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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第39話【エンヴィー】その4

 ドラゴンに乗ったジャックが視界から消えた。カーマは今、とても苦しんでいる。肉体や頭に限界を迎えており、治療したての出来損ないだ。左足は傷こそないが、重症だったおかげで機能しなくなってる。神器の矛を杖のように使い、エンヴィーの目の前に立つので精一杯だ。

 それに、これから死ぬと思うと未練と後悔で心がざわめく。


「良くて相打ち……だろうな」

「寝言は寝てから言え」

「来いよエンヴィー」

「遠慮なく」


 エンヴィーは床を叩き割り、振動と風圧でカーマを吹き飛ばした。カーマは弱々しい体を動かし、魔法で作った雲に乗り移る。だが、既にエンヴィーはカーマの目の前まで来ている。


「フン!」

「ちっ」


 避けるので誠意杯だ。攻撃を避けても避けても隙は生まれず、ただただ体力と魔力を消費していくだけだ。じわじわと死が近づいているのが分かると、何とも言えない恐怖に苛まれていく。


「死んでたまるか。死んで……たまるか」


 カーマは死を覚悟していて尚、生に執着している。自分が死ぬことが分かっても体がそれを拒んでいるのだ。


「くっ」


 そんな中、エンヴィーが瓦礫に足を引っ掛けて棍棒の重りでその場に転けた。


(奴がこんなドジする訳ない。つまり、ジャックとの戦いの疲労やダメージだ。それが今頃になって効いてきてる)


 チャンスだった。カーマはそのチャンスを見逃さず、矛を投げて最後の力で地面を蹴った。


「ウェザー.サン!」


 投げた矛はエンヴィーによって弾き飛ばされ、遠くの地面に刃が上向きになって刺さった。しかし、カーマとエンヴィーの距離は縮まった。カーマの射程距離内だ。


「当たれーーー!」

「こいつ!」


 手の平の太陽は、エンヴィーの胸に当たった。しかし、カーマの力が一切残ってない。


「はっ」

「熱いが……弱々しいなあ〜」


 腕を掴まれたカーマは、絶望の表情を浮かべる。後もう一振り体に力が残っていれば、太陽で胸を貫けたかもしれない。だが、結果は軽く胸を焼いただけで致命傷にはなってない。


「ちくしょう!」

「フン!」

「がはっ!」


 殴り飛ばされカーマの前に立ち上がったのは、鬼の如く棍棒を持つエンヴィーだ。地に倒れるカーマに棍棒を振るってトドメを刺そうと言うのだ。抗えない未来、抗えない死、抗えない運命。カーマは死を直前に悔し涙を浮かべ、全てを堪えるようにグッと瞼を閉じた。


「ははっ。悔しいか小僧!悔しいよな?だから俺は大愉快だ!死ねぇ!」


 棍棒が振り下ろされたと同時に、棍棒より早く風を感じた。空を切る心地の良い風だ。そのせいか、痛みは感じず、妙なことに死の違和感もない。


「ッ……?」

「貴様……!?」


 それもそうだろう。棍棒は、ジャックが大剣を横向きに構えて防いでいるのだから。アメリカンヒーロー顔負けのギリギリのタイミングだ。だが、ジャックの右手は以前切れたままで、頭から大量に血が流れて呼吸も乱れている。

 だと言うのに、不思議と物静かで、嵐の前の静けさのような不気味さがある。


「ジャック貴様!」

「何で……戻って来たんだ。この大馬鹿野郎」


 エンヴィーが力を込めたことで、棍棒によって大剣が砕かれる。だが、瞬時に大剣を手放して片手で棍棒を受け止めた。鬼の血を引く特異体質とは言え、130cmちょっとの少年が2m50cmを超える大男の大きな棍棒を片手で受け止めているのだ。それも、瞼一つ動かさず、静かに受け止めている。


(ビクともしない。この傷でか?)


 エンヴィーも流石に内心焦っていた。そんな中、ジャックは初めて口を開く。


「別に助けに来た訳じゃない。こいつに勝ちに来たんだ。勿論、生き残るのは俺とカーマだ」

「ジャック……」


 ジャックはそのまま棍棒ごとエンヴィーを持ち上げ、少し遠くへ投げ飛ばす。エンヴィーは目を丸くしつつもすぐに受け身を取って、片目を細めて嫌そうにジャックを見下ろした。


「図に乗るな。分かってるんだろ?もう一戦やったとこで先程と同じ結末だと」

「ああ。だからとっておきを見せてやる。まだ完全にコントロールできないが、このとっておきはお前を必ず地獄へ送る」

「とっておき?見せてみろよ。俺にとっては大したことないだろうがな」


 ジャックはほんの僅か笑みを浮かべ、自分の片目を抉り取った。そして、その片目を蝶々を逃すように手放す。すると、目玉はジャックの心臓に空いた穴に吸い込まれ、ジャックを白い光と魔力で包み込み、あたり一体を眩しくさせた。


「な、こっ……これは……」


 ジャックの髪が白髪になり、綺麗に靡いて長くなる。更に、筋肉が縮小され、体が女性寄りになって瞳に不思議な紋章が浮かび上がった。ジャックがこの姿になるのは、一年ぶりだろう。


「この姿は……まるで……」

「「アマノ……」」


 エンヴィーとカーマが口を揃えて呟いた。ジャックの姿は、ジャックの師アマノを彷彿させる。


「天津の神」


 ジャックのこの状態――天津あまつじんは、真理の義眼を常に使用できる特別な形態だ。しかし、特別な状態故、長くは保たない短期決戦向けの形態。


「ッ!傷が……」


 ジャックの破損した部位は治っており、傷や体力も元通りになっている。


(この状態が解かれれば魔力も体力もなくなる。未完成な状態だ……保って一分だろう。決めてやるさ)


