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第14話 魔女の家 3


 意気込んではみたが、訓練自体は午後からになった。というのも、早朝からヴィンセントたちが押しかけたせいでお婆さんたちは午前中の家事や仕事が全く終わらなかったというのだ。なので、加菜子とフランは家事を手伝うことになった。


 ヴィンセントが言うこと以外従う気のないフランがお婆さんたちにエプロンと三角巾を無理やり装備され、死んだ顔ではたきを持たされた時、遠慮なく加菜子は吹き出した。おかげでフランからは殺人的な視線で睨まれてしまったが、わたしのせいじゃないと加菜子は開き直る。

 

 家事もおおかた片付いた頃、全てを諦めてはたきを動かしていたフランに加菜子は話しかけた。

 

「ねえ、そろそろヴィンセントのところに行っていいよ……というか行って、気が散るから」

 そう言った加菜子を一瞥することすらなくフランは鼻で笑い飛ばした。

「なんで僕がお前の言うことを聞かなきゃいけないわけ?」

 加菜子はムッと拳を固めたが、ふと思い付いて挑発的に笑ってみせた。

「へえ、そんなにわたしのことが気になる?」

 わざとニヤニヤと擬音がつきそうな言い方をすれば、狙い通りフランはゆっくりと振り返った。

「……は?」

 不機嫌を通りこして氷点下の表情となったフランに対し、加菜子はため息をついた。

「あのさあ、アンタがやってることって極端すぎるの。初めは全然こっちの話を聞こうともしなかった癖に今度は四六時中べったりして。別に今だってヴィンセントに命じられてるわけでもないじゃない」

 

 加菜子を連れて世界中を旅したヴィンセントは、館に戻ると加菜子を残して仕事に忙殺されるように国内を飛び回った。館には当主代行として任されたフランと、ヴィンセントなればこそと国内有数貴族の子息たちが弟子として預けられていた。史上最年少で魔術師資格を得た一番弟子、貴き血筋に相応しい才能をもつ子息たち、そしてそこに残された何の能力もない加菜子。彼女は、世界最強の魔術師の側にいることがどれほど貴重であったのかを知らなかった。

 

 ヴィンセントはそれを自分のせいだと言ったが、今ならば分かる。

 この世界で生きる覚悟もなく、無知であることは罪だったのだ。

 

「わたしはただ、話を聞いてくれればそれで良い。こんな子守りは望んでないの」

 加菜子の言葉にフランは顔を歪めた。あの日々は誰にとっても苦い日々だった。加菜子にとってみればいけすかない男であるという認識を別にしても彼ばかりに責められる理由があるとは思っていない。けれど誰が何と言おうと、それはフランにとって向き合うべき罪なのだろう。

「ヴィンセントから保険は掛けてもらってるし、よほどのことがなければ大丈夫でしょ」

「そのよほどが起きたらどうするんだ」

 フランは眉を寄せた。

 

 保険と称したヴィンセントの魔術だって一級のものだ。加菜子には少しも分からないだけで。もちろんそれがあっても不測の事態は起こる可能性があるというのは分かっている。

 だがそんなことを言っていたら加菜子は一生誰かの側を離れられない。

 一国の姫でもあるまいし、そんな生活は嫌だ。

 

「あんたたちから見ればわたしは何も出来ないかもしれないけど、これ以上、自分が足手纏いだって思いながら生きてくのは嫌」

 加菜子はフランをまっすぐに見た。フランは口を引き結んで黙り込んだ。それから深いため息を吐き出した。

「……分かった」

 本当に渋々といった仕草でフランはやっと頷いた。


 手早くエプロンたちを外して玄関に掛けた上着を取ってくると、手のひらサイズの紙を取り出して筆を走らせた。そして何かを記したそれを加菜子に押し付けた。

「これは式紙。僕の名前を書いてある。これはある意味で魔術における法則を逆手に取ったやつで」

「ごめん、分かんない」

「……1人で対処できない事態になったらこれを破れ。僕がすぐにあんたのとこに飛べる」

 呆れた表情のフランは踵を返して玄関へ向かった。

 なんとなく見送る形で加菜子が追いかけると、振り向いたフランが加菜子の額にギリギリくっつかどうかの距離で指を突きつけた。

「危ないと感じたら躊躇なく絶対使え。分かったな? 分かったら返事」

「わ、分かった。はい」

 ふん、と鼻を鳴らしてフランは出て行った。

 

「愛されてるねえ」

 どこに隠れて見ていたのか、お婆さんたちが加菜子の背後から顔を出して、ふふふと笑った。

 全く的外れなのだけれど、お婆さんが嬉しそうだからまあいっかと加菜子も強く否定しなかった。


 ◇ 


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