第30話【ラトニー】その2
リベの片目の花が蠢いている。まるでコンパスのように、中央の赤色があちらこちらに動き、すぐに端っこの方へ寄った。
「ジャック背後!」
「神器!」
ラトニーが魔法領域の中に転移すると、リベの魔法ですぐに居場所が分かる。しかし、ラトニーは弓を引いた状態で転移してくる為、一手攻撃が遅れる。だからこそ、大きなダメージを与えれない。
「神器、暴春蘭」
「避けろ!」
それ所か、避けるので誠意杯で反撃が出来ない。それは、魔法領域に顔を出せば、二秒もしないで再び転移で逃げてしまうからだ。
「くそっ!先生の魔法のおかげで避けることは出来ても、反撃が出来ない。それに、次はまた別の作戦で攻撃を仕掛けてくるはずだ。このままいけば避けれるかも怪しい」
「顔を出してはすぐ退散。ラトニーは自分のタイミングで攻撃できるけど、こっちは彼女の位置を把握してから攻撃するから必ず遅れが出てしまう」
リベの片目の花が再び蠢く。白い花の上で赤色があちらこちらに蠢き、対象者の位置が把握できないでいる。
「こちらも策を考える。取り敢えず、次の攻撃に備えて動き回ろう。傷が痛むだろうけど、死なない為だ」
「頼りなくてごめんなさい。私の魔法さえなければ置いて行きたいだろうに……」
「そのネガティブモードは困る」
二人は、ラトニーの攻撃に備えて狭くて迷路のような部屋をパルクールをするように進んで行く。これで、ラトニーの弓矢に当たりづらくはなるだろう。
「もう少しで私の魔法が切れます。次もう一度攻撃をしなければもう位置が分からなくなる」
「つまり、次が勝負の分かれ目か」
「気付いてすぐ攻撃できればいいんだけど、やはり私達が一歩遅れます」
「なら、次奴が来たらさっきみたいに居場所を教えてすぐに目を閉じてくれ」
「なぜです?」
「いいから。説明してる時間はない。そろそろラトニーも来る頃だ」
ジャックの言う通り、リベの花が位置を示した。ジャックもリベも瞬時にその変化に気付き、冷静に浅い呼吸をする。
「上です!」
「サン.ライト!」
リベが瞼を閉じたのと同時に、ジャックが光の魔法を放った。その魔法はラトニーが放った矢とほぼ同時だったが、眩しい光によってラトニーの手元が滑り、矢の位置が僅かにズレる。
「眩しっ」
「神器、魔漂線!」
ジャックはリベを抱えて飛んで来た矢を避けた。同時に、眩しがった一瞬を狙ってワイヤーでラトニーを縛り、歪んだ空間からその身を引っ張り出す。
「なっ!」
「今だ!」
ジャックはワイヤーを引っ張り、ラトニーをリベの元へ近寄せた。同時に、リベが刀を振るう。
「取った!」
しかし、刀がラトニーに当たった瞬間、斬られた場所が歪んで刀が持ってかれた。更に、ラトニーもそのまま歪んだ空間に引き込まれて逃げてしまう。
「何だと!?魔力を乱す魔漂線で縛っていたのに!空間魔法で逃げやがった!」
「既に魔力を練っていたのですよ。魔法や魔力のコントロールにも隙がない」
「待って。奴の位置は分かる?」
「ダメです。今斬れなかった。もう魔法の効果が切れます。あ、切れました」
魔法の効果が切れると、リベの片目の花も枯れ果てた。リベには、もうラトニーの位置を探ることは出来ない。ラトニーを見失った今、次の攻撃を避けるのは格段に難しくなった。
「ど、どうしましょう。ほんとごめんなさいジャック。と、とと、取り敢えず私の後ろに隠れて下さい。いいいい、いや私の前の方がいいかな?と、と、取り敢えずお、落ち着いて!な、なな何とかなるから落ち着いて!」
「あんたが落ち着け。次の攻撃は俺の真理の義眼で防ぐ」
「真理の義眼?」
「数秒先の未来を見れる能力だ。使用回数は三回程度。けど、ラトニーが現れる数秒前に使わないといけないから、タイミングをミスれば命取りになる」
「ミスらない自信はあるの?」
「ない。だから、ミスったらすぐにもう一回使用する。つまり、次先生が攻撃出来なかったら、本当にまずい」
「分かったわ。必ず刃を入れる」
ジャックの瞳に魔法陣が浮かび、瞳の色が変わって紋章が浮かび出る。周りの鉱石が瞳に共鳴し、リベの髪や服が軽く靡いた。
「真理の義眼」
「これが真理の義眼……大英雄のアマノ様から受け継いだ能力」
数秒間瞳に映ったのは、何も変化しない部屋だ。ジャックもリベも変わらずの様子で、ラトニーも出てきていない。
「ちっ、残り9秒は何もない。奴は現れない」
「9秒後またお願いします」
「……この場所は少し広い。刀を当てやすいよう狭い場所に移動しよう」
「そんな場所あります?」
「探す。着いてきて」
ラトニーが確実に来ない9秒間、ジャックとリベはあちこちの扉を開いて戦いやすい場所を探し回った。
「そろそろやばいんじゃない?」
「真理の義眼」
先程より天井が低く狭い場所へ移動し、再び数秒先の未来を見る。だが、二発目もラトニーの姿を確認することは出来ない。
「ば、バカな。18秒間姿を表さないなんて……明らかにタイミングをずらしてきてる。こっちの様子を把握してるのか?」
「さっきすぐにラトニーに気付いたから、それで警戒してるだけじゃ?」
