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23感謝祭

きっと疲れているのだとわかり、コップだけ置いてすぐに帰ろうと声をかけてきびすを返した。


「ん?帰るのか?居座るとばかり思ってたが」


「ノイスさん、お疲れですよ。気づいてますか」


「気づいてる。傭兵にはこれくらいなんてことない。それよりもいなかった間のことを話してくれ」


「え?私のですか?今までやっていたことと変わりませんけど。草むしりの依頼や妖精のことくらいで」


「それでいい。むしろ、そういうふんわりした内容が糖分の代わりになる」


「どこに糖度を感じられるのかよく、わかりませんけど。えっと、わかりました」


本当に聞きたいらしく待ちの姿勢だ。


大人しくもう一つの椅子に座り、あったことを話す。


「妖精な。報告書に記載されてたから知ってはいたが。とくにこれという被害もなさそうだし、放置でいいと思うぞ」


「はい。魔リスも嫌そうではないので悪い存在ではないと思ってます」


「魔動物にそんな探知ができたとは驚きだ。妖精よりもそちらが興味深いけどな?」


「そうですか?結構野生の生物には備わってますよ。危機回避の本能でしょうね」


内容は妖精よりも魔動物の生態だ。


「で、なぞの男のなぞは解けたのか」


「あ、その顔。その人のことをなにか知ってますよね」


「さぁ?というより、もうそいつに直接お前はだれだって聞けばいいだろう」


「だれなんだろうと推理して想像するのがたのしくなってきたので、知らなくてもいいかなぁって思えてきて」


「それはいいな。それを本人の前で言ってやれ。きっと大喜びして抱きついてくるぜ」


「それって、セクハラというものにあたるのではないでしょうか」


「最高だ。そのときは堂々とその罪で捕らえて詰所に連行する。のちのち楽しいことになるぞ」


本当に楽しそうで、絶対にそれをやるつもりだと察して、ラピトという男性の前では言うまいと決めた。






ノイスにヒノメールの身柄が、ここにあることがバレないようにうまくやっておくと言われ、安心してから暫くののち。


感謝祭が行われる日がやってきた。


心も体もリラックスしている状態で迎えられる日ほど、よいものはない。


この日はどうしようかと思って、外に出る準備をしていると魔トカゲが肩へ登ってきた。


今日はこの子がヒノメールの保護者らしい。


魔動物は自分のことを年下の末妹か、末っ子だと認識しているのでいつもだれかしら張り付いている。


実は、そばになにもいないと思われているが、空を飛べる生物や透視、または望遠の魔法を使えるものが見守っているというカラクリ。


いつも家族に見守られているのだ。


そのおかげで、あの無茶苦茶なたたかいの場も切り抜けられた。


身支度を終えて外に出ようとすると、玄関口の前で私服を見にまとった顔のよい男が堂々としたいで立ちで、待ち構えていた。


「少しいいか」


「今から感謝祭に行くのですが」


声をかけられてオドオドする。


「ああ。だからそれに関連したことで……まさかとは思うがおれがだれだか分からねぇなんてことは」


「多分……ノイスさん?かも」


「多分でもかもでもなく、百の割合で全部おれなんだが?」


少しだるそうな声が、本気で伝えてきていた。


「仕方ないじゃないですか。いつもと髪型や服装も違いますし。いきなり側を変えられたら、だれかわかりにくくて」


「側……虫かなにかか」


それはこちらに対する抗議なのか、単にツッコミをやったのか定かではない。


「ごめんなさい。冗談です」


「冗談をあまり言わないやつが言うと、本気にするだろう」


調子が狂う、とぼそりと言われて笑みをこぼす。


「すみません。あまりにかっこいい人に言われてつい。ナンパでしょうか?とどちらを言おうか迷いまして」


「その選択肢で、ナンパと言われた方がよかった」


「まぁまぁ、次回に言いますね!」


ヒノメールは口元に手をやり笑った。


改めて会話をはじめる。


こういうやりとりをするのはなかったので、新鮮だ。


彼は今までこの街にいなかったので話せなかったし、少し嬉しくてはしゃぎすぎてしまったかな。


「楽しみにしておくな。お前を待ってた。一緒に行こうと思って待ってたんだ」


「……待ってた?ということは祭りに誘いにでしょうか」


「ああ。この地域に来て初めての感謝祭だろ。迷うかと思ってな」


「さすがに迷うことはないと思いますが」


苦笑して返すが、彼は本気で言っているらしかった。


そんなに自分は頼りないのだろうか?


「私そんなにドジというか、頼りなく思えます?」


「いや、そんなことはない。ただ」


「ただ?」


ノイスは楽しそうに口元を上げると、囁くように言う。


「おれが、お前を祭りに誘いたいってだけだ。まぁこっちのワガママってところか」


(ワガママ?)


やんちゃな顔をしている男の、秘密を打ち明ける言葉。


ギャップというものが感じられて、胸が少し上向く。


こういうの、小説などであるが実際言われると結構心にドキッと来るものなんだなぁ。


「こちらが先に誘うべきだったかもしれませんね。それならわざわざノイスさんが私を誘う手間をかけることもなかったですし……ありがとうございます。ぜひ共に周りましょう。あ、この子もいいですか?魔トカゲです」


「そうか。お前に、ヒノメールに魔動物がベッタリいるのはいつものことだ」


いつものことらしい。


たしかにそうである。


だれでも回答できることだった。


はは、と頬に指を当てて誤魔化してから共に向かうために扉の外へ出た。


「このまま真っ直ぐ行きゃ、祭り会場な」


「広場の真ん中なのですね」


「あそこで踊る」


「踊りは舞踏会用のものしか知りません……」


他のダンスなど知らない。


落ち込みながら言うと、彼は笑って大丈夫だと述べる。


「酔っ払いのダンスを見たことあるか?あれより酷いもんでもない限り、お前でも天才扱いだ」


「比較する相手が酔った人なんて、慰められてる気がしませんよぉ」


それでも慰めと応援をもらえて、少し気分が上向きになった。

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