22話 ローズエリィ先輩の微笑み
「なッ! この上で魔法戦⁉ 落ちたらアブないじゃないですか!」
「本当にニブい子ねぇ。相手を落とすのよ。戦闘技術なんてものは、危険に身を置かないと身につくものじゃないわ。ましてや魔法戦は命を懸けた状態で術式を組むのよ。その状態で集中なんて出来るかしら?」
なるほど、理にかなっている。この闘技場は疑似的な命のやり取りを経験させる場ということか。たしかに多くの魔法師は、いざ実戦になるとあたふたして魔法が発動しない、なんてことは珍しくない。
この授業で育成した魔法師は、おそらく使える人材になる。さすがラカンだ。
「さて、誰からやってもらおうかしら?」
「ヒ、ヒィッ!!?」
まぁ理にかなっているとはいえ、やはり体の出来ていない初等生でこの授業は危ない。ざっと見たところ、中等生はそれなりに体を鍛えて落下に耐えれるようになっている。されどオレらは入学したてで、まだまだ貧弱なお子様。この授業を体験するのはヤバい。
「アナタ、いいわねぇ。怯えた顔がすごくセクシー。あなたに決めちゃおうかな?」
「そうだ、マーツィオー! センパイの御指名だ。お前が行け!」
「ヒィィィッ、イヤっす! こんなんぜったい死んじゃうッス!」
やれやれ、大騒ぎだな。
ローズエリィ先輩、オレらが怯えるサマを見て心底よろこんでやがるぜ。つまりこの中等生授業体験はそれが目的か。変態女め。
まぁいいさ。子供の体とはいえ、オレならこの程度の高さから落ちても、耐えられるだけの技術は持っている。
「んじゃ、オレがやってみたいです。初等生代表としてオレが体験します」
誰かが体験しなきゃ収まりがつきそうもないし、サクッとやって終わらそう。
「カ、カスミ!!? 本気か?」
「うわぁ、平民なのにカッコいい! なんなんスか、公爵家坊ちゃんとのこの落差」
「マーツィオー! 貴様!!」
されど、ローズエリィ先輩はひどく残念そう。
「…………つまらない
「はい? なにがです」
恐怖に怯えるサマを見たかったんだろうが、生憎だったな。
「まぁいいわ。アナタの実力も見ておかなきゃだし。ハッサム、相手をしてあげなさい」
縄梯子を登って登頂部分に立ってみると、おそろしく狭い。両足がやっと入るだけのスペースしかない。おまけにツルツルしていて、気を抜くと足をすべらせそうだ。
「本当に落ちるためだけの足場ですね。ここで先輩と魔法を撃ちあうわけですか」
オレの正面の円柱にはすでにハッサムが登っている。
慣れているらしく、こんな不安定な場所なのに余裕のニヤニヤ笑いだ。
「さすがじゃの。平民ながら筆頭になるだけのことはあるわい」
「なにがです? オレはまだ何もしてませんが」
「ここに立つとビビッて体が動かなくなる奴も多いのよ。キサマは一切のためらいなく登りきり、あまつさえ自然体で立っておる。なにをしてきて、そのクソ度胸を身につけた?」
ハイレベルモンスターを狩ったり盗賊どもを追ったりだ。飛行モンスターを狩るのに高所に立たなきゃならねぇ場面も多かったから、こういったことには慣れている。
「泥をすすって生きなきゃならない平民は、いろんな体験をしてるってワケです。寒いし、さっそくはじめましょう」
「そうじゃの…………『巻けい、蒼天のつむじ風! 【空吹く突風】』!」
突風がオレを襲い、瞬間、オレの体は空中へ投げ出された。
早い。術の精度もなかなか。中等生のガキがこれほど有効な魔法を瞬時に組めるとは驚きだ。
この授業で勝つため、最適化した術とスタイルを身につけたというわけか。
ドーーンッ
あっという間に地面に叩きつけられた。
もっとも円柱の下は柔らかい地面。完璧な受け身もとっていたので無傷だ。
されど、あえて倒れたまま負傷したフリ。
「ううっ……ぐぅ………痛い。骨が折れたかも…………」
わざとらしくウンウン唸ったりする。ヤバいくらいの重傷を負って野営地ですごした夜を思い出して。
「カ、カスミ! 大丈夫か!? 返事をしろ!」
「うわぁエゲツな。やっぱ、こんな授業無理ッス!」
「ふん、やっぱりこうなったか。こんな無謀は賢くない。愚か者は無謀に走って倒れるのだ」
負傷者が出ては、このまま体験授業を続けるワケにはいくまい。
これで御対面式は終了だ。お疲れサマでしたー。
―――!!?
