第34話【楽しい学園祭】前編
ラースは酷く落ち込んでいた。城の王座に座り、高級ワインを飲みながらぐったりしている。
「こんなことなら、キャバーに行くんじゃなかった。最悪の誕生日にしてしまった」
小さくそう呟いたが、すぐに違和感に覚えたようにワインを一気飲みした。
「違う。そもそもあの子供さえ居なければこんなことにならなかった。スロウス、グリード、ラトニー、三人共ジャックによって殺されている。奴はこのラースを脅かしに来た悪魔……クルーニャ以来の脅威だ。これは揺るぎない事実。全てを後にしてでも、奴を始末しなければこの先には進めない」
ラースは酔っ払たまま立ち上がり、もがくように階段を降りる。しかし、体がふらついてその場に階段から転げ落ちた。
「くっ」
「大丈夫?父さん」
そんなラースの前に、音も気配もなくラストが現れ、酔っ払うラースの肩を持ち上げ、ゆっくりと起き上がれた。その瞬間、ラースは警戒した様子で横目をギラつかせた。酔っ払いの目にしては冴えており、いつも以上に困惑してるようだ。
「水、飲みな」
「……」
二人はテーブルを挟んで椅子に座り、氷の入った水を一口口にする。だが、ラースに関しては明らかに様子がおかしく、警戒心を持ったまま水をちびちび飲む。
「何の真似だ……ラスト。お前が俺の心配なんて……いや、俺に構うなんて」
「母さんが死んで思ったのさ。もっと親孝行しとけば良かったってね」
「そうか」
ラースは納得の言葉を見せたが、言葉とは裏腹に(一体何を考えて……)と思いながら警戒を高めていた。
「父さん、一つ聞きたいんだけど、目的を達成した後はどういう世界を描くの?神は俺達四人、いや、父さんだけかもしれない。天使と悪魔を従えて、どんな世界を継続してくの?」
「興味あるのか?」
「ある」
「……秘密だ」
ラースは言葉を慎重に選んだ。そして、恐る恐るラストの目を見ようと、視線を上げる。嫌なことに、その視線はバッチリと合い、蛇に睨まれた蛙状態になる。目線が外せないが、それは恐怖などでない。親として、神として、頂点にたつ者としての意地なのだ。
「過程を楽しみたい訳ではない?暇つぶしとか?」
「お前と同じにするな」
「……まあいい。そこに、その世界に……このラストは存在する?」
「お前が望むなら……。腐っても、俺のたった一人の息子だからな」
ラースはそう言って立ち上がり、酔いから覚めた様子で座るラストを見下ろす。そして、何にも言わずに緩く浅いハグを交わす。そのハグは、親子のものとは思えないくらい冷たく、薄汚い感情が混じったものだった。
「父さん、貴方は今追い込まれている。そろそろ来そうだ……誇り高い神の貴方が、俺様にお願いをする時が」
聞こえるか際どい距離と声量で確かに言った。ラースも一瞬足を止めるが、何事もなかったようにホールを出る。一人広いホールに取り残されたラストは、何か楽しみを堪えるような甘酸っぱい表情を浮かべている。
「楽しいよ……父さん。貴方の元に生まれて来れて良かった」
その背中はゾクゾク疼いており、黒い魔力が羽根のように纏わりついている。
*
「おらお前らサボるな!客に失礼ないようにするんだ!特にアウトリュウス!それとジャック!てめら間違っても問題起こすなよ!分かったな!」
学園祭当日。
メイド服を綺麗に着こなし、テキパキと作業をしているのはカーマだ。やる気に満ちており、指揮を取って他の五人に怒鳴っている。
「何であんなに張り切ってるの?メイド服着るのも嫌がってたのに」
「この学園祭が成績に関わるとよ。クラスごとに順位も決まるし、評判が悪ければ進学にすら響く。リベ先生からそれを聞いてからこのザマ」
困惑するベルは、ルーナから話を聞いてクスクスと笑っている。
「ハハッ!そんなに成績気にしてたんだ!」
「主神目指してるらしい。そりゃこんな行事一個にも本気になる」
二人が遠目でカーマを見てると、それに気付いたカーマが勢いよく指を指した。
「そこサボるな!ルーナは厨房!ベルはセーレとジャックと客を迎える準備だ!」
「はーい」
「私料理の方が得意なのに……」
「食べる方はもっと得意だよな」
「そうそう!」
「早くしろ!」
「「はいっ!」」
ベルは仕方なく看板を持って教室を出る。そこには、不満そうにするジャックと戯れているセーレとアウトリュウスが居る。
「俺ちゃん可愛い〜!似合ってるっしょ?」
「かーわーいーいー!セーレも似合ってる?」
「似合ってる似合ってる。けど、俺ちゃん程じゃないかな」
セーレとアウトリュウスは、お互いにメイド衣装を楽しんでいる。カメラを持って、お互いに写真を撮り合っている。
「あれ?アウトリュウス接客じゃないよ」
