10話 彼女が筆頭をめざした理由
「カスミくん、リーダーと話がついたわ。今夜つき合ってくれる?」
「嫌でも連れていく。初の任務が失敗で、先生にすごく失望されたんだからな」
代表決定戦から5日たった日。
ようやくアリアが筆頭を目指した理由というのを話せるようになったそうだ。
ついでにエイミーも一緒にいる。どうやら二人は組んで何かしているようだ。
「やっとか。しかし、わざわざ夜まで待たなきゃならない理由は?」
「リーダーが直接あって話したいそうよ。その……話を聞いたら私たちに協力しなきゃならなくなると思うけど、本当にいいの?」
「協力しろ。こうなったら強力な仲間ゲットで、失敗を帳消しにする」
要は、きなくさい連中の仲間になっているというわけか。
ったく、オレと離れてから何してきたんだアリア。
「ああ、会ってやる。アリア……とエイミーはどこぞの悪党集団の使いっぱしりでもしてるのか?」
「悪党集団じゃない!」
「そういうのじゃないよ。ただ貴族様には面白くない活動というか、そういうの」
「……共和主義者か」
「うん……」「その通り! 貴族どもの特権をブッ潰すのだ!」
相棒の口が軽いうえにデカいな。早めに追放しとかないと死ぬぞ。
ともかく、アリアが妙な集団に入っているとあらば放っておけない。
そのリーダーだか先生だかに会ってやることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
さて、その夜。指定された時間と場所にてアリアとその人物を待った。
誰が来るかと思いきや、そこに現れた人物を見ると少なからず驚いた。
「アンタが噂の天才君か。まったく、よくもこちらの予定を潰してくれたもんだね。まさか同じ初等生にアリアやエイミーが負けるとは思わなかったよ」
その女を見て、アリアがどういう経緯で共和主義者なんて厄介な連中の仲間になったのかわかってしまった。これはしょうがない。
彼女の名前は【マルタ・メリベール】。
オレと別れた元妻。すなわちアリアの母親だ。
オレと結婚した頃は十代という若さだった上、しっかり者で頭の良い嫁さんだった。
対してオレはジジイになり始め。結婚なんて諦めていた頃だっただけに、自分に嫁いでくれた彼女に感謝したものだ。
「どうした呆けた顔をして。坊や、アタシに見惚れたかい。ハダカでも見せてやろうか?」
そんなモン十数年前にさんざん見ている……ってか、娘の前でナニ言ってんだ、テメェ!
何やらヤバイ政治活動とかしてるし、コイツにアリアを預けたのは失敗だったかもしれん。
「いらねぇよ。まだムスコも満足にたたねぇ年だ。ガキに色目なんか使ってねぇで、この子に何させているのか話せ」
「ったく、可愛くないね。けど話すには、アタシらの活動を話さにゃならん。アンタ、仲間になる覚悟はあって聞いてるのかい?}
「共和主義の『平民にも政治参加を』って部分にはうなずけるものもある。ただ問題はやり方だな。暗殺殺人を手段にするってんなら、オレは敵にまわるぜ」
貴族連中を殺せば一生日の目を見ることは出来なくなる。
アリアがそんな事に手を染める前に、さらって逃げないとな。
「それは今の所、手段にはしていない。考えているのは、貴族連中に平民の能力を見せつける事さ」
「なるほど。それがアリアを筆頭にさせるということに繋がるのか」
「貴族連中の支配の大きな理屈は『自分たちは優れた血統である。ゆえに政治のような高度な仕事は貴族にしか考えられない』ってやつだ。そして優れた血統の根拠としているのが、魔法の力というわけだ」
「だが魔法の実力で平民が貴族を降せば、その根拠は成り立たなくなる。だからこそアリアが筆頭にならねば、というわけだな」
「けど、代表はアンタにかっさわれちまった。こうなったらアンタに筆頭になってもらうしかない」
「しかしな。たかが魔法習い始めの初等生で学校で一番優れてるってだけの話だろ? その程度で貴族連中が平民の主張を認めるとは思えないんだが?」
