し起きてるとか、ないですか?」
目元に注目するが、寝不足の証が見受けられはしなかった。
この国では魔道具というものがあり、魔法コンロと名付けられたものがあるらしい。
それは、わざわざ火を作らなくとも勝手に熱くなって、料理を作れるほどの意地が可能とのこと。
「まるで魔法ですね。まぁ、魔法ではあるのでしょうが」
「魔法もあるが、魔法工学っていう言葉がある。魔法と工学の融合したものらしい」
「工学、ですか?」
「うちの国でも、ここ二十年かそれより少ない年数で出てきたものらしい。詳しくは知らないな。知りたかったら部下に詳しいやつがいる。だが、事前知識なしに聞いても、さっぱりわからないと不評だ」
「不評なんですね。私も気になってきたので……少し聞きたいです」
「少しか。それは無理な話かもしれない。なんせ、あいつはそういう類のことを聞くと、とても長くて話が途切れないからな。話すつもりで話しているわけじゃなさそうだ」
「そ、そうなの、ですか?また折りを見て聞いてみたいのですがねぇ」
「教えておくが本当に聞きたかったら、何もない日にした方がいい」
アドバイスをもらい、頷いた。
この国はかなり先をいっていると言える。
それがコンロなので、わくわくする。
扉のドアベルといい、色々発明されては身近なものとして使われている。
祖国じゃもっぱら王族や高位貴族、中位貴族が独占しているからこそ、自分のような低位貴族には全く手に入れられない。
手で触ることすら敵わず。
ヒノメールは懐かしさと理不尽さを思い出す。
平民なんてもっともっと、手が届かない代物。
コンロがあっても、ここみたいに自由に使えるという夢見たいなことは起こらない。
使わせてもらえず、使おうとしても莫大な使用料を請求されるのが想像できる。
(あんな王族が続いていくのなら、今後も変化なし)
彼が肉屋の出店から購入した肉を、こちらへ渡してくれる。
「手で食えるか?フォーク、ナイフは」
「ふふ!私はもう貴族じゃありません。それに、野営に近いことだってやりましたよ。いまさら手で食べることに逃避感なんて起こりません」
冗談っぽかったので、笑って流す。
「いや、そこはレディ扱いしておこうっていうおれの気遣いだぞ」
「本当ですか?それは、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて座らせてもらいますね」
フォークなどは必要ないので、せめて座って食べたい。




