第29話【ラトニー】その1
静まり返った部屋は、強盗に入られた後のようだ。そんな部屋の中心でポム吉を踏み付けるラトニーは、ジャックとリベを逃さないつもりだ。
「やはり、ジャックに何か仕掛けたのはあいつのようですよ」
「呪いだ。俺が逃げられないように、離れたら手元に転移させる呪いをかけた」
「ちょうど良かった」
リベはゆっくりとジャックの頭に触れ、妙な光を放つ。その光は、ジャックにかけられた呪いを解除してくれた。
「呪い解除持ちね。どっちにしろ私から逃げることは出来ない」
ラトニーは余り表情を見せず、ポム吉をグリグリと足で踏み付けている。肝心なポム吉は「照れちゃう」と言いながら嬉しそうにしている。
「エム吉めッ。アマノ以外にデレやがって。この浮吉」
「お返しするわ」
ラトニーに蹴り飛ばされたポム吉は、そのまま吹き飛んでリベの胸元に着地した。それも、当然のように「ペチャッ!」と言いながら。しかし、秒で平手打ちで吹き飛ばされ、部屋の端っこに惨めに倒れた。
「先生は帰って。正直足手纏いだ」
ジャックはそう言い、リベの前に立って神器を構える。しかし、すぐにリベに胸ぐらを掴まれ、強い力で上に持ち上げられる。
「何が足手纏いだ!この大馬鹿者!」
「クハッ!何をするんだ!アマノにもこんな仕打ちされたことないぞ!」
リベは思いっきりジャックの顔面を殴り飛ばし、ジャックに向けて刀の先端を向けた。驚いたように傷を抑えるジャックは、尻餅を着いてリベを睨み付ける。
「今ここで殺されかけたことを忘れたのです?」
「……」
「生き残りたければ、もう少し他人を利用してみたらどうです?何でも一人でやろうとしないで」
「……そんなに利用して欲しいならしてやるよ」
「素直じゃない子」
ジャックもリベも神器を構え、両方向からラトニーを挟み込むようにゆっくりと足を運ぶ。
「絶対に逃さないわ。二人共」
ラトニーはそう言って部屋を出て行く。一瞬理解に遅れたジャックとリベだが、すぐに悟ったようにお互いに目を合わせる。
「逃げた!」
「言ってることと矛盾してるぞ!」
「おかげで騙された!」
ジャックは慌てて扉を蹴り飛ばし、ラトニーの追跡をする。それに続くリベも、少しの不安を抱きながらもジャックの背を見守る。
「ラトニーがこのまま逃げる訳がない。恐らく、距離を取って戦うのが奴にとって優位になるんだ」
「それに、彼女は逃がした二人を追跡されることを恐れてます。今私達を足どめしないと、他の神々に瀕死の二人がどこかに隠れていることがバレる。神々の魔法や魔道具なら見つけれなくもない。それを恐れてるんですよ」
「逃すか!」
階段に登って行くラトニーの頬に、ジャックの神器が飛んできた。しかし、ギリギリ当たらず、ラトニーが三楷の入り組んだエリアと入ってしまう。ジャックとリベは、そのエリアを見て思わず足を止めた。
「何だこれ」
顔が映る程ピカピカの鉱石が壁や床の素材に使われており、見たことのないモニュメントばかり置いてあって迷路のような空間になっている。
「ライト.ファロン!」
何の迷いもなしに、ジャックが辺り一体を魔法で吹き飛ばそうとする。しかし、魔法が分散してしまい、鉱石の床や壁に吸収されてしまう。
「何!?」
「魔法領域ですか。この領域を作ったのはあの女です。今目の前にある空間はまた別の空間。言わば、蜘蛛にとっての蜘蛛の巣。入るのは無謀ですよ」
「けど入らなきゃラトニーを倒せない。こっちが逃げようも、その後の対策をしてないはずがない。行くだろ」
「あんま死に急がないで下さいよ?一応生徒なんだから。死なれたら困ります」
「先生って立場は大変だな。周りの目を気にしないといけないのか」
「そうじゃない。単純に大切な生徒だからです。例えそれがどんな問題児でも」
「ふんっ、本心はどうだが知らないが、心配ご無用」
二人は、恐る恐るラトニーの蜘蛛の巣の中へと侵入する。所々障害物となる鉱石を避けながら、複数ある道から勘で道を選んで行く。しかし、ジャックが鉱石の障害物を通り過ぎたその時、リベの瞳にラトニーの姿が映った。鉱石の中にラトニーが歪んでいるように映っている。ジャックからは見えていないが、リベにはしっかりと見えている。
「ジャック危ない!」
リベは咄嗟に刀を振るって鉱石を叩き壊した。しかし、その手には手応えはなく、ラトニーの姿も見えない。
「何!?後ろだ先生!」
「なっ!?」
リベの背後には、歪んだ空間から上半身を乗り出すラトニーが居た。そのラトニーの手は瞬間的に光、その光が円形状の弓矢のような形になる。
その弓矢から妙な魔法陣が出現し、矢も徐々に形を変える。
「神器、暴春蘭」
放たれた矢は、瞬間に二つに分裂し、リベとジャックの急所目掛けて飛んで行く。当然、避けれる速さじゃなく、この近距離では当たってしまって当然だ。だが、当たれば致命傷になることを矢に纏われた魔力が教えてくれている。
「なっ!?」
反射的に動いたリベは、ジャックを庇って二つの矢を胸に受けた。更に、矢を受けた瞬間に刀を振るい、ラトニーの頬に擦り傷を付ける。そのせいか、ラトニーは勝利を確信したような表情で、歪んだ空間と共に消えてしまう。
「おい……その矢何か変だぞ」
