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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第27話【敵との食卓】

 一年前、アマノが命を落とした街。その街の中央地帯には、等身大の大英雄アマノの像が造られた。その像は、神や天使達が感謝と謝罪の気持ちで造ったという。だが、ほとんどの者が感謝より贖罪が大きかった。世界を救った感謝より……二十年間してきたことの贖罪だ。

 その等身大がある場所は、アマノへの感謝と贖罪を忘れない者達が住んでいる。等身大の周りには、今でもお供物が添えられている。ジャックはその等身大の下で、顔を伏せたまま約束の時間とその相手のラースを待っていた。


「やあ、待たせたね」


 約束の時間が一時間近く過ぎた頃、ようやくラースがやって来た。その表情は、全く悪気ない感じだ。


「何が待たせただ。取り敢えず早くここを去ろう。さっきから顔を見られては声を掛けられて疲れた。今も視線が止まない」

「ははっ、ごめん。行こうか」


 * 


 ラースとジャックが転移で訪れたのは、街から離れた捨てれたれた地だ。周りは自然豊かで、草原の奥に森と同化しつつある城が立っている。その城は、パッと見ても五階はあり、苔や草木に覆われている。入り組んだ構造は、どこかロマンを感じさせる。


「凄い場所に住んでるね」

「凄い神だから当然さ」

「そう……凄いね」


 ラースは感激するジャックを横目で見下ろし、前をゆっくりと歩き出した。釣られるジャックも、恐る恐る城の中へと入って行く。ラースは一階の広々とした空間を無視し、そのまま二階へと登って行く。


「よし。仕上げするぞ」

「仕上げ?」

「飾り付けだよ」

「なるほど。分かっーー」

「分かったよ!!」


 ジャックの懐からひょこっとポム吉が顔を出す。それを見て、ラースが驚いたように体をビクッとさせた。


「なっ、何だ?幻獣……いや、ぬいぐるみ?」

「こいつ!置いてきたはずなのに!」

「照れちゃう!僕もご馳走食べにきたよ!」

「お前はダメだ。食う分がなくなるだろ」

「しょんな!?」


 ラースはガクッと落ち込むポム吉を撫で、胡散臭く微笑む。


「君には残り物を食べてもらうかな」

「やったー!」


 二人と一ポムは、飾り付けをテキパキとやっていく。途中、ラースがドジをしたり、ポム吉が飾り間違えたりして、結局ジャックがほとんど飾りをした。


「終わったな。よし、クラッカーを持って配置につけ」

「あっ、そういえば忘れてた」


 全ての準備が終えたジャックは、思い出したかように懐から財布を出した。


「最初に会った時、忘れてった財布」

「おお!ありがとう……。ジャック……お札が全部抜かれてる」

「昨日奢ったろ」

「まあいい。そ、それより……お札以外に何か見たか?」


 ラースは後ろめたそうに頬を赤らめる。しかし、ジャックは不思議そうにしており、何のことか分からなそうだ。


「お札以外?小銭?割引券のこと?」

「いや、何でもない。妻を待とう」

「うん」


 * 


 数分後、部屋と扉がゆっくりと開かれた。同時に、あちこちからクラッカーや花火のような魔法が部屋中に輝き、音と華やかさで扉を開けた者を驚かせた。


「わあ!びっくりしたー!サプライズ?」


 ラースの妻ーーラトニーは、白い肌と透明感のある水色の髪が特徴的な美女だ。髪はオシャレに巻いてあり、顔はお人形のように整っていて、下唇のホクロがセクシーだ。

 微笑むラトニーを見て、ジャックも思わず下を向いてしまう。


「誕生日おめでとうラトニー。今日の君も美しいね」


 ラースはそう言って前に出て、カッコつけながら青い薔薇の花束を差し出す。クスッと笑うラトニーは、ゆっくりと花束を受け取った。瞬間、ラースは嬉しそうに立ち、ラトニーの額にキスをする。


「やめてよラース。子供が見てるじゃない」


 満更でもなさそうなラトニーは、照れた様子で額を抑え、テーブルの向こうのジャックに目をやった。ジャックは反射的に目線を逸らし、恥ずかしそうに帽子を深く被った。


「そうだった。一応紹介するよ。昨日言ってたジャック。あの英雄のジャックだよ」

「お邪魔してます」

「今日はいっぱい食べてっていいからね」

「ありがとう」


 ラトニーの迷いのない微笑みと違い、ジャックはどんな顔をしていいか分からない。しかし、ジャックが女性に対して人見知りするのは、昔から変わらないことだ。


「照れちゃう!」


 ジャックの服に隠れていたポム吉が、花束を持つラトニーの胸に飛び込んだ。


「ペチャ!ペチャペチャ」


 そして、仕事人の如く、いつも通りにエロ吉となる。ラトニーの胸に顔を擦り付けて「照れちゃう」している。ラトニーも驚いたようにポム吉を見てるが、別に不満そうにはしてない。


