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21話 薔薇色の中等生筆頭

 「……人の別れとはつらいものだ。だがしかし、来るべきときには必ず来てしまう」


 なんだ、オーガ髭の、このしみじみしたセリフは。

 いつオレは卒業したんだ。


 「先生、オレは御対面式とやらに行くだけですよね? なんでサヨナラみたいなセリフ言ってるんです」

 「かつて学院の歴史に平民出で筆頭となったものはいない。高等生、中等生の筆頭がキサマにどのような感情を抱くか考えるだけで恐ろしい」


 ガキに怯えんなよ。アンタも昔は名うての冒険者だったんだろう。


 「キサマが五体満足に帰ってこれるかしれんが………だが安心するといい。キサマの父母にキサマは立派に勉学にはげみ散っていったと伝えることを約束する」


 『安心するといい』ってなにが? どう聞いても不安がらせているとしか聞こえんぞ。


 「それにしてもキサマは運がなかった。今年の中等生筆頭も高等生筆頭もかつてないクセ者が立ってしまったのだ。とくに中等生筆頭。ヤツこそは地獄の悪魔そのもの」


 ここの生徒だろう。少しは教師のセリフってやつを考えろ。

 とにかくオーガ髭の言うことには、 なんでもそのクセ者中等生筆頭は父親がモンスター討伐専門の魔法戦闘団隊長。その教えを受けた子は、中等部でシゴキの悪魔として君臨してるそうな。 


 「ガキのクセに『悪魔』なんて異名もつとは、おませさんじゃねぇか。どんな悪魔ちゃんが出てくるか楽しみなことだぜ」


 ともかく集合場所の校舎前に来てみると、オレ以外の三人はすでに来ていた。

 筆頭選抜で戦ったミチル、サリエリ、マーツィオーだ。この三人と共に初等生を統括する初等生委員会を運営するそうだ。


 しかし三人とも表情が暗いな。そんなに初等生の筆頭になれなかったことが悲しいか?

 とくにサリエリ。本来ならオレを殺したケジメに命をいただくところを、五体満足で生きていられるんだ。嬉しそうにしろ。


 「クッ、カスミ! お前のせいで僕は……まだ完全に見切られてはいないとはいえ、正嫡の道はさらに険しくなってしまった……」


 おうおう、心地いい殺気ばしった目をしちゃって。そんなアツい目で見つめられたら、優しい気持ちになっちゃうじゃねぇか。


 「気にすんな。貴族サマのお仕事は体をはったバトルじゃねぇだろう。政治やら領地経営やらアタマを使うのが本分。ガキのケンカに負けたからって、貴族サマじゃなくなるわけでもないだろうよ」


 らしくないヘタな慰めとか言うもんじゃないな。

 サリエリはよけいに憎しみで爆発したみたいになりやがった。


 「その勉学にはげむ環境でいられたなら、ラカンなんかに来るか! 筆頭になれなかったから、僕は嫡男に戻れないんだぁ!」

 「おれッチも、やっぱり日陰者の庶子のまま。上手く魔法戦闘団にでも入れなきゃ、冒険者落ちっス。クロノベル公爵家の後ろ盾、ほしかったなぁ」

 「私も筆頭になれなかったがために、冒険者をあきらめねばならなくなった。社交界修行のためにラカンをやめねばならんかもしれん」


 んん? ミチルの言っていることがおかしいぞ。

 普通、冒険者というのは成りたくてなるもんじゃないだろう。命しか売る物のないヤツラが、金のために身を切って稼ぐ手段。それが冒険者だ。


 そもそも貴族令嬢がラカンなんて戦闘魔法専門の学院に入るのがおかしい。どう考えても、淑女のたしなみに役立つ教養なんて何一つ身につかないだろうに。


 「それぞれの家庭の事情も知らずに下手なこと言って悪かったよ。ま、とにかく御対面式とやらは、さっさと終わらせようぜ。先輩方に愛想よく挨拶してまわればいいんだろ。その後、それぞれ存分に落ち込んでくれ」