「流石に次で限界だ。もし次奴が現れなかったら真理の義眼にもスタン時間が入る。もう外せない」
ジャックの表情がほんの僅か揺らいだ。それを見て、リベも唾を飲み込んで光のない目を下に下げる。
「そろそろだ……真理の義眼!」
ジャックの不安は的中だ。三発目の未来もラトニーは現れない。さっきまでと違い、30秒もの時間この空間にラトニーは表れはしなかった。
「くっ、くそっ。やはりこちらの様子を把握してるとしか思えない」
「……」
ジャックは悔しそうに下唇を噛んだが、リベは不思議そうに周りを見て、もう一度腕時計をチラッと確認した。
「いや、もう一分は経った」
「だからなんだよ」
「把握してるんじゃなくて、私達を後にしたのでは?その証拠に、止まっていたラースとエンヴィーの位置が動き出している」
リベは、片目に咲かせた花を覗き込むように見ている。それを見て、ジャックが拍子抜けた表情をし、疲れたように首をガクッと落とした。
「まさか、まだ把握していたのか?ラースとエンヴィーの位置を」
「え?ええ。エンヴィーの方はもう効果が切れるけど、ラースはまだしばらく保ちます」
「それだ。ラトニーは俺達をこの空間に閉じ込め、先にラースとエンヴィーの安全を確保するつもりだ」
「なら……追いかけます?」
「先生って本当に先生?なんで生徒の俺より頭悪いの。この空間から出れない俺たちはもう打つ手がないんだ」
「確かに出れないけど、外とテレパシーで通信は出来ます。最高神様方と通信し、ラースを追ってもらい、私達も救出してもらう」
「ん……神々に頼るのは癪だが、もうこれしかないか。通信してくれ」
「分かりました。魔法領域内だし、距離も遠いいから通信に時間が掛かります。集中力もいる」
リベが耳元を抑え、意識を遠くへと集中させる。その間、ジャックは周りを見渡し、開きっぱなしのドアに目をやって、ドアの奥を恐る恐る覗き込む。
「はあ……」
何もないことを確認し、ため息を着いてドアをゆっくりと閉める。だが、ドアを閉めた途端、ドアに隠れていた鏡にラトニーが映り込んだ。既に弓矢を引いており、青い瞳をギラギラと輝かせている。
「なっ!?」
反射的に鏡を蹴り割ったが、すぐに映り込んでるだけだと気付き、反対側に目をやる。しかし、既に矢が目の前にあり、避ける時間も余裕もない。
「くそっ!」
ジャックは諦めたかのように矢を目に喰らい、怯むことなく壁を蹴ってラトニーの方へと走り出した。
(少し遠い……間に合わない)
更に、矢を受けた目を中心に顔が消えていく。早く治癒しないと、顔全部がなくなるだろう。
「手当てを後にしてでも私を狩にくるか。ならば私もそれに応えるよ」
ラトニーは再び矢を放った。放った矢は三本に増え、その全てが囲むようにジャックを狙っている。しかし、ジャックはそれを分かっていたかのように華麗に避け、目の前のラトニーに飛びついた。
「なぜ避けれ……ッ!?そういうこと……」
ラトニーに飛び付いたジャックは、顔を上げてニヤッと笑う。その瞳は真理の義眼で、未来を見ている途中のようだ。
「欲張ってくれてありがとう。素直に礼を言うぜ」
「こちらこそ」
ジャックは歪んだ空間からラトにーを引っ張り出し、不安定な体勢でラトニーと殴り合う。近距離で魔法を使い、逃げる隙すらも与えずに格闘術を使う。小柄なジャックは、すばしっこく動いてラトニーの体を遊具のように引っ張ったり、体を蹴り上げて踵落としを入れたり、自分のペースに持っていく。
どうやら、近距離戦闘はジャックに分があるようだ。
「くっ!」
更に、そこに来たリベが刀を振い、ラトニーの腕を深く切り裂いた。ラトニーは臨機応変に腕の血をジャックの瞳に飛ばし、リベの刀を蹴り飛ばして距離を取った。
「ふ〜、厄介。まさか外部に救援を呼ぼうとするなんて」
ラトニーの言葉を聞き、リベが悟ったように横目を合わせた。
「こちらを把握してましたか」
「ラースの安全を優先しようとしたんだけど、外部に連絡しようとしたから戻って来た」
「外部に連絡し終えました」
「はい嘘ね。ジャックの安全を優先し、こちらに走って来た。連絡し終えた表情じゃなかったわよ」
「……」
「それにしても貴方の生徒大丈夫?無理しすぎたようね」
「ッ!」
リベは慌てて床に蹲るジャックに目を向けた。ジャックの顔は、治癒魔法こそ間に合っているものの、脳の半分が消えてから治癒した為、激痛を超える激痛で身動きが取れなくなっている。
「治癒が間に合わなく脳に影響出たようね」
「ジャック!」
「あっ……ああああああ!!!クソッ!!目が見えない!視力が戻るのに時間が掛かるああああ!!ポム吉!早く来い!」
頭を抑えるジャックは、羽根を広げてもがき苦しみ、周りの家具や壁に頭や背中をぶつける。
「おう!」
呼ばれたポム吉は、リベの胸元から飛び出してジャックの頭に座る。しかし、暴れるジャックが天井に頭をぶつけた為、天井と頭に挟まれてぺちゃんこになる。
「ホワッ!?」
「早くあの魔道具を出せ。ポム吉」
「分かったよ!」
ポム吉は、魔法のようにどこからか目隠しを取り出した。そして、その紋章が描かれた目隠しをジャックの目が隠れるように巻く。




