表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
92/170

第34話【楽しい学園祭】前編

 ラースは酷く落ち込んでいた。城の王座に座り、高級ワインを飲みながらぐったりしている。


「こんなことなら、キャバーに行くんじゃなかった。最悪の誕生日にしてしまった」


 小さくそう呟いたが、すぐに違和感に覚えたようにワインを一気飲みした。


「違う。そもそもあの子供さえ居なければこんなことにならなかった。スロウス、グリード、ラトニー、三人共ジャックによって殺されている。奴はこのラースを脅かしに来た悪魔……クルーニャ以来の脅威だ。これは揺るぎない事実。全てを後にしてでも、奴を始末しなければこの先には進めない」


 ラースは酔っ払たまま立ち上がり、もがくように階段を降りる。しかし、体がふらついてその場に階段から転げ落ちた。


「くっ」

「大丈夫?父さん」


 そんなラースの前に、音も気配もなくラストが現れ、酔っ払うラースの肩を持ち上げ、ゆっくりと起き上がれた。その瞬間、ラースは警戒した様子で横目をギラつかせた。酔っ払いの目にしては冴えており、いつも以上に困惑してるようだ。


「水、飲みな」

「……」


 二人はテーブルを挟んで椅子に座り、氷の入った水を一口口にする。だが、ラースに関しては明らかに様子がおかしく、警戒心を持ったまま水をちびちび飲む。


「何の真似だ……ラスト。お前が俺の心配なんて……いや、俺に構うなんて」

「母さんが死んで思ったのさ。もっと親孝行しとけば良かったってね」

「そうか」


 ラースは納得の言葉を見せたが、言葉とは裏腹に(一体何を考えて……)と思いながら警戒を高めていた。


「父さん、一つ聞きたいんだけど、目的を達成した後はどういう世界を描くの?神は俺達四人、いや、父さんだけかもしれない。天使と悪魔を従えて、どんな世界を継続してくの?」

「興味あるのか?」

「ある」

「……秘密だ」


 ラースは言葉を慎重に選んだ。そして、恐る恐るラストの目を見ようと、視線を上げる。嫌なことに、その視線はバッチリと合い、蛇に睨まれた蛙状態になる。目線が外せないが、それは恐怖などでない。親として、神として、頂点にたつ者としての意地なのだ。


「過程を楽しみたい訳ではない?暇つぶしとか?」

「お前と同じにするな」

「……まあいい。そこに、その世界に……このラストは存在する?」

「お前が望むなら……。腐っても、俺のたった一人の息子だからな」


 ラースはそう言って立ち上がり、酔いから覚めた様子で座るラストを見下ろす。そして、何にも言わずに緩く浅いハグを交わす。そのハグは、親子のものとは思えないくらい冷たく、薄汚い感情が混じったものだった。


「父さん、貴方は今追い込まれている。そろそろ来そうだ……誇り高い神の貴方が、俺様にお願いをする時が」


 聞こえるか際どい距離と声量で確かに言った。ラースも一瞬足を止めるが、何事もなかったようにホールを出る。一人広いホールに取り残されたラストは、何か楽しみを堪えるような甘酸っぱい表情を浮かべている。


