16話 公爵坊ちゃんの提案
「うん?」
北北西の方角に高い魔力の気配がした。と、同時。
ドォォォォンンッ
光の渦と爆音と爆風が発生した。
「ありゃ、あの伯爵令嬢がブッ放したヤツか? まるでモノホンの魔法師の術じゃねぇか。彼女だけは、学生と思ってあたらない方がいいな」
あちらで魔法戦がはじまったということは、そこに公爵坊ちゃんも居るということだ。
やれやれ、あちらも相方と合流前に別クラスの奴につかまったらしい。
格付けから言って、おそらくは伯爵令嬢がヤツを落とす。
しかし……
「やっぱケジメは自分でつけてこそ、だよな。簡単にやられるなよ、サリエリ。お前さんを筆頭選抜からおろすのは、オレだ!」
まるで愛しの恋人を求める悩める青年。
『愛と憎しみは似ている』という言葉はあるが、真実だね。
愛を求めるがごとく、そこへと駆けていった。
◇ ◇ ◇ ◇
飛翔魔術で飛んできたサリエリは、果てるようにその場に降り立った。
そのヤツの姿は、全身から疲労がにじみ出て息も絶え絶え。
結界内なのでダメージはないものの、一目で激戦をくぐった事が見てとれる。
―—―「くっ、やっぱりあの女はバケモノだ! やはりマーツィオと合流しなければ……」
「なに言ってやがる。奴はさっきリタイアだ。放送が流れたろ」
「………ッ! お前は!!」
あえてヤツの前に姿を現す。
こうしてヤツに絶望を抱かせるのも復讐の内だ。
「よう、なかなか良い飛翔魔法じゃねぇの。まだ仕留められてなくて嬉しいぜ、サリエリ」
「クッ、ここにお前が居るということは……やはりアレは聞き間違いではなかったのだな」
「ああ、マーツィオ少年はオレがキッチリ仕留めた。今のところオレが筆頭選抜のトップだな」
とは言ったが、ポイントなんざ考えちゃいない。
適当にやってりゃ、オレが筆頭になるだろうから。
「この痴れ者が! ヤツのポイントは僕のものだったんだぞ!」
「ハハハ『貴族様の持ち物に手をつけた平民は死罪』か? ここでそんな古い慣習を持ち出してくるとは思わなかったぜ」
だが、その気持ちは分かる。
オレもさっきまでサリエリが令嬢に獲られないかハラハラしてたし、獲られてりゃ歯噛みするほど悔しかったろうしな。
「ま、気をとり直せ。ここでオレを倒せりゃ、お前さんがトップだ。勝負といこうぜ」
あまり長引かせる余裕はないとはいえ、一発は撃たせるつもりだ。
オレみたいなベテランジジイが、この場に居ることへの罪悪感はある。
だが飛翔魔法はそれなりに大量の魔力を使用する術だ。その前の令嬢の強力魔法を凌ぐのにも、かなり使ったろう。
オレとやり合えるだけの魔力が残っているかどうか。
「……どうした? 魔力千超えの実力、見せてみろよ」
どういうわけかサリエリはなかなか魔法を展開しない。
なぜかじっとオレを凝視している。
「もしかしてお前、強いのか?」
「あん? まぁ、そこそこだ。マーツィオってのを抜いてきたんだから、それを考えろ」
まいったね。公爵坊ちゃん、ここにきて『人を見る目』とか開花しやがった。
まぁ人間、危機になりゃ成長のひとつもするか。
「平民……いや、カスミ。勝負はやめて手を組もう。無論、あとで相応の謝礼は支払う」
「はぁ? 何言ってんだ?」
いきなり、あさっての提案。全身からひどい脱力感。
「銀貨20枚出そう! それだけじゃない、公爵家の従者にもしてやる! 平民が公爵家の縁に連なるなど破格のことだぞ。嘘じゃない、お前ほどの腕があるなら……」
やれやれ、嫌な成長のしかたしやがる。
まぁ貴族様は人を使うのが仕事だし、この成長が正しいと言えるのかもしれんが。
だがそんな話は、オレにとってカケラも聞く価値はない。
「”燃ゆる赤色の霊矢。疾く駆けよ”」
「うっ、カスミ? 貴様!!」
「悪いな。次が来たようだし、これ以上はつき合っていられない。もう一つ。アンタの依頼は二度と受けない。”敵を射て貫け”」
パシュンッ
「あがぁッ」
オレの魔法の矢は寸分たがわずサリエリの額を貫いた。
崩れるように倒れるサリエリ。
マーティオと同じ展開……いや、奴は少なくとも戦う意思は見せた。同じに見るのは奴に失礼か。
『サリエリ・クロノベル失格。場外へ送ります』
域内アナウンスが流れると、奴は狂った。
「うわああああああッ!!! よくも……よくもカスミィィィィッ!!! 僕の、僕の公爵位があああああッ」
「できるなら万全のお前さんにケジメをつけたかった。こんな、つまらん獲物にこだわってたなんて、泣けてくるぜ」
やがて転移魔法が発動し奴が飛ばされると、辺りは一気に静かになった。
が、オレの感覚は、ほぼ近くにまで来た伯爵令嬢の強大な魔力をとらえていた。
彼女とは当たらず逃げ回っていれば、二人仕留めたポイントから筆頭になることは可能だ。しかし……
「やはり”遊び”である今のうちに、お嬢さんの力は見知っておくべきだろうな。強者の力は見極めておくべきだ」
ミチル・ベルナベッド。
彼女はおそらくは将来、魔法界の中心となるだろう。
ならばその情報は千金の価値にもなるはずだ。
「やっぱりエサは貴族様から与えてもらうより、自分で狩ってこそだよな。そんじゃ、稼ぎに行きますか」
獲物のニオイを嗅ぎつけた肉食獣がごとく、オレは彼女のせまる方向に駆けだした。