「知ってるよ。ギリギリで戻るさ」
アウトリュウスはいつも通り飄々としており、ふらついてセーレの肩に手を回す。
「今すぐ戻れ!」
だが、教室から聞こえたカーマの声によって、仕方なく教室へ戻った。接客は、ジャック、セーレ、ベルの三人だ。
「一番似合ってるね。ジャック」
「……どうも」
ジャックはいつも以上に物静かで、少し気だるそうに看板によしかかってる。
「そんなに嫌?皆着てるのに」
「嫌とかじゃないけど、ちょっぴり恥ずかしい」
「そういう表情だったんだ。分かりずらい顔だね」
「……」
いつも帽子で顔を隠せるジャックも、今の格好では顔を背けることしか出来ない。
「おっ、お客様がお見えになったよ」
「頑張ろうね」
「ね」
「ジャックもね」
「うん」
神や天使、時より悪魔や死神など、複数の種族が客として学園の中へ入って来た。三人は、順調に接客を熟して行く。
「一年生はメイドカフェか」
「いえ、メイドバーです。お酒もありますよ」
「お酒!先生の許可取ってるの?」
「取ってますよ。一杯いかがですか?」
「ぜひ」
「ごゆっくり〜」
時間と共に、店内が忙しくなって来た。ルーナやカーマがテキパキ酒や料理を作っては出し、アウトリュウスがカーマの指示で料理を出している。
「忙しくなって来た。接客はもういい。ベルとセーレはウェイター頼む。ジャックはレジだ」
「はーい」
店内の様子はとてもいい。昼間なのに夕方の時間帯をイメージさせる飾りで、カウンター越しにルーナやベルが客の話し相手をしている。その周りで、カーマが中心となってアウトリュウスやセーレに料理や洗い物をさせてる。
客も満足している様子で、皆微笑ましい表情でメイドバーを楽しんでいる。
「カーマ凄いね。指示しながらほとんどの仕事熟してるよ」
ジャックの懐から顔を出したポム吉がそう言う。あまり認めたくないが、ジャックも思っていたことだ。
「あんなに能力が高いのに、普段は何であんな態度を取るんだろうな。客に接するみたいにすれば、ルーナみたいに人気者なのに」
「ん〜、わかんないっ」
レジから見る店内は、神の如く全体が見渡せた。だからこそ、自分自身が小さくて滑稽に見える。クラスメイトの意外な一面や能力の高さに、少し劣等感すら覚える。
「あの〜」
「え、あっ。いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二名で」
「2000ユーロになります」
ジャックは少し離れてる場所で頑張るクラスメイトを遠目に、淡々とレジ打ちの仕事を熟して行く。
「ありがとうございました」
「え?あれ?」
一人の神がジャックの顔を覗くように見てきた。ジャックは顔を引きながら、警戒した様子でメニュー表で口元を隠す。
「英雄ジャック!だよな?」
「え!ジャック?希石の戦いの英雄?」
「七つの亡霊を三人倒した英雄ジャック!」
「サイン下さいん!」
その神の一言で、周りの神や天使が店内を扉から覗き込んで来た。一瞬で店が混み合い、ジャック目当てで店を除く者だらけだ。
「カワイイー!英雄様がこんな可愛い子なんて!」
「男って聞いたけど、英雄は女だったのか」
「随分小さいな」
「ギャップよギャップ!ギャップ萌え萌えキュンキュンよ!」
それどころか、無許可に写真を撮る者も出て来た。パシャリッ!という音に反応して、ジャックが嫌そうにそちらを向く。
「おい!写真はやめてくれ」
「へへっ、ごめんごめん!おっと、バイトの時間だ」
「待て!消していけ!おい!」
だが、写真を撮った男は笑って誤魔化し、そのまま人混みに紛れて店を出て行く。ジャックはレジを後にし、男を追おうとする。
「おいジャック!持ち場を離れるな!」
それを見ていたカーマは、人混みを割ってジャックの手を引っ張る。だが、ジャックはその手を振り払い、カーマを軽く突き飛ばした。人混みの中転けたカーマは、周りの客の足を踏んでしまい、食事をしてる客へまで被害が出た。
「きゃあ!」
「おいおい、お前ら酔ってんのか?」
店に並べていた酒が落ちて割れてしまい、店内は大惨事だ。怒って店を出る客も居れば、酒で濡れてしまった客も居る。ジャックはほんの僅か罪悪感を感じながらも、逃げて行った男を追う。
「何が英雄だ。あのバカ!ルーナ店を頼んだ!俺はジャックを追う!」
カーマは店をルーナに任せてジャックを追う。だが、思い出したかのように引き返し、床に落ちているポム吉をレジに置いた。
「ホワッ!」
「ジャックの尻拭いだ。レジ打ち任せた」
「しょんな!けど任せしぇて!」
更に、魔法でポム吉にメイド服を着させる。
「照れちゃう!」




