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02話 聖杯の力でガキになった

 ハメられたと気づいた坊ちゃんは、アワ喰ってオレと聖杯の淑女ちゃんの死体を調べに戻ってくるだろう。


 そのサマを見て「ざまぁ」と言ってやりたい気もするが、危険な場所に長居しないのも長生きのコツだ。想像でがまんするか。

 オレ達は慎重に足跡を消しながら、廃墟を後にした。


 さて、現場にオレと聖杯の淑女ちゃんの死体がないと知れれば、伯爵とその坊ちゃんは当然オレの足取りを追うだろう。


 となれば、いま暮らしている宿屋に戻るのは危険だ。

 というわけで、オレと淑女ちゃんはオレの家へ身をひそめる事にした。


 持ち家があるのに宿屋暮らしなど矛盾しているようだが、ちゃんと理由はある。

 要するに今回のようにヤバイ奴に恨みをかった場合に備えて、自分の家は知られないようにしているのだ。


 「さすがはSランク。身をひそめる場所まであるとはな。お前と組んで良かった」


 「まだ依頼を受けるとは言っていないぜ。んで、どうしようってんだ。オレに魔法学校へ入れってなトチ狂った依頼だが」


 「もちろん聖杯の奇跡を使う。待ってろ」


 彼女は呪文を唱えると、またしても聖杯が彼女の手の中にあらわれた。


 「ホラ、口を開けろ。飲ませてやる」


 「なんだ、そんなアヤしいモン飲ませるのか? 大丈夫なんだろうな」


 「もちろんだ。これは、あらゆる王侯貴族が莫大な財を差し出しても欲しがる秘薬。それを口にできる栄誉を嚙みしめ飲むがいい」


 「なら、それを売って娘の学費にしたいね。こちとら栄誉より金が何より大事なんでね」


 「金など仕事を完了させたなら、いくらでもヤル。昔、薬を売って使いきれないほど稼いだことがある」


 ああ、エリクサーをあんな簡単に生み出せるなら、金などいくらでも稼げるわけか。

 こちとら死ぬ思いでクエストこなしても、装備やらポーションやら治療費やらで毎回カツカツだってのに。


 ともかく、飲まないことには話は進まないようだ。

 淑女ちゃんから聖杯をとって、一息に飲み干した。


 「ウ……グッ?」


 体が燃えるように熱い。

 まさか毒? ……いや、そうじゃない。


 体中の器官がやけに激しく動いて燃えるみてぇだ!!

 オレはうずくまり、体の熱がおさまるのをじっと待つ。



 「よし、無事に完了ダ。どうだ、気分は?」


 「ひでぇ目にあったぜ。コレのどこが王侯貴族様の欲しがるシロモノだってんだ?」


 ふと、違和感に気がついた。

 自分の声がやけに若くなったような気がするのだ。


 「ホラ、そこの鏡を見てみロ。見知ったガキがいるゾ」


 「ガキ? 鏡の中の妖精さんか?」


 フラフラ鏡の前に立ってみると、本当にどっかで見たことがあるようなガキがそこに居た。


「こりゃあ……オレか? この頃は容姿なんか気にしたことはなかったが、やはり貧相だな。けど、(ツラ)だけは良かったんだな」


 そういえば娼婦の姉ちゃんにやたらおごられて生きてきたっけ。

 イケメンに生まれて助かっていたんだな。

 

 「どうだ? 若返った気分は」


 「本物かよ。幻術ってやつじゃ……ねぇな」 


 心臓の鼓動が早い。幻術の類じゃなく、本当に若返っている。

 聖杯の力ってな、エリクサーを生むだけじゃないのか?


 なんてこった。こんな奇跡までおこせるなら、あらゆる貴族どもが血眼になって探して争奪戦になるだろう。


 「これで学校に行けるな。学費の方は経費として出すから入学手続きはたのんだ」


 「身分はどうすんだ? 魔法学校に行ける人間なんざどこぞの貴族のお坊ちゃんだろう」


 「問題ない。学校の名はラカン魔法学院。戦闘魔法師を育てるための学校で、平民にも入学の可能な場所だ」


 「ラカン魔法学院? よりによってそこかよ! 娘が通ってるんだよ、そこに!」


 「ほほう、良かったな。親子のふれ合いを味わい楽しくお仕事か。学校生活が楽しみだろう」


 くっ、どんな顔してアリアに会えば良いんだ。

 とりあえず、アイツには会わないでおこう。


 「娘のことはいい。で、そこで何すりゃいいんだ」


 「まずはそこの筆頭になれ」


 「筆頭? そりゃ何だ」


 「各学年の最強魔法学士だ。そこは戦闘主体の魔法を教える場所なだけに、最優秀の生徒ではなく模擬戦の戦績の高い者が筆頭となる。まずはそれになれ。ただ、オマエが入る平民クラスで筆頭が出たことはないがな」


 「まぁ、そうだろうな」


 魔法はだいたいが王族貴族が独占して、支配のよりどころにしている。

 しかし、モンスター退治などの汚れ仕事は貴族が嫌がるため、限定的に平民にも魔法教育の場があるのだ。


 「そこでは平民差別がひでぇって話は聞いている。オレのパーティーだった奴もそこの出身だったが、貴族組のヤツラが横暴で地獄だったそうだ。先生方も平民なぞ見下してるらしいしな」


 「魔法は貴族様の領分、そこに平民が手を出したなら貴族様は面白くないからな。で、どうだ。なれるか?」


 「おいおい、Sランクを舐めてもらっちゃ困るぜ。ガキのケンカでトップになりゃいいんだろ? 楽勝だぜ」


 「そうかな? 今のオマエにSランクの力はない。筋力魔力もその年齢当時に戻っているからな。それでも楽勝か?」


 「な、なんだと⁉」


 たしかに、体から魔力が消えている。

 魔力というのは、魔物のように魔力の強い獲物を狩ったりすれば飛躍的に上がる。

 つまり、これまで何頭もの高魔力の獲物を狩ってきたオレは、世界でも有数の魔力持ちだった。


 覚える術式が少ないせいで魔法錬士どまりだったが。

 それはともかく、これまでの戦いの経験値とでもいうべき魔力はそっくりなくなっていたのだ。


 「くっ、よりによってこの年か。たしかまだクソオヤジが生きていて、奴の酒代稼ぎに丁稚をやっていた頃だな。魔力はほとんどないし、体も鍛える前のものだ」


 「どうだ、無理か?」


 「まさか。オレはオヤジに売られてエサ役として冒険者になったんだがな。そこでも、この体で生き抜いてきた。魔力の上げ方も知っているし、もう一度鍛え直せばいいだけのことだ」


 「さすが私が見込んだ男だ。では、頼んだ」


 「それで、その筆頭になってどうするんだ。今の所、アンタに関係ありそうな話にはなっていないが」


 「筆頭になれたなら続きを話してやる。第一段階もくぐれん奴に、私の目的を話すわけにはいかない」


 たしかにな。どのみち、この体じゃもう一度鍛えなおさなかやならんし、筆頭になるというのは、丁度いい目標かもしれん。


 「ごもっとも。じゃ、しばらく山にでもこもるかな」


 「山? なんだいきなり」


 「修行だよ。入学までにある程度は鍛えて魔力は上げておく」


 これから上げなきゃならないレベルの高さにうんざりしながらも、オレの心は高揚していた。

 はからずも若い体を手にしたんだし、久しぶりにダンジョンでも行くかな。


 

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