14話 父娘でボーイ・ミーツ・ガール
オレが控室になっている教室に戻ると、いつもエイミーと一緒にいるはずのアリアがいなかった。
「おい、エイミー。アリアはどうした?」
「アリアちゃんはいま出ているぞ。先生が来たんで、裏の方で話をするってさ」
先生?
「ちなみに聞くが、”先生”ってのはここの教師とかじゃないよな?」
「そうだ。あたしの尊敬する人生の先生だ!」
やはりマルタか。アイツ、来ていたのか。
しかしアイツを先生と呼んで慕うとか、思いっきり人生踏み外してんな。
ともかく何やら胸騒ぎがする。
本戦まで多少時間もあることだし、行ってみるか。
◇ ◇ ◇ ◇
校舎の裏手に行くと、ほどなくしてアリアとマルタが話している姿を見ることが出来た。
何やら深刻に話しこんでいる。
何を話しているのか聞いてみようと近づこうとした時だ。
バシッ
「なにッ⁉」
アイツ、アリアを叩きやがった!
「おいっ、何やってんだ!!」
アリアは驚いてオレを見たが、マルタは何事もないように冷めた目をしている。
「アンタか。コイツはウチのしつけさ。口を出さないでもらいたいね」
「……話してみろよ。アリアが叩かれなきゃならない何をした」
マルタは「フフン」とオレの反応を面白がるように笑った。
「そいつは後で話してやるよ。それより悪いことしたね。アンタが筆頭になるのは無理だ。まさか、あんな規格外が初等生にいるなんてね。運がなかったよ」
「ミチル・ベルナベット伯爵令嬢のことか? 別に無理じゃない」
「アンタ、あのお嬢さんの魔力値を知ってて言ってんのかい? 大魔法師様並みなんだよ。初等生の坊やが、粋がってどうにかなるようなモンじゃないよ」
「魔力だけが”大魔法師並み”というだけで、大魔法師そのものが相手じゃないだろう。魔力だけ高くとも、しょせんは狩り場に出たこともない子供だ」
規格外の魔力がどうした。
Sランクの討伐依頼はそういった存在ばかりだ。
人間の魔力をはるかに超えた魔物に魔獣。
それらを対策し工夫し捌いて倒す。それがSランクだ。
そもそも”Sランク”というのは討伐不可能とみなされたSランクモンスターからきている。
当初、冒険者ランクはAランクが最高だった。だがいつしかSランクモンスターを倒す猛者が現れ始めた。その偉業をたたえ、Sランクモンスターを倒した者に”Sランク”の称号がさずけられるようになったのだ。
「アンタの企みなど知ったこっちゃない。だがな、こちとら数字にビビッて腰が引けていたんじゃ……」
「Sランクはつとまらない?」
—―—―!!!?
「―—―ってのが、別れたダンナの口グセだったよ。まるであの人と話している感じがしたね。ことモンスター相手ならどんな強敵でも怯まないツワモノだったよ」
あせらせるな。いつの間にか正体がバレたかと思っちまっただろうが。
「そ、そうか。オレはSランク様なんて大したモンじゃないが、とにかく負けるつもりはない」
「そうかい。ま、期待しないが結果は見せてもらうよ。それとアリアを叩いた理由だけどね。どうやらウチの元ダンナ、死んだって話だ。そのことをアリアに言ったら、『たしかめに行く!』なんて甘ったれたことを抜かすんでね」
な、なにッ、オレが死んだ!!?
◇ ◇ ◇ ◇
マルタが去ったあとアリアはその場で泣いていた。
オレはそんなアリアの姿を見ないよう後ろを向いて待っていた。
「……カスミくん、もういいよ。ごめんね、筆頭選抜前なのに迷惑かけちゃって」
「迷惑なんかじゃないさ。何かあったら遠慮せず言え」
お父さんはいつだってアリアの味方だぞ。
「あーそれでだな。エドガー・コルナンさんが死んだってことだが、どこからそんな話が出たんだ」
「ギルドにずっと来てないし、どこかの貴族の配下みたいな人達が探しているし。どこかで消されたんじゃないかって」
まぁ、ある意味間違っちゃいないな。
このガキんちょがコルナンだとバレたら、たちまち公爵の手下に殺されちまう。
つまりオレがコルナンだと知られるワケにはいかない。死んだも同然だ。
「なぁ、悲しいか? オヤジさんが死んで」
「うん。本当は、またお父さんお母さんといっしょに暮したかった。お父さんが冒険者を引退したら、またお母さんといっしょになってくれるって期待してた。でも……」
ああ、クソッ。マルタ以上にアリアを悲しませていたのはオレか。
どうしていい年だってのに、アリアのために引退しなかったんだろうな。
「オレはな、エドガー・コルナンさんは生きていると思う」
「えっ?」
「話を聞いてみた所、死体も出ていないし死んだのを見た奴もいない。おそらくヤバイ貴族の恨みを買ったんで身を隠しているんだと思うぜ」
「そ、そうだよね! うん。お父さん、スゴ腕の冒険者だもん。すごいモンスターいっぱい倒してきたんだもん。簡単に死ぬはずなんかないよね」
簡単に死ぬんだよ。焼きがまわれば、どれだけのスゴ腕だろうとあっさりとな。
オレがいま生きているのは【聖杯の淑女】ってやつの奇跡にすぎない。
「あーだからだな。今はやたら探しまわらない方が良いと思うぜ。下手に探してヤバイ貴族に居場所を教えることになったら、それこそ本当にコルナンさんは死ぬかもだからな」
「うん、わかった。私、お父さんが生きていることを信じて待っている」
よしよし、元気になったな。
「いつかオレが親父さんにあわせてやるよ。つらいかもだが待ってな」
「……カスミくん?」
少しばかり危険かもな発言。でも言わずにいられなかった。
いつか本当のことを話すよ。そして安心させてやる。
「……うん、待ってる。ありがとうカスミくん」
花のように笑うアリアを見て、オレもつられて笑う。
ちくしょう、可愛いぜ。
と、校舎の鐘が「カーンカーンカーン」と激しく打ち鳴らされた。
「いけない、試合開始前の予冷の鐘だわ。カスミくん、行って」
「ああ。次に会う時はオレは筆頭様だ。じゃな」
「あ、待って。忘れもの」
あん? ここには何も持ってきてねぇぞ。
と、振り向いた時だ。
チュッ
……え?
頬にやわらかい感触。
アリアの息がわかるほど近づいた顔。
まさか、これは?
………………キス?
「筆頭選抜、がんばってね。応援してる」
少しだけ大人びた顔で恥ずかしそうに笑うアリア。
「あ、ああ。行ってくる」
妙に恥ずかしくなり駆けだした。
くそっ、ちょっと優しくされただけで、簡単に男にこんなことしちゃいかんぞ、アリア。
そう思っても、若い体の早い鼓動はどうしようもなく響いていた。




