表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/45

19情報通

やはり、外で暮らすか、街から離れたところに住むべきか。


ヒノメールは感謝祭の後に出ようかなと薄ら思いはじめていく。


居心地がいいというのも、困りもの。


始まりは、たたかいの場である。


それなのに、気まずくならず、こちらのことを盛大に気遣う彼らに、こちら側の方が本当にいいのかと思う。


ノイスも、ノイスの仲間たちも。


だれも彼もが、優しくて、まるで元から己がいたかのように思わせてくれる。


魔動物たちにも遠巻きにはするが、魔動物たちの健康にも配慮してくれているし。


居心地が良すぎて、こんなに苦心するなんて、夢にも思わず。


膝を抱えて悩むことも最近増加している。


すべて済ませて、帰る場所である傭兵たちの憩いの場に行く。


今日はキッチンを使えると言っていたのでなにか作ろう。


折角色々買ったのだ。


いつものようにキッチンへ向かうと、どうやら他の人たちもなにか作っていて、邪魔しないように無言で隙間を通る。


フライパンを見て、買ったばかりの材料を使う。


「お、ニーフルだ。好きなやつ持ってっていいから、それと交換してもらっていいか?」


話しかけられて、うなずく。


キッチンではこういう物々交換はよくある。


「ありがとな」


なんだか、それが楽しく感じる。


なんとなく、学校に似た雰囲気を感じた。


学生の時のような思い出がよみがえり、友達とこんなふうに過ごした、と反芻する。


料理の最後に塩を入れて完成させる。


作り終えてどこかに座ろうと思っていると、団員の人にこれをノイスのところへ運んでくれまいかと頼まれた。


たまに頼まれるので、引き受けている。


断る理由もなし。


持って行ってほしいのなら、苦ではない。


ノイスの部屋へ行き、ドアを叩く。


しかし、返事はなくいないのだろうかと思い、料理はどうしようと迷う。


廊下の方へ顔を向けた時、ノイスの顔がこちらへ来たようで、見えた。


どうやら今戻ってきたよう。


「あ、ノイスさん。お食事お持ちしましたよ」


「ああ。悪い」


ノイスは少し早足になる。


向かい合わせになり、ヒノメールは端に寄る。


「中へ入ってくれ。言うこともある」


「そうですか?わかりました」


後を追いかけると中へ通されて入室。


テーブルへ食事を乗せる。


「お前もここへ座れ。少し話すからな」


「え、あ、はい……」


近くに座るのに慣れて無さすぎて、座りにくい。


真横に座ると、彼は食事をしはじめる。


「依頼が入って、一部を除くやつらと遠征に行く。その間、留守番でもしておいてくれ」


ここへきて、初めて見送る形になった。


「え?あ、ふふ」


「ん?」


「いえ、こういった場合、小説やフィクションなら連れて行くと言われたりするのに、やっぱり現実だから残れって言われるよねって、思って。自分でツボに入ってしまいました」


「言われてみれば、そういう小説はなぜか連れて行くよな。あれってなんなのかおれにも分からない」


「でないと、盛り上がりがないからでしょうけど。いざその立場になったらシチュエーションが同じだと重ねてしまいます」


「訓練もしてないしろうとを、連れて行く方が何倍も危ない」


「危なくないと、シーンが日常ばかりなので、連れて行きますよ」


「ほとんどのヒーロー役は、肩書きがかなりウェットにとんでるしな」


通じないと思っていたのに、そういう系統のジャンルも読んでいるらしい、ノイス。


「結構話が分かりますね。闇の侯爵などというキャラクターならば、危ない雰囲気でも、事実許されるのでは?」


「闇の侯爵……所謂国の暗部を担っている家族ってことか?」


ヒノメールは、あまりの話の通じやすさに彼を凝視した。


「おれの知り合いにそれ系のジャンルを書くやつが居て、感想ほしさに送りつけてくるから、詳しくなっただけだ」


「そうでしたか……実はノイスさんが小説家なのかと思ってしまいました」


彼はこちらの答えを聞き、瞼をぱしぱしと動かして、やがて喉を震わせた。


「小説家も悪くねぇ。お前もなにか書けよ。すろーらいふをしたいんだろ」


慣れない舌ったらずな発音に、胸がきゅんとはねる。


いい大人の男の辿々しい発音とは、こんなにも可愛らしいのかと顔が緩む。


「それはいい考えですね。書いて過ごす。理想的な生活です。魔動物たちとの暮らしを書いて、出してみましょうか。有名な出版社とか知ってますか?」


「ああ。3ブロック先にある建物に小さな出版社があるから、持ち込んでみるといい。読書家や小説家の集まるカフェもあるぞ」


「地域密着型過ぎます。よくそこまで知ってますよね」


「情報収集は傭兵に必要な嗜みだ」


というわけで、小説にも手を出してみようかと思う。


魔動物たちのまったりのんびりな内容。


彼に言われて、急にやる気を出す自分に少し照れた。


でも、だれものんびりしなさいなんて言ってくれなかったので、きっと思っているほどよりも、ヒノメールは嬉しく思ったのだ。


ノイスさん、とよばれて向こうへ行くために立ち上がる。


「今行く。待ってろ。またこの話は次の時に温めておけよ」


「はい」


忙しい身の上なのだから、自分と話す時間も取ってくれたらしい。


扉の通り、遠ざかる足音に、早速自室へ向かい、執筆の内容を考えることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