殺気が背中を走り、思わず跳ね起きた。
バシイイイイッ
オレが倒れていた場所にムチのようなものが叩きつけられ、砂埃が舞う。
その持ち手はローズエリィ先輩。
彼女の持っているムチはトゲだらけの恐ろしく凶悪なもの。
いつの間にあんなものを手にしたんだ。
「センパイ、ヒドイじゃないですか。オレは重症患者ですよ。介抱するどころかトドメを刺しにくるなんて。ホントに人間ですか」
オレの倒れていた場所を見ると、地面が大きくエグれていた。
ハッサム先輩の言う通り、たしかに狂っている。
「つまらない演技に心底ムカつきましたわ。あれだけ完璧な受け身を見せておきながら、よくもまぁ騙しおおせると思いましたわね。アタクシ、舐められているのかしら?」
すんません、舐めてました。
『女だし、重傷負ったフリでもすりゃヨワヨワになっちまうだろう』とか思ってました。
まさか見破ったうえ、追撃かけるくらい指導熱心なお方とは思いませんでした。
そんな殺気みなぎらせてトゲトゲムチをヒュンヒュン唸らせないでください。
…………しかたない。こうなりゃ、下手に出てあやまり倒すのみだ。
「ゴメンなさい! あわよくば『可憐で美しいセンパイに介抱していただこう』だなんて思ってしまいました! どうか許してください!」
するとローズエリィ先輩はパッと花が咲いたような笑顔になった。
「やだっ、カスミくんったら『可憐で美しい』だなんて。カスミくんみたいにカッコいい男の子に、そんなこと言われたら照れちゃうじゃない」
あれ? チョロイ。
あれだけスルドイ観察眼とムチさばきを持っているのに、こんなものか?
「そうよね。いくら体験授業でも、初等生の子に、いきなりハッサム相手にこの闘場で戦わせるなんて、すごく無茶だったわ。本当にごめんなさい」
「オレもいい体験が出来ました。今度やるときは、美しいセンパイにいい所見せられるようガンバリます」
女らしさとか優しさとかあるじゃん。オーガ髭のヤツ、『シゴキの悪魔』とか言いすぎだぜ。ちょっとヤバイところはあるけど、可愛い女の子じゃん。
ま、本当にいい経験だった。たしかにこのラカン魔法学院は実戦的な魔法戦闘術を学べるな。これで御対面式は終了だ―――
―――そして十分後。
オレはふたたび円柱の上に立ち、ハッサム先輩と対峙していた。さらにオレの脇と後ろにはミチル、サリエリ、マーツィオーも同様に円柱の上だ。
ローズエリィ先輩は花のように微笑みながら手をふっている。
「一対一は早かったから、今度は四対一のハンデ戦にしてあげるわね。あ、それと下の地面には剣山を敷きつめておいたから。今度落ちたら本当にケガしちゃうから、負けないでね♡」
やっぱ悪魔だわ。このセンパイ。
男塾を読み返すと書きたくなるこの作品。
ローズエリィ先輩は明石先輩ポジ。初登場時のサディスト感を出せるようガンバリます。




