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14地域密着型

もっといい仕事はたくさんある筈なのに。


次の日、彼らについて行く。


ヒノメールは、のほほんとついていけば、それだけで良かった。


魔動物たちもベルをからんからんと鳴らしながら着いてくる。


国に入る時、勿論ヒノメールは身元確認されるのだがタカノツメ傭兵団たちは門を守る者たちに歓迎されていた。


(な、なぜ歓迎を?)


これは、着いてくる前にもう少し調べておけばよかったかもしれない。


戦場においてはツテなんて、ないので調べておくことも、聞くことも、使える人材も居ない。


よって、無理となる。


どういうことだ、と目を白黒している間に国へ入っていた。


(活気が違う!祖国とは大違いっ)


あまりにも違う様子に、口をぽかんと開けてしまう。


傭兵たちの彼らはそれを見て、ケラケラー、と笑う。


バカを見る目というより、すごいだろうという自慢げな声音。


「こっちだ。おれたちの滞在場所。っていうか……家だ」


(傭兵に家?どういうこと)


家とは、という概念すら分からなくなりそう。


(家、あるけれど、この街の出身ということ?全員?)


ということは、一人一人に家があって今から帰宅するという意味になる。


首をかしげて彼らに言われるまま、着いて行く。


自身には家も宿も、あてもない。


唯一の繋がりといえばタカノツメ団。


魔動物を置けるといい。


無かったらまた外に住む。


ぼんやり、心ここに在らずな状態でいると声が聞こえてそちらへ顔を向ける。


手を振るのは若い娘。


なにかお店をしているのかエプロンをしている。


「タカノツメのみんなさん。でき立てのパンと飲み物を持って行ってください」


「おー、マチちゃん。いつも悪いねっ。貰うよ」


(親しまれている!すごく!)


ヒノメールとはなにもかも違う。


自分など、どこにもおよばれせず、人気にもなれず、敬遠されて結婚も出会いもなくなったというのに。


落ち込む。


何度見ても囲まれている。


(どうして彼らはこんなに……?)


疑問を感じて眺めていても、移動は全くできなくて、諦めて待ちぼうけを喰らう。


「待たせたな、悪い悪い」


タカノツメ所属の男が声をかけてくるが、だれか分からなかった。


ヒノメールが人間を覚えるのが、好きではないせいだろう。


「毎回あんな風に囲まれるんですか?」


「ん?ああ、あれね。おれたちはこの街に拠点を置いてるし。王族の後ろ盾がある御用達だからな」


(異文化過ぎる。あまりにもこっちとは運用方法が)


彼らが王族の後ろ盾だなんて、そんなことがあり得るのかと信じられない気持ちになる。


ヒノメールは、案内されるままに街を通り抜けて、タカノツメの総本山に漸く辿りつく。


「彼を置いていくけれどいいんですか?」


ノイスを指差すと相手は分かり切った顔で平気、勝手に帰ってくるからと言う。


自分たちの団長に気安い。


信頼関係がきちんと養われている証拠。


なんとも言えない気持ちと、そういう国もあるんだなと受け入れようと決めた。


これからここが、自分の家になるかもしれないのだから


本部といっていいのか、傭兵の建物に入る。


魔動物たちものしのしと入る。


「ま、待って待って、ちょ、さすがに動物は困るっ」


「え?」


拒否の台詞を聞いた魔動物たちが一気に鳴く。


不満と文句があるのかという、抗議の声音だった。


それに、ヒッと肩を揺らす相手。


ヒノメールは、常識を持ち合わせているのにしかたない、と肩を竦めて魔動物たちに外で待ちましょうと声をかける。


土足厳禁ならば、従うのがトラブル回避の秘訣。


てっきりここまで魔動物を連れていてもなにも言われなかったので、ここも大丈夫かと思った自分の落ち度。


謝り、外へ出たヒノメール。


出ていくことに慌てる相手に呼び止められたヒノメールは、魔動物たちを外で待たせるのならば、自分も同じように外で過ごすということを説明。


「そ、それは、あー。じゃあ、外で説明するわ」


微かに苦笑をする彼は人がいい。


普通ならば変人扱いで関わろうとしない。


共に外へ出ると、軽く訓練するための庭に連れられて魔動物が落ちつく。


テントがはれそうでよい芝生。


芝生を検品し、鼻をふんと鳴らして座り込んでいく我が家族たちを横目に、案内役をしてくれた男が落ち着いた雰囲気で、色々ヒノメールに説明してくれる。


要は、これから住む場所。


仕事、などなど。


「仕事は、そうですね」


なにか言おうとするこちらを止めて、すでに枠を取っているのだと教えられる。


お仕事まで斡旋してもらえるなんて、本当に彼らは傭兵なのか?


疑問が疑問に濡れる。


「あの、さすがにおんぶに抱っこだと思ってるのですが。そこまでしてもらうわけには」


それにしても、建物の中が傭兵の住む場所とは思えないくらい綺麗だった。


もっとこう、ベタついていると思っていた。


それは、家庭のある家と中身が変わらない。


予想外で嬉しかった。


汚いところはさすがのヒノメールもいやだ。


庭もきっちり整えられていて、汚れなどなさそうに見える。


とても清潔感のある空間。


「気にしない気にしない」


仕事は落ち着いたら、改めて説明するな、とこちらのことを気遣う内容で恐縮ながら、甘えさせてもらうことにした。


「ありがとうございます。なにかお手伝いできることがあるのなら」


「え、ほんと?あるぞ、あるある。手伝ってほしいことー!」


ヒノメールが言い終える前に被せてきた。


既に用意してあった返答だったのかも。


ヒノメールは微かに、可愛さを感じて口元をゆるりと上げる。


(傭兵と言っても、いろんな人がいるんだなぁ)


タカノツメ傭兵団はもしかしたら、こういう人がまだまだいるのかもしれない。


ほっこりしながら、手伝ってほしいことは明日以降にするから、今は取り敢えず休んだほうがいいと、身体を休めるように言い含められる。


「じゃあ、おれ行くから。もしなにか用ことや聞きたいことがあったらいつでも中に入ってきてくれよな。遠慮するなよ」


はい、と目を見てうなずく。


それを見た彼はニコニコ笑って中へ戻っていった。


(いい人だ)


見送りながら、用意していた布の上に座る。


ここは人の視線もなく、だれかの声が聞こえる場所。


住んでいた場所よりかは音がするが、他国なのだ、これから馴染んでいけばいいと思った。


ここはいい国、な気がする。


人々の顔が輝き、活気もある。


比較対象は祖国。


貴族の押し付けもひどく、ヒノメールを軍に回したことよりも前から、端にも掛からない領地や領主、爵位は低く見られてあのような雑用からいらない物を捨てるように物ことを奥へ奥へと押しやることはあった。

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