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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第35話【楽しい学園祭】後編

 ジャックは写真を撮った男をとうとう捕らえられなかった。頭にきて壁を蹴り、ムカムカした様子で近くの階段に座る。盛り上がってる場所とは全く違う雰囲気だ。


「くそっ。せめて顔をしっかり見とくべきだった」

「見つけた」


 酷く落ち込むジャックの元に、走って来たカーマがやって来た。ジャック以上に苛立っており、何も言わずジャックをぶん殴る。


「イデっ!何しやがる!」

「てめえこそ何してくれてんだ!お前のくだらない行動のせいで大惨事!大失敗!台無しだ!」

「何をそんなに怒って……」

「お前が何をしようと構わないが、俺の足を引っ張ることはやめろ」

「メイド姿で言われても……」

「ちっ、ダメ英雄が」


 カーマはジャックに呆れて手を離し、近くに座って葉巻を吸い始めた。それを横目で見るジャックは、困惑した様子で口を開く。


「タバコ吸っていいの?」

「話しかけるな。お前のせいで進学すら危うくなった」

「だからあんなに頑張って居たの?」

「ああ」

「けど、元を辿れば客が無許可に写真を撮ったからだ」

「写真の一つが何だってんだ。お前が寛容な心で我慢すれば済むことだったんだよ。客のせいにしやがって」

「あんたも俺のせいにしてるだろ」

「クラスでやってることだ。誰かのミスは皆のミス。お前のせいだろうがよ」

「……ごめん」


 ジャックはカーマに強く言い返すことはしなかった。自分の非を認めてるのもそうだが、クラス全体を巻き込んだ罪悪感がそうさせた。沈黙と共に匂うのは、葉巻から出る煙の匂いだ。ジャックにとっては、煙たくて居心地が悪い。


「オーマイガールズ!メイド最高ね!二人共可愛い!」


 そんな二人の元に、サングラスを掛けた陽気な男が現れた。男は二人のメイド姿を見て、懐から大きなカメラを取り出し、写真を撮ろうとする。


「ちょっと!写真は!」

「ん!写真ダメ!?オーマイガールズ!」


 ジャックは反射的に写真を拒んだが、先程のことを思い出したように不機嫌なカーマを横目で確認する。そして、少し考えてからゆっくりと立ち上がって、不器用に笑う。


「いえ。写真大丈夫ですよ」

「おー!アーリガタイネー!サンキュー!キュートガール」

「ノー。ボーイ」

「ハッハッ!ダウト!ハッハッ!」

「ノーダウト」


 男は、嬉しそうにしてカメラをジャックに向ける。カーマも葉巻を吸いながらそれをジーと見ている。だが、カメラを見て何か気付いたように立ち上がって叫んだ。


「そのカメラ……よせ!避けろジャック!」

「は?」

「ハイチーズ!」


 写真を撮ったと同時に、カーマがジャックを突き飛ばした。ジャックはカーマに押し倒されて転けてしまう。


「何だよ!」

「くそっ。やはりか」


 ジャックが怒る隣で、カーマが悔しそうに周りを見渡している。よく見れば、周りは学園の中ではなく、真っ黒で何もない不思議な空間だ。


「何だこの空間」

「魔道具だ。あのカメラに撮られた者は対象者の望む空間へと強制的に引き摺り込まれる」


 ジャックはそれを聞いて先程の陽気な男に目をやった。すると、男はサングラスを外し、黒いマントを取っ払った。


「要らないのが撮れたな。まーどちらにせよ、結果は変わらない」

「きっ、貴様……」

「こいつは!」


 姿を見せたのは、ダンディーな顔と髭、黒い和風の着物、2mを超える巨体――エンヴィーだ。細めた目でジャックを見下ろし、憎しみを露わにしている。


「エンヴィー!」

「はっ……ははっ。はははははは!やっと出会えた!」


 笑うカーマは、心の底の感情を見せたように、手から光輝く魔法陣を見せる。その魔法陣から出したのは、黄金と白金が混じる剣と矛の中間のような変わった形の神器だ。


「神器、無天陽刀むてんようとう

「何だこいつ。気持ち悪い奴だ」

「我が両親の仇、今晴らす」


 カーマの行動は早かった。神器を出してすぐ、エンヴィーへの攻撃を仕掛けた。体格差がある為、懐に潜り込み、距離を取らせないよう神器と打撃を繰り出す。しかし、エンヴィーはそれを交わすか捌くかで対応する。


「カーマ引け!一人じゃ無理だ!二人で戦おう!」

「黙れ。俺に命令するな」


 カーマはジャックの忠告を無視し、構わずにエンヴィーと戦う。そして、とうとうエンヴィーへの攻撃が当たる。カーマの神器がエンヴィーの腕を切り飛ばした。


「すげえ!攻撃を避けながら神器を背中で隠し、攻撃の方向を悟られないようにした」

「邪魔だあ!」


 しかし、切り飛ばされた腕から出ている血が黒いモヤになり、離れた腕を操ってカーマの頬をぶん殴った。殴り飛ばされたカーマは、エンヴィーの方向へ飛んでいき、そのまま攻撃を仕掛ける。


