20話 筆頭になったらしい
まったくショウキーの野郎もクソッタレな策をとってきたもんだぜ。
ミチルは目をむいて反論している。
「検査だけで半年も⁉ いくらなんでも長すぎではないですか!」
「いやいや、このショウキーも心苦しいのですがね。他の生徒の安全もありますので、申し訳ありませんが」
そのツラだけ見れば、生徒思いの善良教師。
ったく。『真の悪意は善意の皮を被る』とはよく言ったものだぜ。
まぁいい。こんなコウモリ野郎の浅いたくらみなんざ簡単につぶしてやる。
コウモリ共を放ったのはまずショウキーで間違いない。ならば野郎の今までの足取りを追えば、おそらく証拠は出てくる。
「となれば、まずはアリバイだな――うっ⁉」
ふいに圧のある者の気配がした。
その方向に目を向けると、そいつはその巨体をを威風堂々と見せつけ歩んでくる。
それはこの学院の学院長。いったいなぜにこのハゲな筋肉ダルマが、複雑な術式を操る魔法師なんかになったのやら。
「ラカン魔法学院学院長である!! 魔法鏡の異常によりアナウンスが出来ん。よって直々に選抜戦終了を告げにきた!!」
相変わらずヤツのデカ声は耳に響きやがる。ちっとは生徒の耳をいたわりやがれ。
ヤツはオレ同様の元Sランク冒険者。まさか引退後の仕事が学院を立ち上げることとは、意外すぎるチョイスだぜ。
しかしガキの目線で見るといっそうデカいな。鬼人とやり合った時を思い出させるぜ。
「フッフッフ、今年の初等生筆頭選抜は面白い。規格外の魔力をもった者が現れたかと思えば、それを打ち破る者が出る。しかも魔力量は選抜代表生中最小だと聞く」
ラカンはギョロリとオレを見下ろす。
「どうも。選抜戦を勝ち抜いたカスミ・シドウです」
「キサマの戦いぶり、古くからの友に似ているぞ。チョロチョロ器用に立ち回るサマなどがな。フフフ」
チッ、だれが友だ。お前なんかと友達にづきあいしたら身が持たねえよ。
と、さっきまでミチルと言い合ってたシュキーのやろうがノコノコ来やがった。
「学院長、ちょうど良かった。お話があります」
さっそく悪だくみか。ならば、こちらも反論で逆に追い詰めてやろう。ヤツのアリバイ、問いて問いて追いこんでやるぜ!
―――とか、思っていたのだが。
「他の全代表の三人抜き。よって協議する間でもなく決定する。今年の初等生筆頭はカスミ・シドウ初等生!!」
はぁ? ラカンのやつ、ショウキーのお話を聞かずに勝手に決めやがったぞ。
「ま、待ってください! カスミ・シドウくんですが、伝染病の媒介の疑いのある大コウモリと接触してしまいました。それに平民の子が筆頭となれば貴族子弟の親御さんの反発は必至。よって検査のために筆頭は辞退させるべきかと……」
「勝負である! 男の勝負である! その結果にもの言いなどありはせん!!」
いや、ミチルは女だけど。
「し、しかし他の生徒への危険が! 万一何らかの伝染病でもあったなら……」
「ワシはラカン魔法学院長ラカン・ラムカンであーるッ!!!」
そういや話を聞かない奴だったよな、ラカン。一時期はマジで種族が違うんで話が通じないかと思っていたぜ。やがてショウキーのやつは根負け。オレは文句なしに筆頭になったらしい。
「カスミ・シドウ初等生! 初等生筆頭となったからには、まず上級生筆頭との御対面式に出向かねばならん」
「御対面式? なんです、それは?」
「各学年の筆頭となった者達が集い自己紹介し合う儀式じゃ。各クラス代表になった者と一緒に挨拶に行くがいい」
それだけ言うと、ラカンはくるり後ろを向いて行ってしまった。
ミチルはあっけにとられて呟いた。
「入院検査はナシになったようだが……しかし良いのか? 伝染病の疑いまで無くなったワケではないだろうに」
「ま、このあと治癒院にでも行って一通り診てもらえばいいさ。それとあまりショウキー先生の言うことには振り回されない方がいいぜ」
伝染病なんかはまず無いと踏んでいる。大コウモリどもはショウキーの仕込み。ならば本当に伝染病まで仕込んで、大事なんかにはしないはずだからな。
