15女帝っぽいらしい
王族、高位貴族、中位貴族にとって低位貴族というのは、使い勝手のいい捨て駒ということに他ならない。
それにうんざりしていたが、さすがに二度もたたかいに行かせられるのは絶対にお断りだ。
膝を抱えて、物思いに浸る。
今日まで他に人数に囲まれていて、過去へ思いを馳せるという気にならなかった。
それもこれも、タカノツメ傭兵団とノイスという男のおかげだ。
いくら魔動物たちと一緒に動いていても、ものを考えてしまう。
それくらい、祖国のたたかいの記憶は色濃く、いやな思い出でしかない。
寝ても覚めても、あの時間は頭の中で何度も繰り返される。
亡くなった者は居なかったが、ことによってはヒノメールは悲惨な目にあっていたかもしれない、という想像はなくならない。
現実に戻ってきたのは、問いかけるような声音。
「ここにいるってんのは構わないが、飯を食うときは中に入れよ」
回想に出てきた男、ノイス本人がこちらへ来るのが見えた。
「あ、すみません。勝手に場所をお借りして。魔動物たちは中に入れてはいけないと言われたので、やむを得ず」
申し訳なくなるので謝る。
誘われたのに、魔動物たちを入れるのがダメだった考えがすれ違いを生んだ。
そこは少し主張しておきたい。
ヒノメールの宿がなくても構わない。
けれど、大切な友人兼、家族の寝床は確保したいのだ。
なんとか、彼らを住まわせられる場所はないものか。
どうにかこうにか、出すことは無理そうだ。
あの、住んでいた家を手放すしかなかったことが悔やまれる。
メェ、と魔羊が側にやってきて話しかけてくる。
「ここは、いいところみたい。住めるようになるといいわね」
頭を撫でると心地良さそうに、目を閉じてくれるのでヒノメールも癒し効果を堪能した。
ぽやぽやとした空気を醸し出す女に団員たちは、予想よりも早く馴染んでいった。
ヒノメールが軍妃と知っているのに、よく受け入れてくれたわねえ、と魔動物たちに話すと、彼らは自慢げに鳴く。
もしかして、自分のことを当然と言ってくれているのかもしれない。
笑みを零すと、いそいそと建物に入る。
一応部屋は用意してもらえた。
まさか、そこまでやってくれるとは思わなくて目を何度も何度も開け閉めしては、不思議に思っていた。
まさか、本当にここまでやってくれるなんて。
あくまで仕事を紹介してもらい、そこから一人でコツコツ活動していこうと思っていたから。
「ヒノメール!ちょっといいか」
よばれて、振り向くと団員が手を振る。
「はい!今行きます」
ブラッシングしていた姿勢から、立ち上がらせる。
「途中でごめんな。ちょい、教えてほしいことがあってな」
丁寧に対応する様は、戦場で相手をしていた同一人物とは思えない。
ヒノメールが見ていることに気付いた彼は首をかしげて小動物のような、くりっとした目をこちらに向けてくる。
やはり、一緒の人には見えない。
こちらも、人のことを言えないけどね。
「いえ、軍にいた時とやはり、オーラが別人ですよね」
「はははは!面白いなヒノメールは。おれよりもお前の方が別人だぞぉ?ははは!思い出したから笑えてきたろ」
こちらを見ては大笑いする彼に、笑う要素なぞ、なかった気がすると怪訝に見る。
「はぁ、あー、悪い悪い。お前って戦場では如何にも女帝ってイメージなんだよな。男を尻に敷くっつーの?そんな感じ」
「尻に敷いたことなど無かったですし、寄せ付けませんでしたね。そういう風に見せる努力はしていましたよ。苦節の日々でした」
「そうなんだよなぁ。めちゃくちゃ苦労したよな。オレたちは仲間がいるから役割分担して、負担も少ないけど、お前は紅一点だったもんな」
慰めるように言われて、謙遜もここでは意味をなさないことに気付いて、首を縦に振る。
彼は用事を言いにきたので内容を聞くと、魔動物たちに雑草を食べさせて掃除させないかと言われた。
「リーダー、ノイスさんがこれを言うようにって言伝された」
なんと、ノイスの提案したことだったらしい。
ヒノメールのことを考えてくれている、その構想にうなずく。
魔動物たちにも街中を歩かせたい。
びっくりされるかもしれないが、襲われないと知ったらすぐにみんな慣れるだろうし。
「ここに来て少ししか居ませんけど、みんなさんもっと常日頃からたたかいの訓練付け、次の代理の準備で忙しい日々を送っているのかと思ってました。予想と違って殺気立ってもいません」
傭兵団のイメージは常に慌ただしいというものだった。
しかし、そんなことはなく。
ヒノメールがのんびりしていることと同じく、彼らも普通の生活を送っていた。
彼は楽しげに笑いかけてくる。
「ずっとたたかい続ける傭兵もいるかもしれないけど、おれたちは違うな。たたかいに赴くのは……身体を鈍らせないためってのが主な理由」
その説明は、ヒノメールにはよく分からなかった。
身体が鈍らないように、とは。
不可思議な傭兵もいたものだ。
雑草を処理する仕事の詳細をさらに聞くために、彼と共に建物へ入る。
中へ入ると優しい色をした家内。
落ちつく。
ただの、どこにでもある建物にしか見えない。
「内装、素敵ですよね。なんだかほっとします」
「そうだろ。近所の内装を担当するやつにオススメされた」
「男世帯なのにだれか反対しなかったのですか?」
ふふ、と男は笑みを浮かべ廊下を共に行く。
「うちの数少ない女性が、これがいいって言うんでだあれも意見なんて言えねーって」
扉の前に立つ。
「ここ、覚えてるか?ノイスさんの執務室」
「あまり、というか初めて来て以来入ってないので、言われるまでなんの部屋か忘れてましたよ」
「おれらもあんまり行かないかな。やり取りは纏めてするし」
話しながら、彼が扉を何度か叩き名前を二人分告げる。
緊張してきた。