24話 ローズエリィ先輩と対決
円柱の上でローズエリィ先輩と対峙するオレ。
どう考えてもこれから彼女と対決するシチュエーションだけど何で?
「それじゃ、いくわよ。構えなさい」
「まさか本気ですか? 中等生の筆頭ともあろうお方が、初等生と対一でやろうだなんて……」
ビュビュビュンッ
スルドイ茨のムチはオレの言葉を遮るように襲ってきた!
三連撃のうち二つまではかわせたが、三つ目は体がついてこれない。
やむを得ず赤い矢で打ち消した。
「くそっ、これが学生が放つ術かよ」
スピード、鋭さ、躱しにくいイヤらしさ、どれをとっても一流の域に足を踏み入れかけたものだ。
「すごい………アタクシの薔薇琉鞭を打ち消すなんて。こんなの本職の中堅あたりでないと出来ない技術よ。カスミくん、やっぱり只者じゃないのね」
「クッ!」
しまった。やっちまった。さっきので自然に落ちて終わらせるべきだった。
別に下のトゲトゲに落ちて血まみれになるのが怖いわけじゃない。
当たり前だが、下の剣山は死ぬようなペナルティじゃない。その程度のケガは、ちょっとキツめのクエストのたびに負ってきた。
しかしローズエリィ先輩の子供らしからぬ殺気と技の鋭さに気圧されて、思わず本気で避けちまったのだ。
「フ、フフ。カスミくんが何者なのか本気で知りたくなっちゃった。お話しよう。本当の本気で」
その笑顔はどこまでも蠱惑的で魅力的。
男を惹きつけて目をそらせない何かがあった。
「しかし、あのイバラ。たいしたものだな…………」
茨のムチはローズエリィ先輩の頭上で生き物のように曲がりぐねって回転している。
魔法で生んだ物質をここまで自在に操るなんて、よほどの才能だ。
おそらく次は全力攻撃。さっきのとは比べ物にならないムチの嵐がやってくる。
マズイな。オレの体の奴も、本気でやり合う態勢をとってやがる。
くそっ、冷静になれオレ。彼女と本気でやり合えるところなんか見せたら、もうただのデキる庶民じゃすまされないぞ。
彼女は魔法戦闘団隊長の親から戦闘訓練の手ほどきを受けた、半ば本職に片足をつっこんだ本物の実力者。それと互角に戦える庶民学生なんているわけがない。
ヤバイ展開になる前に下に撤退だ。せいぜいトゲトゲに痛がって情けねぇ雑魚ガキになって泣いてやるとするか。
――「逃がさないよ」
「なにっ⁉」
しまった。下の剣山を見すぎたか?
ふと、気がつくと、目の前にはいくつもの茨のムチがせまっていた。
「速ッ—」
速い。数も多い。
現役じゃ速さで鳴らしたオレが本気でそう思った。
これをこんな子供が放ったのか?
この娘はいつか現役時代のSランク冒険者エドガー・コルナンさえも超えるかもしれない。
だけど、それは現在じゃない。
「【赤色死線】!」
「えッ――?」
それよりさらに速い無数の線状の炎魔法を召喚。
数多の茨をすべて切り裂いた。
アホか、オレは。
一瞬生まれた彼女への妙な対抗心で、奥義まで出しちまった。
フラッ――
「くッ!」
しかもそれは一発の魔力消費が半端じゃない。
魔力欠乏で足元がフラつくのを必死で持ち直した。
ったくガキみたいな真似しちまった。体がガキになったら性分までガキに戻っちまうのか?
