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シオン  作者: 八木九巳
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1・若いふたり

 一日がとても長い。

 インフルエンザに罹り、出勤停止になって二日経った。

 相変わらず高熱が続いていてしんどい。全身が痛いし寒気もする。ただ、寝るだけ寝てしまったのか眠くない。

 苦しみから逃がれられずに目をつぶってまどろんでいると、ドアの開く音がした。

 賃貸であるまじき足音を鳴らし、パートナーの未来(みらい)が帰って来たようだ。


「ただいまー! 外の極寒は老体に応えるよ〜〜〜!」


 寝室に入ってくるなり、自分の体をオーバーに擦って寒さを訴えてくる。

 完全防寒で目だけ露出したスタイル。コートがまだ可愛げのあるピンク色だからいいものの、テロリストに間違えられてもおかしくない。


「大人しく寝てたぁ? ていうかこの部屋寒いね」


 身にまとった防寒着を脱ぎながら、テロリストから一般人に戻っていく。


「ごめん、今暑いんだか寒いのかわからない状態で……」

「あー、だからこんなに設定温度が低いんだ。よしよし、わかったよ」


 下着姿になってそのままパジャマに着替えると思いきや、そのままベッドに潜り込んできた。


「明日香、めっちゃくちゃあったかいじゃん!」


 ハリと柔らかさが混在する若い体が、私の上に乗っかる。冷え切った肢体を抱きしめてあげた。何これ最高なんだけど。まるで抱きまくら型の氷のうみたい。


「でも、かーなーり汗臭い!」

「今それいう?」

「……けど、外から帰ってきたんだって安心できる良い匂いでもあるよ」


 未来は私のパジャマのボタンを外しつつ、額に浮かんだ汗を舐め取る。頬を吸ったり、耳たぶを唇で挟んだり……なかなかキスをしてこない。

 それもそうか。さすがにインフルにはなりたくないもんね。

 未来の攻めは続き、首筋の汗を音を立てて吸ったり、舌をなぞらせたり。インフルのつらさより愛撫の気持ち良さが上回ってきた。その頃合いを見計らっていたのか、ついに舌がねじ込まれてきた。

 未来を逃さないように、背中に両手を回す。まるで私はお預けを食らったペットみたいだ。

 未来の口内は何もかもが甘い。舌も唾液も全部吸い尽くしてしまいたくなる。まだまだ物足りない。足をクロスさせて押さえつけ、未来の顎の下を指で押して刺激する。すると、唾液腺が刺激されて唾が供給されるのだ。

 負けじと未来も同じように私の顎の下を押してくる。唾液を吸い、口をゆすぐように自分の唾液を混ぜる。このあとの行為がわかるから、足の力を緩めておく。

 未来が上半身を起こし、口を開けて舌を出す。じっくり混ぜた水飴のような唾液が、私の口の中に降り注いだ。極上のそれはとても甘く、ゆっくり時間をかけて飲み込んだ。


「もう、インフルが移っちゃうよ?」

「散々キスしといていう? いいよ別に。どうせ職場の社員は罹らないでしょ」


 再び口をキスで塞がれ、何も言えなくなる。今度は性感帯の腋やへそなどを刺激され、私もさらなるスイッチが入ってしまい、それ以上話せなくなった

 今はただ、若い肉体で生きていることの喜びと、パートナーとのまぐわいを思う存分愉しみたかった。


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