23話 円柱林の戦い
「ウワッハッハ、これぞラカン魔法学院裏特講【剣草円柱林立闘技】! 中等生の中でも実力者と認められた者しか許されんこれを、初等生の身で体験するとは。将来楽しみなヤツラじゃのう。このエリートめ」
ったく、戦闘マニアの変態め。ハッサム先輩、そんなに楽しいですか。
それに四体一のハンデ戦とかいうが、オレ以外のヤツラは足元フラフラ、顔色は青ざめまくっていて、とても使い物になりそうにない。ったく、どっちのハンデだか。
とにかく下のスルドイ剣山はヤバイ。アレの恐怖だけで初等生連中は死人同然だ。
「ローズエリィ先輩、剣山はオレのまわりだけでいいでしょう。他三人の周りからは外してください」
「勝てばいいのよ。落ちたときのことを考えるより、勝つ方法を考えなさい」
「…………ごもっとも」
「がんばりなさい。勝ったらキスしてあげる♡」
いらねーよ! さんざんヤバイ性分見せつけて、カワイイ女気取るんじゃねぇ!
「ウヌウッ、ローズエリィのキスが奪われるとあらば容赦は出来ん。全員完膚なきまでに叩き落としてくれるぞ!」
殺気みなぎらせるハッサム先輩。後ろからは「ヒイッ」とマーツィオーのビビる声。どこまでもハンデを積み上げてゆく先輩だぜ。
しかし『負けた時のことを考えるより勝つ方法を探せ』か。
たしかに真理だ。しかし問題はコイツラが、その理論についていけるかどうかだが。
「ヒィィィッ、落ちちゃうう! 下にはトゲトゲがああッ! ハッサム先輩も怖いー!」
「こ、こんなの無理だ! 魔法の集中なんて出来やしない!」
「もう降ろせえええッ! ラカンなんてやめてやるうううッ」
使い物になりそうにないな。
しかたない。ハッサム先輩は手強そうとはいえ、まだ学生。オレに勝てない相手じゃない。ただこの体験授業自体、オレのことを探っているフシがある。後ろのみんなが倒す形で戦い方を進めよう。
「おい、お前ら。騒いでないで、筆頭であるオレの指示をよーく聞け」
「ななな、なにを! 平民のぶんざいで、僕に指示を出そうなどと!」
「聞けないなら今すぐ落ちろ。落とされるより落ちる方が、まだダメージは少ない。貴族サマのプライドにかけてオレに従えないというのなら、それくらいの根性は見せてみろ」
「ううっ………」
サリエリは足元の下を見て、さらに顔を青くし泣きそうなツラをする。
見れば見るほど凶悪なトゲ。落下すれば血まみれだ。
「サリエリ。今この中で一番強いのも、冷静に考えられるのも、カスミだけだ。今だけでいい。カスミの指示に従おう」
さすがミチル。三人の中で一番状況を認識できている。
「ぐっ…………ウググッ」
「わ、わかったっス! どうすればいいか、言ってくれッス。もう何でもやるっスから!」
「まずは立ち方だ。そんな中腰になってちゃ危ない。下を見ず、正面を向いて真っすぐに立て。下腹の重心を意識すれば安定する」
三人ともどうにか、オレの言う通り腰を伸ばして円柱に立つことに成功した。これで準備は整った。ようやくスタートライン。それじゃ作戦を開始するか。
「んじゃ、オレがハッサム先輩の注意を引いて逃げ回る。その間、得意な魔法を組み上げて当てろ。通用するのはふいを突いた最初の一度だけ。そのつもりで必ず当てろ」
「なに、逃げ回るだと? こんな場所でどうやって?」
「こうやってだ」
「なぁ!? カスミ?」
オレはピョンと飛び跳ね、隣の円柱へ。表面がツルツルして滑りやすいが、着地の瞬間、重心を完全に垂直にすれば可能だ。
足をすべらせればたちまち転落してしまうその曲芸を、こちらに注意を引くためにあえて続ける。ハッサム先輩の周囲を飛び回る。
「ほほう。まさか、そこまでこの闘場をモノにするとは。しかし、そうやたら動きまわっては悪手じゃ。空中にいる瞬間はあまりに無防備、ゆえに足の無いエモノも同然なのじゃ。そうら【空吹く突風】!」
予定通りオレを狙ってきた。風を吹かせる瞬間は気配で予測済み。
「そりゃっ!」
「なにッ!?」
空中で水平回転し、風を受け流す。さらに回転することで姿勢も安定させる。
そしてみごと円柱の上に着地。
「まさか………初見で、こうもこの闘場に対応してみせるとは。カスミ、本当にオヌシは何者なんじゃ」
「さてね。ですが、とりあえず勝負は勝たせてもらいますよ」
「なんじゃと? ………しまった!」
ミチルたちはどうにかやっと術式を組み上げ、魔法を放つ態勢が整っている。
振り返りそれを見たハッサム先輩は、受けて迎撃せんと障壁を展開する。
だけどその態勢はオレから目をそらしている。ここに最大の勝機がやってきた!