「はあ、はあ……」
矢が刺さった胸元は、一瞬爆発的に周りを削り取られ、それからゆっくりと傷口が広がってている。氷が熱で溶けるように、ラトニーの肉体は血液や皮膚もろとも削り取られている。
「治癒」
ジャックは迷惑そうに片目を細め、リベから矢を引き抜いて治癒魔法で傷の手当てを行う。すぐに手当てしたおかげで、傷が綺麗に治ったが、激痛や失われた血液はそのままだ。
「助かりました。もう少しで呼吸できなくて死ぬとこだった」
「余計なお世話だよ」
「……何がです?」
ジャックの一言は、心底不愉快な言い方だった。
「あの程度の矢、俺一人なら何とかなったんだ。あんた、いつまで先生ぶってる?足手纏いだってはっきり言わないと分からないのか?」
「ジャックーー」
リベは一瞬険しい表情を浮かべ、すぐに泣きそうな表情でその場に座り込み、自分の長いスカートで全身を覆った。まるで、地中に逃げたモグラのようだ。
「全く言い返せないわ。そうですよね足手纏いですよね、先生ぶってほんとごめんなさい。良ければ死ぬけど、貴方が助かってからでも良くないですか?けどすぐに消えて欲しそうですね。いや、そうに決まってる。ほんと先生になってごめんなさい。というか天使やっててすみません。そもそも存在してて申し訳ないあまりです」
早口でぶつぶつと言うリベからは、ネガティブなオーラと魔力がドロドロと流れ出ている。それには、流石のジャックも困惑し、引いたような目と唖然とした表情を見せる。
「いや、そこまで言ってないよ。と、とにかくさ、この空間から立ち去ってくれない?その痛みじゃまともに戦いできない、でしょ?」
「そうしたいけど、この空間からは出れない。魔法領域は侵入は出来ても脱出は出来ない。ラトニーを殺さない限り」
「ならせめて俺の元から離れないでくれ。背中任せるよ」
「分かりました。それと、今のラトニーは魔法領域の外に居ます」
「なぜ分かる?」
ジャックは一瞬リベの顔を除く。その顔は、片目から白い花が咲いており、別のどこかを見るように瞳を動かしている。
「私の魔法です。刀で斬った物の位置が分かる魔法。最初に斬ったラースとエンヴィーの位置も分かるし、さっき斬ったラトニーの位置も分かります」
「す、すげえ!ならこの領域から出れたなら瀕死のラースを追える!」
「いや、時間制限があります」
「どれくらい?」
「斬った深さによって変わります。深ければ長いし、浅ければ短い。ラースは深めに斬ったから残り十五分程度、ラトニーは掠った程度だから一分程度」
「なら残り十五分程度でラトニーを倒せなければ、ラースの行方を見失うということだな?」
「その通り」
「ラトニーがこの領域内に来たら教えてくれ」
「分かってーー」
リベの目に咲いている花の色が赤色に変化する。瞬間、リベが天井を見上げて刀を取り出す。その僅かな変化にジャックもすぐに気が付いた。
「上です!」
「神器暴春蘭!」
余りの反応の速さにラトニーも顔色を変える。だが、構えている弓から矢は放たれている。その二つの矢は、目では捉えれない速さでジャックとリベに飛んでいく。一つはリベによって弾き飛ばされたが、もう一つはリベの胸を貫いた。
「チッ!ライト.ファロン!」
迷いを見せたジャックだが、すぐに歪んだ空間から体身を出すラトニーへ攻撃を仕掛けた。しかし、ラトニーが手の平から出した歪んだ空間に飲み込まれ、華麗に交わされてしまった。
「なぜすぐにこちらに気付けたのか分からないが、どちらにせよ私の攻撃の方が早い。次で仕留める」
ラトニーはそう言い、歪んだ空間に姿を消す。同時に、魔法領域からラトニーの気配と魔力が消える。
「また要らない真似しやがって。けど妙だ。先程みたいに矢に貫かれても肉体が抉られない」
倒れてるリベは、ゆっくりと両目を開けた。
「良かった。生きてる」
「ん……」
リベは平然とした様子で瞳をパチパチとし、ゆっくりと矢を引っこ抜く。すると、矢先にはポム吉が引っかかており、胴体から徐々に体が消えている。
「ポム吉!?いつの間に居たのか!まさか矢から先生を守って……」
「その通り!けどバイバイジャック。僕は時期に消えてしまう。この矢の効果は僕をも消してしまうらしい」
「ポム吉!」
「さよなら」
ポム吉はあっけなく消えてしまう。ラトニーが放つ矢の効果は、それ程まで危険なのだ。
「久しぶり!一秒ぶりかな?」
だが、秒でその場で再生して、いつも通り笑顔でジャックの肩に座る。
「不死身にも程がある。どこから再生した?」
「照れちゃう!」
ジャックは呆れた表情でポム吉を殴り飛ばす。殴り飛ばされたポム吉は、リベの胸元に着地し、そのまま服の中に潜り込んだ。
「じゃ、じゃあ。僕はまたリベを守るよ!」
「そこに居たいだけだろ。このエロ吉」
「そんなことある」
だが、ポム吉はリベに足を掴まれてしまい、服から追い出される。
「要らない」
「しょんな!?ならこれでどうだ!」
ポム吉が派手なブラジャーに変身する。
「燃やされたいの?」
「パッド入りだよ!大きさは僕に任せて!君のハートを守るよ!」
ゴミを見るような目をするリベは、何も言わずブラジャーになったポム吉を燃やした。