「楽しいよ……父さん。貴方の元に生まれて来れて良かった」


 その背中はゾクゾク疼いており、黒い魔力が羽根のように纏わりついている。


 *


「おらお前らサボるな!客に失礼ないようにするんだ!特にアウトリュウス!それとジャック!てめら間違っても問題起こすなよ!分かったな!」


 学園祭当日。

 メイド服を綺麗に着こなし、テキパキと作業をしているのはカーマだ。やる気に満ちており、指揮を取って他の五人に怒鳴っている。


「何であんなに張り切ってるの?メイド服着るのも嫌がってたのに」

「この学園祭が成績に関わるとよ。クラスごとに順位も決まるし、評判が悪ければ進学にすら響く。リベ先生からそれを聞いてからこのザマ」


 困惑するベルは、ルーナから話を聞いてクスクスと笑っている。


「ハハッ!そんなに成績気にしてたんだ!」

「主神目指してるらしい。そりゃこんな行事一個にも本気になる」


 二人が遠目でカーマを見てると、それに気付いたカーマが勢いよく指を指した。


「そこサボるな!ルーナは厨房!ベルはセーレとジャックと客を迎える準備だ!」

「はーい」

「私料理の方が得意なのに……」

「食べる方はもっと得意だよな」

「そうそう!」

「早くしろ!」

「「はいっ!」」


 ベルは仕方なく看板を持って教室を出る。そこには、不満そうにするジャックと戯れているセーレとアウトリュウスが居る。


「俺ちゃん可愛い〜!似合ってるっしょ?」

「かーわーいーいー!セーレも似合ってる?」

「似合ってる似合ってる。けど、俺ちゃん程じゃないかな」


 セーレとアウトリュウスは、お互いにメイド衣装を楽しんでいる。カメラを持って、お互いに写真を撮り合っている。


「あれ?アウトリュウス接客じゃないよ」

「知ってるよ。ギリギリで戻るさ」


 アウトリュウスはいつも通り飄々としており、ふらついてセーレの肩に手を回す。


「今すぐ戻れ!」


 だが、教室から聞こえたカーマの声によって、仕方なく教室へ戻った。接客は、ジャック、セーレ、ベルの三人だ。


「一番似合ってるね。ジャック」

「……どうも」


 ジャックはいつも以上に物静かで、少し気だるそうに看板によしかかってる。


「そんなに嫌?皆着てるのに」

「嫌とかじゃないけど、ちょっぴり恥ずかしい」

「そういう表情だったんだ。分かりずらい顔だね」

「……」


 いつも帽子で顔を隠せるジャックも、今の格好では顔を背けることしか出来ない。


「おっ、お客様がお見えになったよ」

「頑張ろうね」

「ね」

「ジャックもね」

「うん」


 神や天使、時より悪魔や死神など、複数の種族が客として学園の中へ入って来た。三人は、順調に接客を熟して行く。


「一年生はメイドカフェか」

「いえ、メイドバーです。お酒もありますよ」

「お酒!先生の許可取ってるの?」

「取ってますよ。一杯いかがですか?」

「ぜひ」

「ごゆっくり〜」


 時間と共に、店内が忙しくなって来た。ルーナやカーマがテキパキ酒や料理を作っては出し、アウトリュウスがカーマの指示で料理を出している。


「忙しくなって来た。接客はもういい。ベルとセーレはウェイター頼む。ジャックはレジだ」

「はーい」


 店内の様子はとてもいい。昼間なのに夕方の時間帯をイメージさせる飾りで、カウンター越しにルーナやベルが客の話し相手をしている。その周りで、カーマが中心となってアウトリュウスやセーレに料理や洗い物をさせてる。

 客も満足している様子で、皆微笑ましい表情でメイドバーを楽しんでいる。


「カーマ凄いね。指示しながらほとんどの仕事熟してるよ」


 ジャックの懐から顔を出したポム吉がそう言う。あまり認めたくないが、ジャックも思っていたことだ。


「あんなに能力が高いのに、普段は何であんな態度を取るんだろうな。客に接するみたいにすれば、ルーナみたいに人気者なのに」

「ん〜、わかんないっ」


 レジから見る店内は、神の如く全体が見渡せた。だからこそ、自分自身が小さくて滑稽に見える。クラスメイトの意外な一面や能力の高さに、少し劣等感すら覚える。


「あの〜」

「え、あっ。いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「二名で」

「2000ユーロになります」


 ジャックは少し離れてる場所で頑張るクラスメイトを遠目に、淡々とレジ打ちの仕事を熟して行く。


「ありがとうございました」

「え?あれ?」


 一人の神がジャックの顔を覗くように見てきた。ジャックは顔を引きながら、警戒した様子でメニュー表で口元を隠す。


「英雄ジャック!だよな?」

「え!ジャック?希石の戦いの英雄?」

「七つの亡霊を三人倒した英雄ジャック!」

「サイン下さいん!」


 その神の一言で、周りの神や天使が店内を扉から覗き込んで来た。一瞬で店が混み合い、ジャック目当てで店を除く者だらけだ。


「カワイイー!英雄様がこんな可愛い子なんて!」

「男って聞いたけど、英雄は女だったのか」

「随分小さいな」

「ギャップよギャップ!ギャップ萌え萌えキュンキュンよ!」


 それどころか、無許可に写真を撮る者も出て来た。パシャリッ!という音に反応して、ジャックが嫌そうにそちらを向く。


「おい!写真はやめてくれ」

「へへっ、ごめんごめん!おっと、バイトの時間だ」

「待て!消していけ!おい!」


 だが、写真を撮った男は笑って誤魔化し、そのまま人混みに紛れて店を出て行く。ジャックはレジを後にし、男を追おうとする。


「おいジャック!持ち場を離れるな!」


 それを見ていたカーマは、人混みを割ってジャックの手を引っ張る。だが、ジャックはその手を振り払い、カーマを軽く突き飛ばした。人混みの中転けたカーマは、周りの客の足を踏んでしまい、食事をしてる客へまで被害が出た。


「きゃあ!」

「おいおい、お前ら酔ってんのか?」


 店に並べていた酒が落ちて割れてしまい、店内は大惨事だ。怒って店を出る客も居れば、酒で濡れてしまった客も居る。ジャックはほんの僅か罪悪感を感じながらも、逃げて行った男を追う。


「何が英雄だ。あのバカ!ルーナ店を頼んだ!俺はジャックを追う!」


 カーマは店をルーナに任せてジャックを追う。だが、思い出したかのように引き返し、床に落ちているポム吉をレジに置いた。


「ホワッ!」

「ジャックの尻拭いだ。レジ打ち任せた」

「しょんな!けど任せしぇて!」


 更に、魔法でポム吉にメイド服を着させる。


「照れちゃう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