「そうだな――しかしカスミ」
「なんだ?」
「私は学院長から男だと思われているのだろうか? 髪を伸ばしてはいないとはいえ、そこまでお転婆とは自覚していないが」
「気にするな。アレは戦いぶりの気に入ったヤツはみんな男に見えるらしい」
こうして筆頭選抜戦は終わった。
しかしショウキーのやつを追い込むことが出来なかったことだけが心残りだ。
学院戦闘用特殊区画を出て学院に戻ると、四組のクラス全員がアツイ目をしてオレを待っていた。ここは選抜代表として何か言わなきゃなんねぇシーンか。
「いよう、勝ったぜ。最後に妙なハプニングはあったが、オレが筆頭だ」
ウオオオオオオンッ
爆発したような歓喜の声が一斉にあがった。
その中からグレートボアのように飛び出し突撃して抱き着いてきたちびっ子はエイミー。
ギュムゥゥッ
やめろ。頭グリグリ押し付けるな。
「師匠ぉーー! 凄すぎです! まさか他の代表三人抜きなんて! 他の代表はみんな貴族なのに、強すぎですぅ!」
やりすぎた。目立ちすぎだ。戦略使って戦闘回数少な目に勝ち残るべきだったか。少なくともミチルとの戦闘は余計だった。
ふと見ると、アリアが可愛くふくれっ面をしてオレとエイミーを睨んでいる。
「ちょっとエイミーちゃん! くっつきすぎだよ! カスミくん、迷惑してるじゃない!」
「ふふーん。アタシはカスミ師匠の一番弟子! いちばん近くに居るのは当然なのだ。ねぇ師匠、ずっとこうしてようね」
ガキのくせに男の独占はかるんじゃねぇ!
「だ、だったら私もカスミくんの弟子だもん! こうしていいんだよね?」
ギュムッ
アリアまでくっついてきやがった! オレはまだ『いい』なんて言ってないぞ!
アリア、キミがエイミーと取り合っているのがお父さんだと知ったらどう思うんだ。
「うおおおッ! われらが平民クラスより出た筆頭殿を女ばかりに独占させるか! 筆頭殿はみんなのものじゃあーー!!」
ぐえええっ、ガムラまで抱き着いてきやがった! 暑い! 苦しい! 離れろ筋肉インテリ!
すると男女問わず一斉にオレに抱き着いてきやがった!
ファンのみなさん、抱き着きやらかしはご遠慮くださいッ。
結局その後、もみくちゃにされたまま一日は終わったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラカン魔法学院裏門の職員専用出入り口。そこをくぐろうとしたラカン学院長に声をかける者がいた。
「ラカン、こっちだ」
それは聖杯の淑女と呼ばれる少女。彼女は裏門の影に潜んでいた場所から這い出てくる。
「おおうっ、シェリーか。勝手に飛び出していきおって。キサマは貴族連合に追われる身。人前に姿をさらすものではないぞ」
「わかってはいるが、な。ミルテアの娘に何かあったらと思うと、いてもたってもいられなかった。いかにエドガー・コルナンがいようとな」
「フフフ、あれがコルナンか。ずいぶんかわいらしい姿になったものだ。シャッフル・レガリアの奇跡は恐るべきものだな」
「その奇跡のおかげで、自由に出歩くことも出来なくなったがな。とりあえずミルテアから力を引き継いだ娘に実戦を経験させるという目的は達した。引き続き指南をエドガーに任せてもよかろう」
「フフフ、友情あついことだな。ミルテアは生に見切りをつけ娘に力を継承させ逝った。オヌシはまだ生きるのか?」
「五百年もの生に飽いてはいるがな。わたしはまだ死ねない。シャッフル・レガリアの最悪のアーティファクト。それの完全封印を確認するまではな」
「フッ、そいつの行方はワシの方でも調査しておこう。その代わりワシの目的も手伝ってもらうぞ」
「『共和制』か。平民も政治に参加する権利を持とうという運動とやらだな。近頃流行らしいな。よかろう。だがそれなら何故ショウキーを見逃した? アレは貴族連合の手先だぞ」
「今ヤツを詰ませようと大元から切り離されて終わり。それよりはヤツを利用し、こちらの手駒にした方がはるかに有用よ」
ラカン魔法学院にも貴族対共和主義の対立は深まってゆくのだった。