 下手になぐさめようとしたら、とんだ悩み相談だ。人生の先輩とはいえ、タダでそんな面倒なことはしてられない。


 そして丁度よくというか、ようやくお迎えが来た。いかにも上級生然としたふてぶてしいツラのオスガキが三人連れだってやってきやがった。


 その真ん中の野郎はコワモテの(ツラ)に猛牛みたいな威圧感ある鍛え上げられた筋肉質の体。おそらくコイツが噂のシゴキの悪魔とかいう中等生筆頭だろう。

 魔法戦闘団隊長の子というが、なるほど。たしかにそういった鍛え方をしている体つきだ。


 「よう来たのう、初等生委員会ども。フン、貧相な平民に筆頭の座を奪われたと聞いたが。とんだ貴族の恥さらしどもが」


 やれやれ、ご挨拶なこったぜ。ま、未来の貴族サマに恥をかかせた身だし。少しは筆頭らしくコイツらの矢面(やおもて)に立ってやるか。


 「初等生筆頭カスミ・シドウです。先輩殿は中等生筆頭でありましょうか」

 「おれは筆頭ではない。筆頭麾下の中等生委員ハッサムという。キサマらを歓迎式会場へ案内にきた」


 なんだと? このコワモテのガキを降したヤツがいるってのか?

 威圧感と、そこそこやりそうな体つき。ツワモノっぽい感じがするってのに、さらにその上がいるのか。


 「それと此度は高等生の方々にはご遠慮いただいた。わが筆頭は、平民出の初等生筆頭をジックリ見極めたいとおっしゃるからのう。グフフ」


 いいねぇ、本性を隠さないその極悪ヅラ。ジックリシゴいて見極めてくれるってか? いいぜ。キサマの上に立つ『シゴキの悪魔』って野郎を拝んでやろうじゃねぇか。


 そんなわけで、ハッサム先輩らはオレ達の先を歩き会場へと案内したのだが。

 どうにも連れられていく場所がおかしい。校舎のどこかではなく、屋外の整地されてない場所へズンズン入ってゆく。しだいしだいに木々が生い茂り、森の奥深くへ連れていかれるような錯覚をおぼえたが、ふいに大きく開けた場所へと出た。


 「な、なんだ、アレは!?」

 「面妖な。モンスター除けの柵………ではないな」

 「なんか悪い予感がしてきたッスねぇ」


 そこは、さびれた荒地の中に大人三倍ほどの高さの円柱がいくつも林立している奇妙な場所だった。さながら枝葉のない林のような光景だ。


 「ウワッハッハ、驚いたか初等生ども。これぞラカン学院特講【円柱林立闘技場】! 筆頭殿、初等生のひよっこ共を連れてまいりました」


 ハッサムが声をかけた方を見ると、円柱の一本の下に、数名の上級生らしき連中がいた。ただ、その中心に居るリーダーらしきヤツは女生徒だ。


 長い睫、きらびやかな瞳、つややかな唇。淡い茶色の長い髪を後ろでまとめ、しなやかな体を学院のマントで覆いまとった彼女はまさに美少女だ。


 マジか? このコワモテを降したのがあの少女だってのか? 

 いや、一人の美女に野郎共が群がるこの感じ。まさか………

 

 「ハッサム先輩。もしかして魔法勝負じゃなく、女の武器でやられましたか?」


 おいコラてめぇコノヤロー。

 さっき『貴族の恥さらし』とかヌカしてたよな?

 どう考えてもテメーの方が数倍恥さらしてンじゃねえか!

 イケ(ジョ)のドレイになって喜んでンじゃねーぞ!!


 「フッフッフ。ローズエリィを見かけで判断しちゃならねぇぜ。あの女こそは魔法戦闘団隊長ロワイル・サベッジの娘。幼い頃から魔法戦闘の英才教育を受けてきたエリート! そして狂っているのよ」

 

 狂っている? そう思って少女の目を見てみると、なるほど。アヤしい光が見える。オレは目を見れば強いかどうかわかるが、この少女、かなりデキるかもしれん。


 「ようこそ、初等生委員会のみなさん。ワタクシが中等生筆頭ローズエリィ・サベッジ。今日は特別に中等生の授業を体験させようという趣旨よ」


 見た目で、なんとなくみんな安心したようだ。となると気になるのはこの円柱。

 さっそくサリエリが貴族の坊ちゃんらしく率先して質問する。


 「サベッジ先輩、質問です。この円柱はなんでしょう。授業でどう使うのでしょうか?」

 「あら、おニブさんねぇ。そこから垂れ下がっている縄ばしごが見えないかしら?」

 「ハッ! たしかにありますが………まさか!?」

 「のぼるのよ。そこで魔法模擬戦というワケ」


 やっぱイカレてやがるぜ、この学院。


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― 新着の感想 ―
「狂っている」とか「イカれてる」とかこの学院どうなっているの? ラガンはどんな目的でこんな学院を起ち上げたんだ?
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