09話 魔力増加授業
またまたタイトル変えました。
とにかく、ぜんぜんポイント上がらないんで試行錯誤の最中です。
「てめぇら、しっかり飲め! 学院卒業生が狩ってくれたモンスターの生き血じゃ。まちがってもゲロなんてすんじゃねぇぞ」
さて、お待ちかねの魔力増加の授業だが。
生徒一人一人の目の前には黒に近い血液が小皿になみなみと注がれている。
コレを呑めということだ。
ガキどもはヤバイものを飲まされる恐怖で、みな青い顔をしている。
「あ、あの。魔獣の血が魔力になるというのは分かるのですが、こういうのは適切な調理をするものではないですか? ナマで飲むというのは、過分にして聞いたことはないのですが」
「毒処理はちゃんとしておる。ただ味付けをしておらんだけじゃ」
あどけない初等生に何てもの飲ませやがる。
「そ、それをしなければショック死するのでは?」
「フフフ、きさまモンスターに出会ったときも『死ぬかもしれない』と逃げ回るのか? コイツは根性だめしもかねておる! 飲めィ」
それにしても妙だ。
オレの前にはそのヤバイ小皿がない。
「フフフ、カスミよ。貴様は筆頭選抜に出る身じゃ。特別にボトルで用意してやったわ! うれしかろう」
ドンッと酒瓶いっぱいに詰め込まれた黒い血がオレの前に置かれた。
「オッス、感謝にたえません」
味付け抜きでコレを飲まされるのは辟易する。
しかし今のオレが魔獣を狩るとしたら、どれだけの準備と覚悟がいるのやら。
それを度胸一つでいただけるなら、こんな楽なことはない。
「ヨーシッ、ラカン特講”血酒イッキ飲み”はじめーい!」
グイッ グビグビグビ……トンッ
ふうっ。やっぱり味付けは大事だな。獣臭くて飲めたもんじゃない。
「カ、カスミくん?」
見ると、アリアは飲んでいない。
「アリア? どうした、早く飲めよ」
「大丈夫なの、コレ? 飲んだ人はみんな吐いちゃってるけど。……カスミくん以外」
見ると、合図があったのにアリアだけでなく大半の生徒は飲んでいない。
おそるおそる口をつけた奴も、大半はゲロっている。もったいない。
「体が本能的に吐き出そうとするからな。それをねじ伏せて飲むんだ。こういうのは、もう少し飲みやすく処理するのが普通なんだがな。あえてそれをしないのが、ここの教育方針らしい」
もしかしたら髭オーガ個人の教育方針かもしれんが。
「ううっ、体が拒否してるのがわかる。これ飲んだら死ぬかも」
「ああ、たしかに魔素中毒で死ぬやつもいるな。しかしここは学院。あらかじめその対応はしてるだろう。手遅れになることはないから安心して飲め」
「ヒッ、ヒイイイイッ」
どうやらこの授業、魔素中毒になることを前提でやらせているらしい。
アレを飲み干したオレは保健室へと行かされた。
◇ ◇ ◇
さて、保健室での処置は薬と余剰魔力の放出。
というわけで、薬を飲んだ後に魔法射出場へ行ったのだが。
そこでは貴族組の坊ちゃん嬢ちゃんが授業をしていた。
「なんだ貴様。平民クラスの奴か? ここはお前ごとき下船が来る場所じゃない。さっさと目の届かない所へいけ」
やれやれ、やはり高慢なヤツラだな。
「余剰魔力を発散してこいと言われたんです。ここの隅を少しだけ貸してください」
「ダメだダメだ目ざわりだ! さっさと行けノラ犬め」
クッ、暗殺してやろうかこのガキ。
――「待て。面白い、そいつの魔法モドキを見たい。的を使わせてやれ」
嘘だろ? 貴族のガキで、こんな優しいことをのたまう奴がいるなんて?
誰かと思えば、それは因縁の公爵公子サリエリだった。
「また会ったな、サリエリ」
「”様”をつけろ。あいかわらず無礼な奴め」
「ここは貴族も平民も対等な学校。生徒間でそういった礼はしないことも校則で定められているはずだぜ」
「フン、そんな建前を真に受けおって。それより聞いたぞ。貴様が平民クラスの筆頭選抜代表だと?」
そう言えば、他のクラス代表の情報取集を怠っていたな。
ガキの中に居すぎて勘がニブったかもしれん。
「ああ、そうだ。一組はアンタが代表か?」
「平民が貴族に質問をするな。しかし貴様が代表とはな。よほど平民クラスとはレベルが低いらしい」
フフン、とせせら笑うサリエリ。
ま、あの数値じゃそう思ってもしょうがないな。
コレだけは納得してやるぜ。
「無駄話に来たわけじゃない。あの的を使わせてくれるというのはマジか?」
「ああ、やってみろ。46マギベルが本当に魔法など仕えるようになったか見ものだな」
なるほど。オレがオタオタ魔法を使おうとするも失敗するのを笑ってやろうというハラか。
ならば見せてやろう。
魔力弾の超速射出で、的の中心のみに穴が開くサマを見てビビるがいい!
……などと、三下なことはしない。
それをやった後『あれ、これって普通じゃないんですか?』
とか、すっとぼけたセリフも言わない。
オレは仮にもプロの頂点Sランク。
実力を隠し、ここぞという時にこそ力をふるい征圧するのだ。
パシュッ パシュッ パシュッ
思いっきり時間をかけて魔法の矢を飛ばし、適当に的に散らして当てる。
このように、あくまでフツーに魔法を使ってフツーの魔法学士を演じるのだ。
よし、魔法の矢は久しぶりだが、調子いいな。
しばらく撃っていると、やがて体内の魔力が程よく減ってきた。
そろそろいいかな。
「感謝するぜ。いい魔力放出になった。んじゃ筆頭選抜でまた会おう……どうした?」
なぜか、貴族のガキどもがポカンとした顔でオレを見ている。
おかしいな、特に目立ったマネをした覚えはないんだが。
「お、お前! いま無詠唱で魔法を使ってなかったか!」
…………あ。
基礎魔法は術式が簡単だから慣れてくれば詠唱もいらないで使えるようになる。
が、魔法使いはじめの初等生がまだ出来ないのは当たり前。
「それにぜんぶ的に当てるなんて! こんなに早く制御できるようになったのか!」
嘘だろ? 的の距離はたった十メートルだぞ。
……いや。初等生は魔法を発言させるだけで精一杯で、コントロールはできないんだろうな。
「平民! きさま……どんな訓練をした? 魔力さえ魔法を使うレベル達していなかったお前が、こんな短期間にこれだけ使えるようになるなんて!」
魔法使いはじめの初等生がどういうモノだったか知らなかったオレのミスか。
仕方ない。ここはイキったガキでも演じておくしかない。
「ハーッハッハ、ただ授業を真面目に受けただけだぜ。まさか、入って二日でここまで魔法が使えるようになるとは、ラカンすげぇ!」
「ぐっ……いくら何でも早すぎる!」
「それはオレの才能かな? 筆頭選抜の頃にはオレはさらに強くなっている。楽しみにしてるんだな。ハーッハッハ」
ああ、嫌なガキだ。
自分が自分を嫌いになりそうだぜ。
悔しそうに貴族のガキどものまなざしを受け、オレは悠々とその場をあとにしたのであった。