「うまい!殴られる瞬間に方向転換した!このまま仕掛ける気だ!」


 だが、カーマの拳も神器もエンヴィーを透けてしまう。


「なっ!」

「くそっ。ゼウスの透過と同じ系統の物理攻撃無効化か」


 エンヴィーの体は、黒いモヤになって蠢いている。そして、全身を黒いモヤ――闇にして、カーマに襲い掛かる。


「なるほど。この部屋は真っ黒。奴が闇になれば見えずらくなるという訳か。やりずらいな」

「ライト.ファロン!」


 闇になったエンヴィーは、ジャックの光魔法によって貫かれる。闇になった状態とはいえ、相性のいい魔法は攻撃が通るようだ。おかげで、エンヴィーは血を吐いて警戒したように体を元に戻し、身構えた。


「「邪魔するな!」」


 ジャックはカーマとエンヴィーの両方から怒鳴られる。流石のジャックも困惑の表情を見せ、困ったようにメイドカチューシャを弄る。


「邪魔するなって言ったて、俺の都合もあるし」

「そんなに急がなくても飛び跳ねるくらい残酷に始末してやる。大人しく待ってろ」

「ジャック、次邪魔したらお前から殺すぞ」

「……」


 ジャックは機嫌を損ね、部屋の隅っこに座り、魔法陣から出したクレープをちびちびと食べ始めた。


「貴様、この俺に親を殺されたようだが、その憎しみは堪えた方がいい。今なら逃してやる。この魔道具は時間制限があるからな」

「バカ。お前は今から孫のとこへ行くんだよ。スロウスだっけか?会いたがってたよな……お前」

「やっぱり殺すか。お前はジャックの次に腹立たしい」


 またもや、カーマから仕掛けた。神器を達人の如く振り回し、エンヴィーを少しづつ翻弄していく。その神器は、闇になったエンヴィーの体を何度も何度も切り裂くが、やはりダメージにはなってない。


「神器、暗産霊あんむすび


 エンヴィーが取り出した神器は、カーマの足を止めてしまう程の代物だった。深い黒と紫が特徴的な棍棒で、その棍棒からは鋭く尖った針が何本も出ている。そして、一番目驚くべき場所は大きさだ。2mを超えるエンヴィーの倍は大きく、それを魔力と筋力と魔法を使って持ち上げている。だが、決して無理をしているようには見えない。それどころか、片手で華麗に棍棒を振り回していて、よく馴染んでいるのが伺える。


「棍棒……巨大な棍棒……。そうか、かつて高御産巣日神タカミムスビノカミが愛用していた神器が盗まれたと聞いたが、犯人はお前だったんだな。エンヴィー」

「盗む?自分の物を取り返しただけだ」

「何が自分の物を取り返し……何?自分の物だと?その言い方ではまるで、お前が高御産巣日神タカミムスビノカミ……みたいじゃないか」


 恐る恐るエンヴィーの顔や特徴を観察するカーマは、次第に悟ったように唾を飲み込んだ。


「……」

「いっ、いや……し、神話に乗ってる写真と確かに似てる。髪と髭が伸びて気付かなかったが、まさか本当に……」

「俺が……高御産巣日神タカミムスビノカミだ」

「なっ、何だと……そんな馬鹿な……」


 エンヴィーの衝撃の発言は、目の前のカーマと遠くに居るジャックの表情を変えた。カーマは軽い動揺を見せ、親指の第一関節を唇に押し当てている。ジャックも手と口を止めて、食べかけのクレープを落としてしまう。


「高御産巣日神だと……。日本造化三神にほんぞうかさんしんの一人で、二番目に生まれた神。最初の神、アメノミナカヌシの事実上息子。エンヴィーがそいつだって言うのか……?んなバカな!奴は遥か大昔の神だ!ラース達はそんな昔からの神だって言うのか?それに、高御産巣日神はとうの昔に死んでいる。本当に亡霊だっていうのかよ」


 ジャックの言う通りだ。高御産巣日神は伝説級の神。そして、その力は大昔から変わっていない。


「本当にそうだとしても、俺とお前の運命は変わらない。俺はお前を殺し、お前は俺に殺される」

「お前と同じことを言って殺された奴を……百人は知っている。無論、全員俺に殺された」

「ほざけ!」


 カーマは先程よりもスピードを上げて攻撃を仕掛けに行く。その早さは、瞬きをしてる間に見失う程。更には、早さに加えて攻撃方向を予測させない機動力がある。これを今まで通り避けるのは、流石のエンヴィーでも難しいだろう。


「神器、暗産霊あんむすび


 だが、どれだけ早くても、圧倒的な大きさと威力を誇る棍棒の前では無意味。棍棒はエンヴィーを超える巨大な神器。それを容易く振り回すエンヴィーは、決してカーマを近寄せてくれない。棍棒を掻い潜ろうにも、棍棒に纏わり付く闇がそれを邪魔している。棍棒が攻撃となり、巨大な盾となっている為、カーマが掻い潜る隙間はないのだ。つまり、棍棒を振り回す前に近寄らなければ攻撃は出来ない。体も巨大、神器も巨大、大きい者が優位なのは自然の理。

 動物も人間もそう……神だってそうなのだ。だがしかし、それを覆してくれるのが魔法なのだ。


「ウェザー……サン」


 カーマの手の平に出現した魔法陣は、手の平サイズの太陽を出した。そして、その太陽を魔法陣から放ち、エンヴィーの背後に回り込ませる。そう、挟み撃ち作戦だ。


(バカ。あの程度全て奴の射程距離。棍棒を振り回して終わり。カーマもわかってるはずだ。もう一策、もう一策あるんだろうな?カーマ)


 遠くから戦いを見るジャックは、紅茶を飲みながら楽立て膝で座り込む。

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