19話 巨大コウモリの群れ
巨大コウモリの群れがオレら目がけて迫ってくる。魔力欠乏で足元はふらついてるし、逃げは考えない方がいいな。
「…………まぁ、あれだけの数は壮観だが、しょせんはレベルDのモンスター。さほど命が危険な相手でもない。適当に迎撃していきゃ、そのうち助けも来るか」
さて、問題は魔力の欠乏だが、運がいいのか悪いのかここに膨大な魔力タンクがある。しかしこれを使うとなれば、新たな問題が生まれるんだよな。
腕にかかえたミチルを見て、わずかに逡巡する。
「……ま、先の心配をしてもしょうがねぇな。今の危機を越えてこその未来だ」
伯爵公女に不埒をした咎で追われることになったら、逃げるとするか。
「おい、エドガー? 何をする気だ………なにッ⁉」
オレはミチルに口づけをした。
魔力補給のウラワザ。口をつけた相手から魔力をいただく。
キュポンッ
「ふぅい、やっぱり大した魔力量だ。さて、不埒な行いの成果を見せるとするか」
ギャアギャアうるさい暗雲はすぐそこまで迫っていた。
魔法矢を三連弾コウモリどもの中心めがけて放つ。数匹ほど落ちたが、それにも怯まず襲ってくる。
「やっぱこの程度じゃダメか。大技の連発でしのぐしかないか。”巻け、絶壁より吹きあがる嵐。【嵐が丘】”!!
大きな旋風を巻き起こしコウモリどもを地面にたたき落とす。二発目を放った後、眩暈に襲われる。
「くそっ、もう魔力切れだ。悪い、お嬢さん。またもらうぜ」
「まて、エドガー。もうそいつはやめろ。そんなことはしなくても………」
淑女がゴチャゴチャ言っているが、構っている暇はない。
またしてもミチルに口をつけて魔力をいただく。
「――ム? ムムーーゥ!!!?」
運の悪いことに、その最中にミチルが起きちまった。
ミチルは「グイッ」と渾身の力でオレを押しのける。
「バ、バカ者! キサマいったい何をしている……うわぁっ! なんだこれは! なぜフィールド内にモンスターが出現している!?」
「筆頭選抜の一環かもな。コイツを抜けられなきゃ筆頭の資格はないとか」
「バカな。いくら何でも初等科の選抜でそこまで………いや、ラカン学院ならあり得るか?」
ねぇよ。
心の中でツッコミながら、再び【嵐が丘】を連発してコウモリどもをまとめて叩きおとす。
「くそっ、またまた魔力切れだ。ミチル、頼む。また魔力を補給させてくれ」
「魔力補給? ってどうやって………ムグゥッ!!?」
許しを得る暇なんてない。ミチルに三たび口づけたが、「ドンッ」とミチルに押しのけられてしまった。
「魔力補給ってそれか!? 女の口を何だと思っている! そんな不埒をせずとも、私が……うわぁっ!」
四方からコウモリにまとわりつかれ、ミチルは叫びをあげる。やはり魔法で迎撃どころじゃないな。
「アンタじゃこのコウモリの中で魔力制御は無理だ。悪いのは承知だが、オレに魔力くれ」
「くっ………いっそ殺せ!」
「死ぬなら明日にしてくれ。だが今この瞬間だけは、生きることだけを考えろ。乙女の貞節も貴族のプライドも忘れてな」
「クッ………わかった。カスミ、お前にすべてまかせるぞ」
ふたたび魔力をいただくべく口をつけんとする。あどけない顔が真っ赤になっているのを見ると、どうにも罪悪感が。しかし、やるしかない!
