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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第31話【ラトニー】その3

 魔法領域の一室で、リベとラトニーが距離を取って睨み合っている。そんな中、ジャックは壁に背を預け、痛みを堪えるように頭を強く抑え、血が出るほど手を噛んでいる。そんなジャックは、目元を不思議な目隠しで覆っており、完全に視界をシャットアウトしている。


「神器」


 とうとう、ラトニーが弓矢を構えた。飛んでくる位置はわかっているが、距離が近くて避けれそうにない。それも、リベの背後にジャックが居て、どちらにも当てれる位置だ。


「二人同時に殺せると思うな!やるなら私から打ってみなさい!それとも怖いか!二人同時ではないと不安なのか!」

「敢えて乗ろう……その勇敢な挑発に。どっちにせよ、外部の連絡を阻止するのが先だ」


 だが、リベの挑発によって弓矢のターゲットが定まったように見える。そして、容赦無く矢が放たれる。その矢は、いつものように複数ではなく、一本きりだ。その分、その一本は大きくて素早い。


「その攻撃、見切った」


 リベの素早い斬撃は、飛んで来た矢を弾き飛ばした。しかし、その矢はそのまま独りでに動いてリベの背に戻って来る。


「リベ背後!」


 それを見ていたポム吉が咄嗟に叫ぶ。おかげで、間一髪で攻撃に気付いて、再び矢を弾き飛ばす。だが、矢の能力でリベの刀が半分になってしまった。


「まだだ!まだ追撃して来る!スピードは衰えてるけど、本数が三本に増えた!」


 ポム吉の位置からは全て見えていた。そのおかげで、またまた攻撃を確認することが出来た。しかし、先ほどのように刀を使うことなく、矢を掻い潜って真っ直ぐとラトニーへ突っ込んで行く。


「距離を詰めに来たか。しかし備えはある」


 ラトニーは持っている弓の持ち方を変えた。すると、その弓は弦が片方取れ、鞭のようにしなやかに動いて周りの物を切り裂いた。その糸の攻撃力は、ジャックが扱うワイヤーの神器のようだ。


「体術と神器の扱いなら私は負けない」


 リベは発言通りの戦闘能力を見せた。飛んで来たワイヤーを交わしたかと思えば、見切ったように踏み付けて動きを封じた。


「あの方の天だった私が負ける訳ない。体術と神器なら尚更」

「その慢心こそが弱点よ」


 だが、ワイヤーを踏んでいる足の先が一瞬にして消えてしまう。


「くっ、空間魔法か」


 再びワイヤーがリベを襲う。すぐに身を避けようとするリベだが、足先から徐々に足が消えていき、その場で転けてしまう。


「矢と同じ効果……やばい」

「チャンス到来!空間魔法」


 ラトニーが魔法陣から出したのは、歪んだ空間だ。その歪んだ空間から、大量のマグマが出てきて、床に這いつくばるリベを襲う。だが、リベはそのままの姿勢で白い羽根を広げ、空中へ身を避けた。


「はっ!?ジャック!」


 忘れていたかのように背後を振り返る。しかし、背後のジャックは白いドラゴンに乗って空中へ身を逃がしていた。そのドラゴンは、ポム吉の力で創り出した物で、そのポム吉もドラゴンの頭に乗っている。


「ジャックは任せしぇて!」

「意外に役に立つんですね。あのエロクマ」


 一安心したのも束の間、天井にも歪んだ空間が現れ、そこから複数の岩が落ちてくる。しかし、岩でリベやジャックを直接攻撃するつもりではない。岩がマグマに落ちると、マグマが跳ねてあちらこちらに飛んだ。


「やばいよ!早くこっちに来るんだリベ!ドラゴンの上の方が安全だ!ホワッ!」


 ポム吉がリベに向けて手を伸ばすも、ポム吉にもマグマが跳ねて溶けてしまう。すぐに再生するポム吉だが、以前不安そうにリベの方を見ている。


「そちらに行きたいがこの岩の量……マグマと岩が雨のように降っている。避けるのが精一杯だ」

「フッフッ。ジャックはまともに動けず、頼りの教師もこのザマ。さあて、どうするのぉ?」


 ラトニーの周りは、歪んだ空間で囲まれている。その空間は、飛んでくる岩やマグマを逃す盾となっているのだ。一方、リベは刀を使って岩やマグマを避けている。


「今のラトニーは空間魔法に囲まれている。岩やマグマを避けながらでは奴への攻撃は難しいだろう」


 ドラゴンの上で座り込むジャックは、痛みを堪えたまま小さく呟いた。片膝に片腕を乗っけて、下を向いていると言うのに、不思議と全てが見えている。


「何か作戦はある?」


 ドラゴンの頭からリベを見てるポム吉が、ジャックの方を見て聞いた。


「こっち向くな。見えないだろ。どっちにせよ、この狭い部屋ではドラゴンも時期にマグマに消される。俺達も長くは持たない」


 ジャックは再び考え込むように下を向く。まだ痛みを堪えているようだが、さっきよりはマシに見える。


「ラトニーを囲む空間魔法の隙間を狙い、攻撃を当てる。恐らく魔法は通らない。通っても防がれる」

「つまり、もう八方塞がり?」

「違う。近距離で攻撃を仕掛けるしかないと言ってるんだ」

「なるほど」


 ジャックはゆっくりと立ち上がり、刀を杖のように使ってドラゴンの頭の上に立った。


「先生こっちだ!早くこっちに来い!」

「無理です!私に構わず安静にしてて下さい!」


 リベはジャックの手を取ることなく、岩とマグマを掻い潜ってラトニーに近寄っていく。しかし、ラトニーが放った魔法に当たり、再び距離を離されてしまう。それだけでなく、跳ねてるマグマに当たってしまい、腕と背中が焼け溶けてしまう。