平民の子が魔法学校の筆頭になったからといって、それはただのイレギュラー。
多少の混乱はあったとしても、大本を揺るがすにはほど遠い。
「無論、うっている手はそれだけじゃないさ。この計画が失敗してもやり直しはきく。ただ、やはり今回の筆頭の座はほしいんだ。その地位は今かなり価値が高くなっているからね」
「何があった?」
「クロノベル公爵の御子息がラカンに来ている。しかも嫡男がだ」
「ああ、知っている」
大貴族の嫡男は領地経営や政治学を学ぶため、それ専門の学院に行く。
モンスターとの戦闘魔法を学ぶラカンになぞ来るはずはないのだ。
「どうやらその坊ちゃん、ひどい叱責を受けたらしくてね。筆頭になれなきゃ廃嫡だそうだよ」
なるほど。廃嫡とはオレの予想よりキビしかったが、だいたい想像通り。
「つまり公爵家から廃嫡を出せば、貴族連中の動揺は大きい。それも平民の子の実力で」
「そういう事さね。さて、こちらは現時点で話せる事はすべて話した。次はアンタのことを語ってもらおうか」
「ただの初等生さ。クラスメートの家庭事情が心配で世話をやきたくなった」
マルタは「フフン」と鼻で嗤った。ま、ムリのある設定か。
「小芝居が鼻につくよ。アリアがただの初等生に負けるとは思えない。それなりに戦闘訓練をしてるんだろ? それに貴族のガキに刃向かってまで筆頭を目指すのも理由があるんだろ?」
小娘のころから頭のまわる奴だったが、今も変わってないな。
しかし、事情をぜんぶ話すのは無理だ。共和主義者の集まりってのが、どんなものかも分からないし。
アリアにパパだと知られたくないしなぁ。
「オレはただのEランク冒険者だ。とある依頼者から、ここの筆頭になることを要請されて動いている。話せるのはここまでだな」
「ふうん? 筆頭になれっていう目的は?」
「さぁな。公爵坊ちゃんの廃嫡が目的かもな」
「それなら貴族の子供を使うはずだ。今、平民をつけあがらせる理屈はさけるはずだからね。それに時期もおかしい。廃嫡の話が出る前に動かなきゃ間に合わないはずだ」
やっぱスルドイな、マルタは。
「オレも理由は知らん。オレにとっちゃ報酬さえありゃ、どうでもいいからな」
「フフフ、謎の依頼人まで筆頭の座をお望みか。今年の初等生筆頭はなかなか価値が高いじゃないか。アンタが筆頭になれるよう、アリアとエイミーにもサポートさせるよ」
「ああ……」
これで話は終わり。そう言うようにマルタは立ち去ろうとした。
しかしオレとしては、娘の行く末に不安を感じている。
別れたときアリアを預けたのは、頭が良くてシッカリしているコイツならきっとアリアを幸せにしてくれるだろうと信じたからだ。
だがヤバイ政治運動の駒にしているあたり、どうにも信用できなくなった。
だから危険な領域に一歩踏み込んでみる。
「なぁこのアリアって子、アンタの娘だろう?」
ピタリ。マルタは止まる。
「どうしてわかった?」
「アリアのアンタを見る目つきが、そういう感じだ。不安で親を見る子特有の目というか」
「気味の悪い子だね。そんなのがわかるのは、年くってジジイになった頃だよ」
本当に無駄にスルドイ。
「いちおう聞くが、自分の子をアンタのやる事に巻き込んでいることを何とも思わないのか? 平民が下手に目立てば、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんは必ず悪さをしてくるぜ」
マルタは「フフン」と鼻であざ笑った。
「アタシの全部は貴族特権をブッ潰すことに使うと決めているのさ。命も人生も知識も。無論、自分の娘もだよ。Sランク冒険者のエドガー・コルナンと結婚したのだって、平民出身の有名人と結婚すれば何か使えると思ったからだしね」
本当に……今さら悔んでもしょうがないが。
何て女と結婚しちまったんだ、オレは。




