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13話 グラスの中の秘密

 いよいよ本日は筆頭選抜当日。

 朝早くに学院指定のマントを身に着けて学院に来れば、学院内応接室へと通された。

 そこには髭オーガ先生ほか、初等組それぞれの担任らしき三人の教師。

 選抜出場のサリエリ・クロノベルほか男女一名ずつの生徒。

 そして上座に座る禿頭で巨漢の学長という彼を見て驚いた。


 「まさか【ラカン・ラムカン】? この男が学長だって?」


 その男は過去唯一オレと張り合う実績をもつSランク冒険者であった。

 各地の竜害、魔獣害の討伐記録はわずかだがオレのいたパーティーの方が上。

 しかしオレの記録はパーティー全体のものに対し、奴は奴個人での討伐記録というのだから驚くほかはない。

 そんな人間であって人外のバケモノとでもいう奴が、何故に魔法学院の学長などをやってるんだ。


 「ヨシッ全員そろったな。ではディーノ教諭、はじめたまえ」

 「ハッ、では僭越ながら初等筆頭選抜を取り仕切らせていただきます。まずは生徒諸君には魔力測定をしていただきましょう」


 またコレか。

 部屋の端に据えられた大きな水晶の魔力測定装置にディーノ先生は立つ。


 「入学時の魔力測定にて、魔力値の低かった者から測定します。まず四組代表カスミ・シドウ君」

 「はい」


 例によって水晶に手を置いて魔力を流し込む。前に比べて幾分か発光するようになっていた。


 「ほほう、上げてきましたね。魔力値298マギベル。ほとんど魔力のなかった初日からここまで上げるとは。感心しましたよ」

 「髭オーガ先生のボトルのおかげです」

 「まさか魔獣の血をボトルで? 無茶なことを。いかに薄めて魔力を低くしているとはいえ」


 いや、ほとんど原液なうえ、味付けすらしてなかったぞ。

 やはりアレは髭オーガ独自の授業らしい。

 オレは肝臓の魔力強化(ブーストアップ)とかできるから平気だが、普通の初等生がアレを一気飲みなんかしたらブッ倒れるぞ。


 「次、三組代表マーツィオ・タイオー君」


 いかにもな貴族の悪ガキっぽい奴がオレと入れ替わりに水晶の前に立った。


 「ふふん、初日は46とか冗談みたいな数値だったって聞いたッスけど、いっぱい努力したみたいッスね。でも平民の中じゃ高評価でも、貴族の基準じゃザコなんスよ」


 その悪ガキの値は523メギベル。

 魔法は貴族のたしなみにして教養。ゆえに貴族の子弟は幼い頃から魔法の訓練を受けていると聞いていたが、本当のようだ。


 「次、一組代表サリエリ・クロノベル君」


 あん? 公爵坊ちゃんが次点?

 アイツの魔力量は千超えの、冒険者魔法師なら中級レベルのはず。

 まさかあの貴族令嬢が、それより上だってのか?


 立ち上がったサリエリはやけに青白い顔をしていた。

 そして結果は1205マギベル。

 マジか? あれから200も上げたってのか? 

 初等生の年齢としてはもうとっくに限界だったろうに。

 やはり、あの顔は魔素中毒になりかけているのか?


 「サリエリ君、大丈夫かね。もし、気分がすぐれないようなら……」

 「いえ、まったく問題ありません。今日のために厳しい訓練を課してきました。やらせてください」

 「フム……よかろう。しかし模擬戦中でも異常が見られた場合、中止を勧告する場合がある。君自身も体調がすぐれない場合は無理をしないように」


 坊ちゃんもそうとう追い詰められているな。

 しかし可哀そうとは思わない。

 オレを殺そうとしたケジメに、無慈悲に筆頭の座は奪ってやるよ。


 「二組代表ミチル・ベルナベット君。君が最後だ。やりたまえ」

 「はい」


 魔力値最高という伯爵令嬢は、幼いながらとても美しい少女だった。

 しかしその美貌を否定するかのように金髪は短く刈り上げ、まるで少年みたいないで立ちをしている。

 が、驚いたのは、測定した値だ。


 「3502メギベル。相変わらず君は規格外だね。どのような魔力訓練をすればこのようになるのか」

 「普通の訓練です」


 3502だと!!?

