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緋星戦記 ノアゼオン  作者: あおき りゅうま
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第5話 始まりの刻

 夕陽が海をオレンジに照らす。

 カマクラ第二中学校から約600メートル。大通りをまっすぐ南に進むと開けた海水浴場が広がっている。

 唯ヶ浜(ゆいがはま)海水浴場。

 空には鳥が舞う、緩やかな波が寄せては引いていく静かな浜辺だ。

 遠くには宇宙放射線遮断ドームがうっすらと日光に当たり反射し、その奥には雲のような白い(もや)が見える。

 いや———雲のようなという表現は間違っている。


「もうすぐ雲海を超えてくる時間だ」


 サングラスをかけた少年が砂浜の上に立ち、海の先を見据えている。

 その彼の靴に軽く波が寄せて、表面を濡らす。


「空の上だっていうのに海かよ。人は空を飛べないっていうのに無理やりそこで暮らそうとするからこういう現象が起きるんだ」


 愚痴りながら、視線を海の先から空へと移す。

 そこには鳥が飛んでいた。


「なぁ、見ているか? 雲の上に楽園を作ってぷかぷか浮いている地球人の方々よォ」


 鳥は鳴きもしない。

 生きていもしない。

 キラリとその瞳にあたる部分に内蔵されているカメラが煌めく。

 それは生き物ではなく空中都市を監視するための偵察ドローンだった。怪しいものが空中都市ジパングにいないかどうか、政府が監視するための監視機器。

 だが、その映像の中には少年の姿はない。

 誰もいない砂浜を映し出しているだけだった。


「光学迷彩は、ちゃんと機能しているな」


 何事もなさそうに空を飛んでいく鳥をしめしめと少年は見つめて、再び海の先へ視線を戻し、人差し指を伸ばして遠くを指さした。


「早く来いよ! 全部をぶっ壊すんだ! 今日、ここで!」


 少年の声に呼応するように、ジパングから五十キロ離れた雲海が突如下から吹き上がるように盛り上がり、雲の柱を作り出した。


 ▼   ▼   ▼


 空中都市ジパング治安維持局。

 都市機能を管理するための様々な情報が映し出された大量のモニターの前に多数の職員が作業をしている。


「いったい何が起きているというんだ⁉」


 そこは現在緊急事態を告げる赤色灯が光り、大量のモニターには全て同じ映像が流れている。

 上へ上へと高々と伸びる雲の柱を。


「緊急事態です! ジパングに対して未確認飛行物体接近!」

「迎撃ミサイルは何をやっていた!」

「それが……ハッキングを受けていたらしく、ここまで感知ができていませんでした!」

「くそ! ここまで接近されるなんて! 火星人が!」

「未確認飛行物体! 雲を抜けました!」


 雲の柱が晴れる。


「なんだ……これは……」


 正確に言うと内側から突き破られたのだ。

 その中から出てきたのは———、


「海賊……船……?」


 ドクロのマークが船首に貼り付けられた空飛ぶ軍艦だった。


 ▼   ▼   ▼


 軍艦緑色を基調とした、海賊船のようなデザインを持つ船体(ボディ)が高度五千メートル上空の雲の上を疾走する。

 夕陽に煌めく雲の水がザバザバと船底を濡らし、霧のような雲を船首が貫きかき分けていく。

 向かう先は透明なドームに守らている空中都市ジパング。


「信号は受信しているわね?」


 海賊船の上部にあるブリッジには船を操縦する乗組員がそれぞれの持ち場の席に座っている。

 そんな中総舵輪の前に立つ黒い海賊帽をかぶった眼帯を付けた二十すぎぐらいの女が指示を飛ばす。


「ああ、上々だ船長。アギはちゃんと仕事をしているよ。創世の巫女がいるのは日本地区のカマクラ。このまま真っすぐだ」

「よろしい」


 レーダーの計器を見つめているバンダナを頭に巻いた奇妙なフォルムをした男の言葉に満足そうに眼帯の女は頷く。

 ビー、ビー、ビー……!

 突如警告音が鳴り響く。


「何だ?」


「まぁ何事もなくとはいかなかったってことだぁ船長。空中都市から迎撃ミサイルが飛んできている!」

 バンダナの男が首元のエラ(・・)をぶるぶると震わせて声を荒げた。


「ヒース!」


 眼帯の女の右目がバンダナの男から逆側の席に座っている頭が横長い、シュモクザメのような姿(フォルム)の男に向けられる。


確率共鳴場(かくりつきょうめいば)、展開!」

「アイサー」


 シュモクザメ男は前の計器のボタンを押す。

 すると海賊船全体を薄い電磁波の膜が覆い、雲海の中から飛んでくるミサイルが当たっては塵と化していく。


「このまま空中都市に突っ込む! ドームを砕くぞ! 総員衝撃に備えろ!」


 眼帯の女に指示されるがまま、ブリッジにいる人間は指の間に水かきが付いた手で椅子の手すりを強く握りしめる。

 ブリッジにいる人間は、眼帯の女以外は人間と呼べるのかも不思議な半魚人としか呼べないような外見の者ばかりだった。


「これは始まりの時だ! 我々アビス海賊団が、火星の民を救うために天上人を地に落とす、革命の音だ!」


 立った状態で操舵輪にしがみつく眼帯の女は、年若く可愛らしい顔を歪めてどう猛に笑う。

 海賊船が展開した電磁フィールドが空中都市の放射線遮断ドームに接触し、それは塵となって一部は消滅するが、勢いよくぶつかられたせいで大きく破損し、ガシャンと衝撃音を鳴り響かせた。

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