これから、どうしたらいいんだ。
「すごい――アタクシの全力をこうも完璧に防がれたのなんて、お父様以来だよ。もっと、もっと本気を見せてよ」
「おい、待て。これ以上魔法は使うんじゃねぇ。顔色がヤバイぞ」
ローズエリィ嬢ちゃんはさっき”全力”と言った。
魔法の全力はたった一発で体内の魔力を根こそぎ奪う。魔力効率化の未熟な子供ならなおさらだろう。
いかに彼女が学生離れした実力者とはいえ、つまりはそういうことだ。
「やめるわけないじゃない。やっと――やっと全力を出して相手をしてもらえるヒトを見つけたんだもの。されにさっきの、もう一度見てみたい。もっとやろうよ――」
フラリ。ローズエリィ先輩の足元がおぼつかなくなり、ゆっくり崩れてゆく。
完全に魔力欠乏だ。
「このッ――バカ野郎ぉ!!」
なぜ体が動いちまったのかわからない。
おそらく娘と同じ年ごろの子を見捨てられなかったのかもしれない。
気がつくとオレは円柱の上を駆けて飛び出し、ローズエリィ先輩の体を受け止め抱きかかえていた。
悪い、ローズエリィお嬢ちゃん。
オレはアンタに話す言葉を持っていない。
その年でこれだけやれる子供。しかも女子だ。
孤独だったんだろう。自分を思いっきりぶつけられる相手を探してたんだろう。
けど、オレは君と同世代じゃない。
見た目はガキでも中身はジジイだ。女の子相手のお話は苦手だよ。
「―――うおおおおッ!!」
ローズエリィ先輩を抱きかかえながら思いっきり円柱を蹴り上げた。
かなりの距離はかせげたが、やはり剣山の範囲から完全には逃れられなかった。
ザクウウッ
痛い。背中に焼けるような痛みが走った。
それでも、ローズエリィ先輩の下になって守ったのは、自分を褒めてやりたい。
「…………バカね。勝負の相手をかばう人がいますか。その痛みは負けた方が背負うペナルティなんだよ」
「そうだな。バカしちまった。ともかくどいてくれ」
「ん――」
ローズエリィ先輩はオレの上から立ち上がると、オレに手を差し伸べた。
「いろいろ悪かったわね。御対面式とはいえ、ここまでやるもんじゃないんだけどね。高等生筆頭殿から、あなたの実力を試すよう頼まれたの。そのくせ自分は出てこないし。どういうつもりかしら」
高等生の筆頭がオレを調べている? どういうことだ?
「いったいなぜです? どうしてその高等生の筆頭殿がオレなんかを?」
「さぁ、たしかに不思議よね。普段は庶民なんか気にする奴じゃないのに。でもそいつ、庶子とはいえ大貴族の息子なのよね。だからアタクシも断れなくて」
大貴族の息子か。いったいどこのどいつだ、オレのことを探っているヤツは。
「先輩、それでその高等生筆頭とやらは――ングッ?」
いきなり唇を重ねられキスされた。
ローズエリィ先輩の甘いと息が口の中に広がる。
やがて、ゆっくり体を離されてゆくと、彼女はひどく魅力的な笑顔をした。
「約束のキスよ。治癒者を待機させてあるわ。そこで背中を診てもらいなさい」
そう言って彼女は行ってしまった。
かわされたか?
まぁ子供とはいえ、上の者のことは容易く話せるものじゃないだろうしな。
「まったくガキとはいえ女は女か。話のかわし方が娼館の姉ちゃんそっくりだぜ」
かすかに残る甘い匂いを、少し惜しみながら拭う。
と、向こうからやけに慌てた様子のミチルのわめく声が聞こえた。――なッ!?
「カスミィィ!! なんだ今のは? なにローズエリィ先輩のキスなど受けているのだあああ!!」
剣山を敷き詰めた地面を、足が血まみれになるのも構わず走ってくるミチルを見た。
「なにやってんだ。せっかくこの闘場から解放されたってのに、なんでわざわざ自分からケガ負っているんだよ」
やはり年頃の女の子は苦手だ。ジジィの頭じゃ理解できね生き物だ。
少しあきれて彼女の無茶を止めに向かったのであった。




