1.5.「本間優里」
1話の延長みたいな感じです。
本間は秋山と別れ、帰路につき、独り言を言う。
「ミタマちゃん……ミタマちゃんかぁ」
私は嘘をついていた。
_____本当は好きだった、秋山のこと。
もちろん秋山は友達だ。でも、男女の十数年の付き合いで好きになってしまうということはありえないことではない。
この恋心は前から自覚していた、中学三年生の頃だ。
当時同じクラスだった彼は、中学最後の合唱コンクールということで燃えていた。
私も当時、最後の合唱コンクールということで気合を入れていた。だが周りの人間は非情にも、やる気になってはくれなかった。
「恥ずかしくで声が出ないという人」「そもそも合唱コンクールなんて興味がないことを強制させられるのがおかしいという人」「そんな人達に同調せざるを得ない人」そんな人達の中で響く、特に上手くもない私の歌声。
「何そんな本気になってんの」って、「特別上手いわけでもないのになんで歌うの」って。
私のやっていることを否定されたわけではないが肯定されたわけでもなく、それをみんながやろうとはしなかった。
そんな中、私を肯定してくれたのが彼だった。
「なんで最後の合唱コンクールなのに歌わないんだよ」という、私には怖くて言い出せなかった言葉。
でも、本番になろうがみんながやる気になることはなかった。
だが本番でやる気のない合唱の中響く、彼の声は頼りになった。
上手いわけじゃない。綺麗なわけじゃない。でも、ただまっすぐで直向きに歌い続ける姿勢。
結局、最下位のまま合唱コンクールを終えた訳だけど。
それでも誰よりも輝いて見えた。
輝いて見えたからこそ言い出せなかった、「好き」の言葉。
「こんな私じゃ釣り合わない」なんて、否定的なことばかり考えて。
今思えば怖かっただけなんだろうな、断られる事が。
「はぁーあ、どっちが奥手で粘着質なんだか」
それでも、ミタマちゃんの笑顔が守れたなら安いもんだ。
これで……これでこの恋に決着をつけられる。
そう自分に言い聞かせても、アスファルトは濡れていた。
「何泣いてんだよ、私……」
決して涙は拭わない。
自分が選んだ茨の道、心臓に棘が突き刺さるような痛み。
でも決して引き返しはしない、それはずっと言い出せなかった自分へのケジメだから。
気付けば、晴れた空から雨が降っていた。
かるーく日常回を入れるつもりだったのですが、筆が乗ってしまい、本来10話くらいやってからやるようなドロッドロな話を入れてしまいました。
でも個人的にはとっても気に入っています。
もしあなたの脳を破壊できたのであれば本望です。
そういえば天気雨って、狐の嫁入りとも言うそうですね。