 マジか? その年でAランク魔法師並みの魔力があるってのか?

 そんなのは、Aランクモンスターを十体ほど倒したレベルアップでなるような値だぞ!


 そんな規格外の伯爵令嬢が席に戻ると、ディーノは魔法戦の説明をはじめる。

 魔法戦は城門外の学院専用区画の森で行われること。


 そこには特殊な結界が張られており、魔法によるダメージは負わないこと。

 ただ衝撃だけはそれなりにクルので注意すること。


 そこでの戦闘はすべて特殊な大鏡に映し出され、審判によって吟味されること。

 相手に与えたであろうダメージ、与えられたであろうダメージによって評価ポイントは増減すること。


 死亡するほどのダメージを負ったとみなされた場合は即失格となり、転移魔法で場外へ飛ばされること。


 「では、これより魔法戦の試合場となる森へ移動します。諸君らはそこで……」

 「お待ちくださいディーノ教諭」

 

 いきなり教師の一人が口をはさんだ。

 あれはたしか三組担任ヘインス・ショウキー先生だったか。


 「どうしましたショウキー先生。何か質問でも?」

 「いえ、そうではありません。私から戦闘に赴く生徒たちに一杯ふるまいたくありましてね」


 パチリ指を鳴らすと、ワゴンを運んだメイドが入ってきた。

 ワゴンの上にはグラスに入った飲み物が四つ置かれていた。


 「我が実家でとれた葡萄を絞ったものです。本来はこれを発酵させワインにするのですが、生徒諸君にはそれは早すぎですからな」


 メイドは四つのグラスをそれぞれオレ達の前に置いた。

 ははあ、そういう事か。雑な手を打ってきたな。

 ま、子供相手ならこれで十分と踏んでいるのだろうが。


 「では、乾杯をし互いの健闘をたたえ合おうではありませんか。これから諸君らは戦いあうわけですが、それは憎しみ故ではない。互いに切磋琢磨して高め合う。その誓いの杯を傾けてください」


 策は雑でも、こうキレイ事を並べられると飲まないわけにはいかない。

 あのヘインス・ショウキーという教師、こういった事に慣れていそうだな。


 ただ、オレのグラスに一服盛っている可能性は低い。

 狙いはほぼ確実に規格外魔力の伯爵令嬢。

 二人が体調不良をおこせばバレる可能性は飛躍的に高まるし、仕掛けているのは彼女のグラスのみだろう。


 まぁこのお嬢さんを助ける義理はないが。

 しかしオレはああいう腹黒が死ぬほどキライだ。


 それに子供を汚い大人の策略にのせるのも気分が悪い。

 たまたま彼女の席はオレの隣だしやるか。


 「生徒諸君、グラスを傾けてください。では、乾杯……なッ⁉」


 彼女がグラスをとる瞬間「シュッ」とオレのと入れ替える。

 彼女は驚いた顔でオレを見つめ、ヘインスの奴も目に見えて狼狽している。


 「カカカ、カスミ君! 今……なにッ⁉」


 何か言われる前にグラスの中身を「グイッ」と一気にあおる。

 もっとも口の中にはハンカチを入れており、すべてそれに染み込ませた。


 「どうしましたショウキー先生。何か問題でも?」

 「……いえ、行儀が悪いですよカスミ君。飲むのは乾杯の後です」

 「これは失礼。こういった儀式にはうといので、つい早まってしまいました」


 その後、乾杯の儀は滞りなくなく進められた。

 しかし微妙な雰囲気の中での儀式で、カラのグラスをあおるオレは部屋の中全員からやけに注目された。

 やれやれ。目立ちたくないってのに、どうしてこうなるんだか。





 

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 次回は、戦闘前のちょっとした出来事を。

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