「エド……じゃなくカスミ! いい加減にしろ!」
と、頭をぶん殴って止めたのは聖杯の淑女さん。
「なんだ、今はモラルうんぬんに構っている暇はないんだよ!」
「それでも、わたしの話くらい聞け。魔力が欲しいならマナ・ポーションがある。ホレ!」
「あ…………」
差し出された液体を満たした聖杯を見て啞然とする。
そうだった。彼女の聖杯はエリクサーだの若返りの薬だの奇跡のような液体を生み出すアーティファクト。マナ・ポーションくらい出せるよな。
ミチルと抱き合って顔を真近に寄せた状況は非常に気マズイ。
「…………悪い。乙女の貞節を懸けなくてもどうにかなりそうだ。その唇は誰か大切な人に出会えた時のためにとっておいてくれ」
「今さっきキサマが何度も奪っただろうが! 地獄に落ちろ、盗人め!」
バッチーーン
頬がヒリヒリする痛みに耐え、聖杯の中身を飲み干すと、またまた魔力がみなぎってくる。
「さぁ続きだ。こうなりゃコウモリどもを全滅させてやる!」
魔力切れを心配せず魔法を連発。数は多いものの、しょせんは雑魚モンスター。魔力切れを心配せずに戦えるなら敵じゃない。
「すごい…………こうも的確に落としてゆくとは。お前、魔法の使い方は学生のそれではないな。どこで習った」
「秘密だ。平民が上に行こうとするなら、それなりに後ろ暗いことがあるんだよ」
「そうか………だが、私はお前を信じる。私とそこの彼女を守るよう戦うお前をな」
「そうかい。ま、オレの戦いぶりはあまり広めないでくれると助かる」
「いいぞ、私の仲間になるならな」
まったくクセのある女にやたらスカウトされるな。こんなガキのナリでも中身はジジイ。若い女の子は苦手なんだがな。
コウモリの数がだいぶ減った頃合いで、聖杯の淑女はふいに言った。
「そろそろわたしは行く。教師どもがやっと来たようだしな。カスミ、また後でな。それにミチル。お前の魔力量は危険だ。そのカスミにでもしっかり操作の仕方を教わってくれ」
「なに? おい待て。君は………」
ミチルの引き留めにも応えず、淑女はさっさと行ってしまった。ま、教師に姿を見られるわけにはいかないしな。
「あの娘………昔、母とよく話をしていた女の子に似ている。しかしなぜ成長してない?」
なに? アイツの『筆頭になれ』って依頼はミチルが原因か? やたらミチルを気にかけていたし。いったいアイツの正体は何なんだ?
程なくして、ようやく先生方が救助に来た。無数のコウモリも、教師らの一斉攻撃にあってはなす術がない。ほどなくして全滅した。
そして救助に来た先生方の代表としてヘインス・ショウキーがオレらの前に来た。いかにもオレらを心配してるって風を装っているが、おそらくはコイツが仕掛け人だ。
「無事かね。まさか学院のフィールドに、これだけのモンスターが入りこむとは。観測のための魔法鏡も不調を起こし、救助が遅れて申し訳ない」
ヤツは探るような目つきでオレとミチルの全身を見ている。ケガでも負っていれば、それを理由に入院でもさせるつもりだったのだろう。お生憎。オレもミチルのカスリ傷一つおってないぜ。
「無事です。それと筆頭選抜の結果ですが、私が敗れカスミが筆頭となりました」
ショウキーは目をむいてオレを見た。この令嬢の魔力量を覆したオレが信じられないというように。
「それより申し訳ないじゃすまないぜ。オレはともかく、こっちの伯爵公女サマをこんな目にあわせたからには、タダじゃすまないんじゃないっすか?」
「ウム、その対応は困難となるだろう。だが、さしあたって君ら二人には入院が必要だ」
なに? その策は潰したはず…………
「入院……ですか? 私もカスミもとくにケガなどありませんが」
ニヤリ。ヤツの顔が悪党のそれらしい笑みを浮かべた。
「この大コウモリは伝染病をもったタイプのそれだ。学院生の安全のために慎重な検査が必要なのですよ」
「それでは仕方ありません。それで何週間くらいですか?」
「半年間ほどだろう。しばらくは入念に様子見が必要なのでね」
な、なにっ⁉ 半年もだと!
「君たちの実力はすばらしいものがある。しかし、こうなっては筆頭の職務は次点のサリエリ君に任せるしかない。君らはゆっくり養生したまえ」
くそっ! この野郎、そういう手できたか!




