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17話 ミチル・ベルナベット

 はじめて、その伯爵令嬢ミチル・ベルナベットを正面から見た。 

 後ろ髪は短いくせに前髪の方は妙に長くしている奇妙な髪型だと思ったが、その顔を見て理由がわかった。


 「ベルナベット嬢。あんた、モテるだろ」

 「ああ。結婚を申し込む男がうっとおしいんで、こんな髪をしている。私は魔法騎士になりたいのに」


 その顔には天然の魅了(チャーム)の呪術がかかっていた。

 それもかなり強いものだ。

 彼女なら王妃も狙えるというのに、もったいないことだ。


 「で、いちおう聞く。タイオー伯爵公子、そしてクロノベル公爵公子を続けて退場させたのはお前でよいのか? 平民の魔法学生が貴族学生を上回るなど聞いたこともない。信じられないのだが」

 「そうだ。二人ともオレが退場させた。事実だ」

 「あまりに早い。まさか低魔力値の平民がこのような強敵だとは。だが、何ゆえ私の前に出てきた? 逃げ切れば筆頭の座は確実だったろうに」

 「どうせなら三人抜きで筆頭になろうと思ってね。平民が筆頭になるのは、いろいろ大変なんだよ」

 「ふん、私にも勝つつもりか。舐められたものだ。だが、いいぞ。それでこそ私の求めた強敵だ」


 彼女には貴族の子供によくある平民を侮る傲慢さがない。

 オレが貴族二人を倒したことすら喜んでいる。奇妙な子だ、と思った。


 「もう一つ尋ねたい。試合開始前、私のグラスを自分のと替えたな。あれは私のに一服盛られていることを承知でか?」

 「なんだ、気づいていたのか。ま、ちょっとしたお節介だ」

 「いや、気づいたのはショウキー教諭の顔でだ。こういった事は貴族間でよくある事とは知っていたが、ここで自分に降りかかるとは思わなかった。じつに迂闊。礼を言おう」

 「よせよ。これからやり合うんだ。そういった事は、格付けが終わった後にでもしようぜ」


 話を断ち切るように呪文詠唱開始。


 「では私が勝ったなら、私の従者となれ。お前はかなり腕が立つ。それに性根も正しい者のようだ。ぜひとも私のやる事に力を貸してほしい」


 やれやれ、またスカウトか。

 しかしこっちはすでに戦闘にはいっているってのに、向こうは今だ無駄話。しかも、もう勝った後の話をしている。ムカつく。


 「そういった話はオレに勝ってからにしてくれ。【赤い魔法の矢レッド・マジックアロー】!!」


 バシッ バシッ バシッ

 マジックアロー三連射。されどそれは、彼女の展開した魔法障壁に阻まれた。


 一般に魔法障壁は、魔力量の高い者ほど強固かつ簡単に展開できる。

 彼女の3500もの魔力量ともなれば、さすがにオレの術では抜けない。


 「速い、それに鋭い。これが初等生の創るマジックアローか? すごいな、お前」

 「褒められても嬉しくねぇよ。まったく通用しねぇってのに。やっぱ簡単じゃねぇな」

 「いや、本心だ。これほど鋭いマジックアローを放つ者を私は知らない。では、今度はこちらからゆくぞ。『雷峰のいただきに巻く積乱雲。われは呼ぶ。大気震わす咆哮、瞬きに焼く刹那の光……』」

 「うぐっ、ヤバイッ!?」


 シュパッ シュパッ

 反射的に放った炎の閃光フレイム・ライトニング

 彼女の展開途中の術式を潰した。


 「なんだ、ひどい事をするな。私には撃たせてくれないのか?」

 「その雷撃術式、高位魔法だろう。そんなモン放たれたら終わりだ。オレは障壁つくるだけの魔力なんてないんだからな」

 「それに今、無詠唱で術を使ったな? その速さ鋭さなうえに無詠唱。なるほど、他の二人ではかなわないはずだ」


 ミチルは楽しそうに笑い、ふたたび詠唱を開始。

 それをまたフレイム・ライトニングで潰す。


 「これなら、どうだ!!」


 さらに間をおかず、一転突破で三連射。三発の魔法は一点に寸分狂いなく当たる。

 されど、それも彼女のブ厚い障壁で阻まれてしまう。


 「ダメか……」


 以前なら二十連射くらいできたが、魔力の落ちている今はこれが限界。

 そろそろ魔力も尽きてきた。


 「すごい! まったく同じ一点に当てたぞ。こんなの見たことない!」


 こっちの落ち込みも知らず、はしゃいでやがる。

 だがさっきの術が通用しないとなると、オレも考えざるを得なくなる。

 

 さて、どうする。

 ここまでオレの術は彼女にまったく通用しなかったが、まだ手はある。

 勝ちは狙える。


 だがそれは、Sランクの技を使うということだ。

 そこまでして彼女に勝つ意味はあるのか?

 彼女の力も見たし、ここらで逃げに方向転換すべきだろうか?


 またポイントの減少を最小限におさえ、上手く負けるという手もある。

 どちらにせよ、彼女につき合うのはこれまで。

 ここからはプロの仕事といこう―――

 

 そう思いかけた矢先だった。

 彼女の顔を見た。見てしまった。


 「……楽しそうだな。良い顔で笑っているぜ」

 「フフ、楽しいか。そうかもしれんな。ここまで私と張り合える者などいなかった。私はたしかに今、戦っている。おそるべき強敵とな」


 ああ、本当に子どもらしい良いで笑ってやがる。

 ったく、プロの矜持さえ消し飛ばしちまう魅力的な笑顔だ。


 「わかった。お前さんに敗北を教えてやるよ。素敵なお嬢さんへの(はなむけ)だ」


 負けるってのは悔しいさ。そりゃあミジメな気分になるさ。

 それでもここでの負けは、お嬢さんにとって一生の宝になるはずだ。

 Sランクの技、特別に見せてやるよ。



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