 ジャックは決着を急いだ。目にも止まらぬスピードで動き、エンヴィーの周りの闇を吹き飛ばして刀を振るう。エンヴィーもそれに反応できず、左足を吹き飛ばされる。


「はっ!やはり真理の義眼の極地!天津の神か!こんなガキが使用するなんて!」


 エンヴィーも半分自暴自棄だ。しかし、諦めた訳ではなく、棍棒を切れた足に差し込んで足の代わりを作る。しかし、周りを華麗に動き回るジャックを捕まえることはできず、どんどん追い詰められる。


「調子に乗るなよぉ!何も変身ができるのはお前だけじゃない!この高御産巣日を舐めるな!」


 闇に包まれたエンヴィーは、一回り大きくなり体全身が液体のような闇となって髪が白い炎となって燃え上がった。まるで、油を注がれた蝋燭のようだ。その炎は、蝋が消えるまで激しく燃え、決して消えることはないだろう。


「ッ!」


 エンヴィーがジャックの蹴りを受け止めた。お互い、燃え尽きる数秒前で、最後の悪あがきをしているようにも見える。


「ふっう〜。どっちが先に消えるかな?」

「望む所」


 二人の周りが光と闇の魔力で満ちている。そのせいか、神秘的な空間が生まれ、時間や空間すら歪み始めている。それを直で感じていたのは、その空間に居たカーマだけだ。


「ホワイト.ファロン!」


 ジャックの指から出現した魔法陣は、何重にもなって光を放ち、それが背景に溶け込みように白くなる。


邪黒じゃこく……」


 それに対抗するように、エンヴィーも瞳を閉じたまま忍者の印の『臨』を結ぶ。周りの魔力が全て指先に集めている。それは、目で見て分かる程膨大だ。


暗冥あんめい


 更に、印を『闘』に結び変えて魔力を解放する。魔法陣から出たのは、ドクロに似た炎で、それが闇に包まれてジャックの魔法とぶつかり合う。


「ッ!」

「つッ……」


 ジャックの指が折れ曲がり、エンヴィーの皮膚が深く剥けた。肉体が耐えれない程の魔法がぶつかり合っている。それでも、お互い引くことなく体中の魔力を魔法へと変換する。おかげで、自分達も魔法に巻き込まれ、その魔法に取り込まれてしまう。


(その姿、全く嫌になるぜ。やはり運命はイタズラを好む)


 魔法が弾ける中、エンヴィーが見てるのは天津の神の姿をしたジャックだ。地に落ちて行くジャックを黄昏たように眺めて、それに合わせるようにゆっくりと地へ落ちて行く。

 同時に、脳裏に白い髪を靡かせて海を眺めている女性が映り込んだ。


(アマノ……)


 * 


 エンヴィーがまだ子供の頃、生命はまだ三つしかなかった。人類も恐竜も下界すらもない世界。後に神界と呼ばれる世界だけが存在しており、そこに三つだけ生命が住んでいた。


 一つはエンヴィー。つまり、高御産巣日だ。まだ子供で、その姿はジャックにそっくり。違いがあるなら、紫の瞳と穏やかな目付きだ。

 その時代は、まだ歴史というものが存在しておらず、自然豊かな世界が広がっている。


「今日も悪くないな」


 エンヴィーは一見何もないような世界で、何にもしないをすることが心地良かった。刺激や変化は感じられないが、穏やかな気持ちが永遠に続く安心感には敵いはしない。


「照れたちゃう!何やってるんのムスビ?」


 生命の二つ目。それはポム吉と呼んでいる白いクマのぬいぐるみだ。ぬいぐるみと言うものが存在する前から、ポム吉はこうして生命を宿し、誰もその正体を知らずに居る。


「別に何も……」

「何もしないをしてたの?」

「そう言うことだ」

「僕もやろっ」


 エンヴィーはムスビと呼ばれている。タカミムスビノカミだから、略して「ムスビ」なのだろう。それはともかく、エンヴィー――高御産巣日は、ポム吉という存在がどこから来て、どうやって誕生したのかは知らない。それでも、慣れてしまえばさほど気にする存在ではない。


「二人共、こんな所に居たんだ。今日は北側の自然を見に行こうって約束してたのに……ほんとチョロチョロと動くんだから」


 高御産巣日とポム吉の背後から綺麗な女性の声が聞こえた。とても陽気で、それでいて穏やかで美しい声だ。そう……その声は、陽気な所を除けばアマノとそっくりだ。


「ああ……悪い」

「何その態度?ちゃんとこっち向きなさいよ」


 高御産巣日の適当な返事に突っかかる女性は、とうとう近寄って来てまだ幼い高御産巣日の頭を母親のように強く撫で、綺麗な表情でこちらを覗いてきた。


「ほら、ちゃんと謝って。じゃないと行かないわよ」

「悪かったよ。いや、本当に……ごめんよ。アマノ」


 その女性の顔は、ジャックの良く知るアマノと瓜二つだった。

私は、敵役や悪役に過去を持たせるのは好きじゃないです。特にすぐ退場するような敵に過去を持たせるのは避けるようにしてます。

それでも、過去を持たせるとキャラクターを作りやすいので、ついつい過去を書いてしまうのですが…笑

過去のないキャラ、1部では希石団という悪役集団が居ましたが、その全員に過去がありませんでしたね。

しかし、2部の敵は全員が過去があります。それは、ラースというボスをより深く味わって欲しいから、他のキャラクターを通じてラースというキャラに深みを付けているんです。

しかし、例外がこのエンヴィーです。

彼の過去はとても長いです。ですが、それ程物語に関わってくるものなので、特別許してます。

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