06話 髭オーガ先生
コルナンの娘の名前を変えました。
彼女、ヒロインにする予定です。
「ウワッハッハ。わしが貴様の四組担任、【髭オーガ】じゃあ!!」
予想通り……というか、オレが平民である以上、四組というのは決まっている。
で、その教師というのが、見るからに平民で武闘派の豪快なオッサンだった。
おそらくは元冒険者。安定した仕事につけて良かったな。
「オッスよろしくお願いします。ところで【髭オーガ】というのが先生のお名前でしょうか?」
「フッフッフちゃんとした名前はある。だが冒険者をやっていた頃はずっとコレだったのでな。今さら本名で呼ばれるのも、むずがゆい」
じつに親しみやすい先生だ。気に入ったぜ。
「わかりました髭オーガ先生。これからご指導よろしくお願いします」
「どうせ一年こっきりじゃがのう。貴様の魔力値はたったの46マギベルというではないか。ま、せいぜい魔法のひとつも覚えていくんじゃな。グワハハハハッ」
やれやれ、先生のあたたかいお言葉が染みるね。
さて、平民クラスの四組に入り、壇上にて髭オーガの紹介を受ける。
「一ヶ月遅れで入った新入りじゃあ。せいぜい仲良くしてやれ」
「カスミ・シドウといいます。魔力はたった46マギベルですが、よろしくお願いします」
「席はそこの【アリア・メリベール】の隣じゃ。面倒見の良い女じゃから世話になれ」
親切が過ぎるぜ、髭オーガ先生様よ。
いきなり娘の隣じゃねーか!
「よろしくね、カスミくん。わからない事があったら、何でも聞いてね」
明るい赤色の髪とまっすぐな緑の双眸。やっぱり別れた妻のメリサに似ている。
ほわーん。良い娘に育ったなぁ。
おっと、オレはパパだと名乗れぬ身。ゆえに仲良くすることは出来ない。
娘よ。このまま健やかに育っていってくれ。
とにかく今日は学校という場の様子見だ。
それと並行して【筆頭】という制度の情報を集めないと。
「ヨーシ、お前ら。授業の前にひとつ決めねばならん事がある。わが校には筆頭制度というものがある。筆頭というのは学年最強の魔法学士。それを決める模擬戦が一か月後にあるのだ」
なんだ、さっそくか。どこまでも親切な先生でうれしいぜ。
「なんだよ、それ。俺たち、まだ何も習ってねぇぞ」
「貴族どもと模擬戦? 勝てるわけねぇよ。アイツら、赤ん坊の頃から英才教育受けてんだぞ」
ガキどもは怯えたようにざわめくが、髭オーガはかまわず続ける。
「それにあたって、このクラスの代表を決める! 『我は』と思う者は名乗り出るがいい!!」
もちろんオレはす早く手を上げる。
こんな貴族どもになぶられるだけのイベント、やりたがる奴もいないだろう。
オレが代表になって活躍してやるから感謝しろよ。
「カスミ……くん?」
「なッ! アリア?」
オレ達は気まずい雰囲気で、手を上げたまま見つめ合った。
なんと、娘も手を上げていたのだ!
「ウワッハハハ! 今年の初等生はやる気のある奴が多いのう。四人も立候補がおるのか」
しかも、あと男女が一人ずつ手を上げているのが見える。
正気か? 貴族の子とやり合える魔法なんか知ってんのか、お前ら。
何よりアリア! なんで親の前でこんな無謀に挑戦すんだよ!!
「じゃが、カスミ・シドウ。貴様はダメじゃ。おとなしくしとれ」
「理由をうかがっても?」
「言わんとわからんのか? これは魔法戦の代表じゃ。貴様の魔力量では火おこし一つ出来まい。”発動”」
髭オーガは呪文とともに練習用の小枝のような魔法杖をふる。
するとその先端から火が出た。
「まずはコレが出来るよう励むんじゃな。魔法戦の代表など、名乗りでる段階ではないわ」
「”発動”」
オレも呪文をとなえ練習用魔法杖を一振り。
髭オーガと同じく火を出した。
「ななっ⁉ バカな、たった46マギベルで出せるはずがない!」
そりゃ、魔力運用が未熟な子供の場合だ。
手際よくやるなら、その量で十分。
「これで代表に名乗り出られる段階というわけですね。まさか教師として男として、言い直しなんてしませんよね? まさか生徒相手にねぇ?」
「グッぐぬぬぬぬうッ ……よかろう、とりあえず候補としては認めてやろう。しかしッ! このクラスには貴様など足元にも及ばぬおそるべき使い手がおる! 貴様が代表になるには、そのはるか高い、高すぎる壁を越えねばならんのじゃ! 立て【ガムラ・イゴーゼ】!」
「オッス、ガムラ・イゴーゼ。立ちます!」
そいつはさっき立候補してた男の方で、ゴツイ体をしてるくせにメガネをした妙なガキんちょだった。
「このガムラは、魔力量345マギベル! 学年でもトップクラスの魔力量じゃ!」
ふーん、三百半ばあたりが学年の上なのか。
「しかも、それだけではないぞ。なんと、このガムラはあの伝説のSランク冒険者エドガー・コルナンに師事したことがあるのじゃ!!」
「ぐはあっ⁉」
なんだ、そんなガキ知らねーぞ。いったい何時オレに師事なんて……
あ、あれか? いつかオレに憧れたガキどもが集ったとき、簡単な初級魔法を教えたことがあった。
アレを師事とか言われても困るんだが。
「フフフ、さすがに恐れおののいたようじゃな。さて、降りるなら今のうち……」
「で、何時どうやってガムラ君と代表を決めるんです?」
「なっ! 貴様、聞いていなかったのか? ガムラは……」
「ガムラ君はコルナンじゃありません。本人の実績がまるでない奴にビビッたりなんかしませんよ。髭オーガ先生は風聞だけでクエストを諦めたことでも?」
「フッフフ、言うじゃねーか。代表選抜は今じゃ! グラウンドに出ろ!」
この髭オーガ、気分で授業内容を変えたりしてるな。
ま、オレとしては話が早くて助かるんだが。
本当に良い恩師だよ、アンタは。
いつか尊敬する人物を聞かれたら、アンタの名前を言ってやるかな。