バシュゥゥンンッ
「ぐわああああっ! ぎゃあああッ!!」
魔法が放たれるとハッサム先輩は転落し、下の剣山で血まみれになった。
もっともミチルたちの魔法は不安定すぎて大した威力は出ていなかった。
オレがミチルたちの魔法に合わせ、魔法矢を先輩の膝に当てたのだ。
無詠唱なうえ、完璧に皆の魔法にタイミングを合わせた。これならオレが倒したようには見えまい。
「ふうっ。ローズエリィ先輩、はやく手当てしてあげてください。これで体験授業は終了でいいですね…………なッ、なにィッ!?」
ローズエリィ先輩はオレの前の円柱に例のトゲトゲムチを投擲して絡ませた。
なんだ、このムチ。明らかに長く伸びたぞ?
そしてそれを手繰り寄せるようにローズエリィ先輩は飛んできて、オレの前の円柱の上に降り立った。
「ふふっ来ちゃった、カスミくん」
「もう飛翔魔法を使えるんですか。それにそのムチはアーティファクトですか? ものすごく伸びましたけど」
「これは薔薇琉鞭。アーティファクトじゃなく、魔力で具現化したものよ」
物質具現化? それはひどく高度な術で、できるのは正魔法師以上だぞ。
「生まれた時から使えたのよ。ワタクシは薔薇の運命に生まれた女ね」
「薔薇なんて付いてないじゃないですか。茨の運命に生まれた人ですね」
「あら、憎らしい」
たしかにローズエリィ先輩は美人だ。しかしそれは災厄の前兆にも似た禍々しさを思わせる。間近で見れば見るほどそれを感じる。
「それで、どうして来たんです。ご自分の術の腕前でもご披露しに来たんですか」
「約束したでしょ。勝ったらキスしてあげるって」
「「な、なにィッ!!!?」」
オレの声に合わせて、なぜか向こうのミチルからも声があがった。
「なりませんローズエリィ先輩! 中等生筆頭どの! 学年の代表たる筆頭どうしが、学院の施設内でそのような不埒を!」
うん、その通りだ。ミチルはほんと良いこと言うぜ。
「ウチの委員の子もそう言ってますし。筆頭となれば人目も気にしないとならないので遠慮しておきます。それやり、早くおりましょう。ここは恐くてたまりません」
おもにローズエリィ先輩が。この人の側にいると悪い予感が止まらない。
「おそろしく速い魔法矢。無詠唱、しかも他の子のたどたどしいモノと完璧にタイミングを合わせてね」
―――!!?
「バカな…………あれが見えたんですか? いくらなんでも人間ワザじゃないですよ!」
「アタクシじゃなきゃ見逃しちゃうわね。カスミくんだけ、ずっと見つめていたから。さ、約束のキスよ」
「い、いや、やっぱり恥ずかしいし。それに場所も危ないですから、まずは降りましょう――」
ピシュゥッ
スルドイ一閃が頬をかすめた。血がかすかににじむ。
「セ、センパイ?」
それはローズエリィ先輩のムチの閃き。目にも止まらぬ速さで攻撃された。
反射的に後ろの円柱へ跳んで退がる。
「アタクシとも遊びなさい。ホントの実力見せてくれたら、キスよりもっとロマンチックなもの、あげる」
妖しくムチを舐める先輩は、このうえなくロマンチックだった。




