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第9話 少女と黒い仔猫


 加菜子たちは一度別れて、麓の街で合流することになった。

 

 ミヒテ曰く遺体の確認と運び出しに最低2日はかかるとのことで明日から引き続き作業をすることとなった。そして確認の済んだ遺体を順次運び出して、向こう村で諸々の手続きを終えてヴィンセントが向こう村から馬車で来るという。

 

 加菜子とフランは中継地点の魔女の村まで設置したポータルへ飛び、そこから徒歩で街へ降りることにした。

 

 入り口付近に差し掛かると、花屋前の一部の地面がシートに覆われていた。さらに木柵で囲われている。

 加菜子はなんとなく歩きながらそちらを見ていただけなのだが、奥から出てきた男にジロっと鋭い視線で睨まれた。

「そこは今、工事中だから」

 大柄で、顔の四角い、黒髪を1つ結びにした男が花屋の店主のようで、短くそう言った。

 

 その隣の路地で村長の娘リリアが小さな躰をかがめたり伸ばしたりして物陰を入念に覗いていた。

 加菜子はフランに一言断ってから少女に駆け寄った。リリアは振り返って加菜子に気が付くと嬉しそうな表情を浮かべた。

「お姉ちゃんたちもう帰るの?」

「しばらくは街の方へ泊まるつもりだよ」

「そっかぁ」

 加菜子はしゃがんでリリアに目線を合わせた。

「さっきはお父さんを呼びに言ってくれてありがとう」

「えへへ」

「それで今は何をしているの? かくれんぼ?」

 リリアは首を振った。

「黒猫をさがしてるの」

「猫?」

「3週間前に生まれたばかりの仔猫なの。でも生まれたときから息をしてなくて、リリアがいっしょうけんめい温めてたら、ミーって鳴き声をあげたんだよ」

「そうなんだ、良かったね」

「うん!」

 リリアが誇らしそうに胸をはる。

 しかしすぐに悲しそうな顔で俯いた。

「……けど、そのあとすぐいなくなっちゃった」

「それで探してるんだ」

「うん、……ううん」

 リリアは首を振った。

「あの子、もう死んじゃったとおもうの」

 そう言って唇をギュッと噛み締める。

「お乳をのんでない仔猫が3週間も生きられないから。それに、からだの弱い子だもん」

 大人を振り回すほど元気いっぱいな少女の目には、大人がドキッとするような甘さのない現実もまた映している。

「……そっか」

 加菜子はなんと言っていいか分からなかった。リリアに、館に残して来たフランの弟弟子の姿と重ねた。

 少し離れた場所にいるフランもただ黙って見守っていた。

「だからお姉ちゃんたちにお願いがあるの」

 リリアは決意した表情で加菜子とフランを見上げた。

「うん?」

「もし、まちで黒い仔猫の……死体があったら、おはかを作ってくれる?」

 少女の目は真剣で、生半可な励ましなんて必要としていないのが分かる。

「……うん、わかった。約束する」

 加菜子は同じくらいの真剣さを返せているだろうかと思いながら少女の手を握った。

 

 ◇

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