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15話 最初のターゲット

 『これより初等生筆頭選抜を開始します。全選抜代表生行動開始』 


 ようやく本番開始か。サクッと聖杯の淑女さんの仕事を終わらせるとしますか。

 森とはいえ学院の専用区画。見通しの悪さも移動の妨げにもならない木々の中で軽く体を屈伸させたあと移動開始。ここからの行動は決めてある。


 まず狙い目はサリエリと三組のマーツィオとかいう奴。

 観察した感じ、あの二人は組んでいると見た。

 当然二人は合流し、二人で筆頭選抜を乗り切るつもりだろう。

 二人の位置から合流するであろうポイントはたやすく予想がつくし、ついでに戦略の予想も簡単だ。


 あの規格外令嬢を倒さずとも、オレとマーティオを倒したポイントを得ることが出来れば、サリエリは筆頭になる事が出来る。

 ならその戦略を、逆にオレが使ってやろうじゃないか。


 「位置的に三組の場所が近いな。まずは駒からはじくか」


 木々の間を駆け抜け、ヤツのいる予測位置へと向かった。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 ほどなくして疾走している目的の悪ガキを見つけた。

 良いモン食っていそうなデカい体をしていて、走る姿を見るかぎり身体能力も高そうだ。

 少しは鍛えた効果が出はじめたとはいえ、まだまだ貧弱な体の身には羨ましい限りだ。


 「よう、お急ぎかい」

 「あ? お前は平民クラスのザコ。時間まで隠れていると思ったッスよ。ま、探しまわる手間がはぶけたッス。一緒に来てもらうッス」

 「寝ぼけるな。代表同士が出会ったなら、やる事は一つだ。お前さんのポイント、いただくぜ」

 「お前なんか瞬殺すんのはわけないッスけどね。雑魚でもポイントはポイント。おれッチが取っちまうワケにはいかないんス」

 「そっちの事情なんざ知ったこっちゃない。今からブッ倒すから、何かやるなら今のうちにしておけ」


 小型魔法杖を向けると、奴は心底ビックリしたような顔をした。


 「おいおい、おれッチの家は伯爵家ッスよ。ひいじいさんは将軍にもなっている、武門の家柄としちゃそれなりの格式の家ッス」

 「お家自慢は教室でやってくれ。ここは勝負の場だ。いい加減目を覚ましたらどうだ?」

 「わからない奴ッスね。貴族は平民には不可侵の存在! それに対し杖を向けるなど、あってはならない反逆! 貴族への敬意を示せ平民!!」

 「だから不意打ちもせず、わざわざ顔を見せて勝負を挑んでいる。貴族様が走っている後ろから撃たなかったなんて、敬意高すぎだな、オレ」

 「このッ……愚物! 下賤! 恥も道理も知らん教養ナシ! いいか、オレッチの家が動けばお前なんて家族ごと……」


 やれやれ。やっぱり貴族の悪ガキと話すなんて時間の無駄だったな。

 さっさと終わらせよう。


 「”燃ゆる赤色の霊矢。疾く駆けよ。敵を射て貫け”」


 詠唱ナシでもできるが、相手は雑魚一人だし、ここは初等生らしくいこう。

 いくら何でも初等生が無詠唱はマズい。


 「きっさまあ! 本気で気高き血統に魔法の矢(マジックアロー)を向けるか? ならば容赦しないッス! ”大いなる大気の盾、五重六重に重なりわが前に鉄壁をなせ……”」


 こっちはいつでも撃てるが、あえてモタクサ術式を組むのを待ってやる。

 子供の努力を見てやるのも大人のつとめだしな。


 「【西風将軍の盾(ゼピュロスガード)】! フハハハ、これでおれッチは無敵なる鉄壁となった! もはやおれッチを傷つける事は先生でも不可能!!」


 完成した魔法障壁はなかなか出来栄えは良い。

 密度も高いし、かなりの効果が期待できるシロモノだ。

 貴族様クラス、けこうレベルは高いな。


 「初等生でコレを作れるとはなかなかだ。んじゃ、試してやるか」

 「フハハハ、これを見てもなおも撃つッスか? まぁ、お前にはそれしかないだろうがな。しかぁし! たとえ百発当てようと、この盾の前には……」

 「はいはい。撃つから集中しろ」


 ぱしゅんッ


 「あふん?」


 マーティオは「グニャリ」と人形のように倒れた。

 悪いな。オレはあらゆるモンスターの防御障壁を魔法物理問わずかいくぐり、当ててきた。

 そのオレの目からすれば、お前さんの魔法障壁なんざ穴だらけだ。


 「あ……あれ? どうしておれッチ倒れてるんスか? いったい何が……」

 「オレの魔法の矢(マジックアロー)がお前さんの額に当たったのさ。ってことで、お前さんの筆頭選抜は終わりだ。ゆっくり休みな」

 「え? そんなバカな。おれッチはちゃんと魔法障壁を展開してたッス! なのにそんなことあるわけ……」



 『マーツィオ・タイオー失格。場外へ送ります』


 試合場にアナウンスが流れると、やっと状況がわかったのか真っ青になった。

 赤ん坊みたいに手足をバタバタうごかし、懸命に立ち上がろうとする。


 「よせ。ちょいとキツく脳を揺らした。もう結果は変わらんのだし、大人しく安静にしてろ」


 「え、ちょっと! 本当にこれで終わり? 嫌だ、おれッチはここで負けてなんかいられないんスよ! おれッチのポイントはサリエリさんに渡さないといけないんスから! それにサリエリさんに何の協力も出来ずに終わったら、まったく公爵家に恩なんて売れないじゃないスか! 実家の援助もたいして期待できない四男坊のおれッチが、運よくつかんだ公爵家との縁! これだけが出世の足掛かりなんスよ! うわああっ、やめて飛ばさないで!」


 ああ、悪ガキとか思って悪かったよ。

 お前さんも、その年で将来のことを真面目に考えて生きているんだな。

 お前さんのの叫び、やけに胸がクルぜ。

 マーツィオの身体は光ったあと転移魔法によって飛ばされた。


 「若いモンの将来の芽をツブすなんざ、とんでもない悪ジジイだね、オレは。さて、もう一人の将来もツブしに行くか。こっちの方はまったく胸なんか痛まないがな」


 マーツィオの飛んでいった先に軽く手をふると、次のターゲットのいる先に向かった。

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