「くっ!」

「言わんこっちゃない。しかしチャンスだ」


 ジャックはリベが負傷したタイミングでポム吉を蹴り飛ばした。ポム吉はリベの胸に当たり、手元に着地する。


「コース.レゼン!」


 同時に、ジャックもポム吉の元へ転移した。だが、依然変わりなく岩とマグマの雨で危険だらけだ。


「神器、天之月あめのづき


 ジャックは神器の傘を刺して防御を展開した。丈夫な傘は、岩やマグマを弾き返している。


「ぺちゃ!」

「ようし元気だなエロ吉!もう一回だ!」

「ホワッ!」


 リベの胸に埋もれるポム吉は、ジャックによって再び蹴り飛ばされる。ポム吉は、岩とマグマの間を縫ってラトニーの元まで飛んで行った。しかし、ポム吉の目の前には歪んだ空間が待っている。その空間の奥に見えるのは、マグマの壁だ。


「しょんな!?」

「それでいい。それがベスト」


 ポム吉が歪んだ空間の手前に来た。同時に、転移したジャックとリベも歪んだ空間の前に現れ、空間の隙間を狙って刀を振るった。


「惜しかったわね〜。ジャック」


 刀はラトニーを突き刺していた。だが、その矢先は皮膚を突き刺している訳でなく、歪んだ空間だ。体そのものが別の空間と繋がっていて、攻撃が入っていない。


「くっ!無敵か!」

「そして後ろ!取ったなり!」


 更に、背後に現れた別空間からラトニーの手が現れ、背後から矢を放った。よく見れば、ラトニーの両手が別の空間へ繋がっている。


(何でもありかよ。この体勢では避けれきれない)


 ジャックは諦めて矢を受けることにした。だが、片手で抱えていたリベが咄嗟に動き、ジャックを包み込むように庇った。


「なっ!」

「がはっ!」


 リベの肩は矢に貫かれ、そこを中心にゆっくりと体が消えていく。ジャックが治癒魔法で手当てするも、リベは瀕死の状態だ。迷うジャックだが、刀を歪んだ空間から抜いて、ゆっくりと距離を取った。


「フフッ、フフフフッ、フハハハハハッ!とても愉快よ!親切にしてもらった癖にラースに逆らうからこうなるのよ」


 口元を隠して上品に笑うラトニーは、少し狂気じいてる。どこか別の所を見ているような目を曇らせ、憐れむように弓と矢を振り回す。


「親切な奴が神々を殺し回るかよ」

「子供には理解できないでしょうね」

「誤魔化しやがって。あんな浮気野郎のどこがいいんだ。あんたのセンスは最低だ」

「それ以上彼のことを言わないで。不愉快になってきた」

「そう言わずに笑ったらどうだ?さっきみたいに大胆にさ」

「そうね。貴方を始末したら思う存分に」

「なら、当分は笑えなそうだな」


  空気の流れが変わった。すぐに神器を構え合う二人だが、ラトニーが気が変わったように歪んだ空間に足を入れる。


「外部への通信ができるのはその女でしょう?もう用はないわ。この空間で死を待つといい」

「逃げる気か」

「ええ、勝ち逃げするわ」

「させるか!」

「ばあ〜い」


 ジャックが何かする前に、ラトニーが歪んだ空間に逃げて行った。残ったのは、下にぎっしりあるマグマと宙へ浮かぶドラゴン。そして、負傷したリベとそれを抱えるジャックだけだ。そう、何か足りないのだ。


「脱出成功……かな」


 * 


 ラトニーは緑豊かな森へ来ていた。そこには、気絶してるラースとエンヴィーが葉の影に隠されている。


「よしよし、ちゃんと絶望してるみたいね」


 ラトにーは片目を隠し、魔法領域の様子を見て、ジャックが悔しがっているを確認する。そして、ラースとエンヴィーを両端に浮かせ、ゆっくりと森を進んで行く。


「あの女が完全に死ぬまでは移動し続けよう。奴は私やラースの位置を探る能力があるからな」


 何だか違和感を感じた。そう、ちょうど胸の辺りだ。戦いの後で息が切れていて、そのせいだと思った。しかし、確かに違和感があり、確かに何かが動いた。


「照れちゃう!」

「わあ!?」


 胸元から現れた違和感の正体は、ポム吉だ。可愛らしい笑顔で、ラトニーの胸に顔を押し付けている。


「なんだ、エロクマか。く、クマ?まずい!」


 ラトニーが勘づいた時には、既に嫌な予想が現実になっていた。突然、目の前にジャックが現れ、ラトニーを深く切り裂いた。


「くっ、かはっ!」

「終わりだ」


 更に、ラトニーの胸を突き刺した。ジャックの背中にしがみつくリベも、ジャック同様してやったりという表情を浮かべた。


「いつ、このクマを……」

「俺が最後に突きをした時、俺は同時にポム吉を蹴り飛ばしていた。あんたの背後にな」

「最初から脱出する為にこの子を私に仕込ませたのか……」

「ここでお終いだ、ラトニー」


 ジャックは刀を引き抜き、トドメの刃を振り翳す。

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