「てめえポム吉!」

「ホワッ!」


 ラースは怒りのままにポム吉の頭を鷲掴みにする。そして、ポム吉の胸ぐらを掴んで高く持ち上げる。


「効果音が違うぞ!『ポムッ!』だろ!ラトニーはペチャパイじゃねえ!Fカップだ!いや!ギリGだってありえーー」


 ラースのその言葉は、ラトニーの怒りを買い、ポム吉を差し終えて蹴り飛ばされる。ポム吉はそれを見て羨ましそうにし、再びラトニーに飛びつく。


「ポムッ!」


 しかし、瞬時にジャックに蹴り飛ばされる。そして、ポム吉はラースの隣にバタっと倒れる。


「準備できてる。食べよ」

「そうわね」


 その後、何事もなく誕生日パーティーが行われた。パーティーと言っても、賑やかな空気ではなく、華やかで穏やかな空気だ。ラトニーがお淑やかに綺麗に食べるのに釣られ、ラースとジャックも綺麗に食事をする。そんな華やかさを壊すように、ポム吉が咀嚼音を発しながら「ムシャムシャ」と食べる。


「結局ラストは来なかったな」

「あの子が来る訳ないでしょ」

「それもそうだ」


 ラトニーの食べ方は美しいが、食べる量はとんでもない。ジャックとラースが腹八分目に対して、テンポよく次々と食事に手を伸ばしていく。


「ジャックは何で学園に通ってるの?やっぱり暇つぶし?」

「うん。今あんまやりたいことないし」

「偉いね」

「当たり前のことさ」

「人間はそうかもしれないけど、神様は違うんだよ。永遠に生きる神にとっては、学校も仕事も暇つぶしみたいなもの。だから、行きたくない子はそれぞれでやりたいことを優先するの」

「もしかして、ラトニーの子供も?」

「昔はそうだったわよ。目を盗んでは悪さばかりしていた。けど、最近は学園に通ってるよ」

「良い子になった?」

「いや、そういう訳じゃなさそう。けど、フラッと何処かに行かれるよりはマシかな」

「ふ〜ん」


 ラトニーがジャックに話を振ったことで、二人の会話はどんどん進んでいく。逆に、ラースは話に入ずらそうにパスタを巻き、それを隣のポム吉に食わせている。


「ラースが言ってたんだけどさ、二人の目的が達成されたら正式に結婚するんでしょ?」

「そうだよ」

「その目的って何?」

「……」


 一瞬、沈黙が走った。ラースもラトニーも一瞬だけ手が止まり、すぐに目を合わせて目線を逸らした。


「そんなに教えて欲しい?」

「まあ、気になる」


 ラトニーがニコッと笑う。そして、誤魔化すようにジャックの頬にキスをする。


「内緒」


 ジャックは強く長めに服で頬を擦り、少しの罪悪感を感じて自分の瞳に触れる。


「そう。別に良いけど、わざわざ変なことしないでよ」

「嫌なの?」

「嫌」

「噂はほんとね。英雄ジャックは、大英雄アマノの狂信者って」

「誰だそんなこと言ったの。気を許してるのがアマノだけで、別に信者でも何でもない」

「そうは見えないけど」

「どういう意味?」

「信者なんて安ぽい言葉じゃ片付けれない。そう、私にとってラースのような存在……違うかな?」


 その言葉を聞いたラースは、ポム吉と一緒になって「照れたちゃう」と言い、頭をかいて頬を赤くする。


「俺とアマノは夫婦でも恋人でもない」

「そういう意味ではないのよ」

「分かるように言ってよ」

「これ以上はやめとく。ちょっと恥ずかしいわ」

「何だよ。自分から言っといて。気になるじゃん」


 ラトニーが一瞬ラースの方を見て、照れるように会話を終わらせた。おかげで、しばらく気まずい沈黙が走る。


「そう言えば、ラスト……私の子供以外にも誕生日パーティーに招いた。ジャックには言ったよな?」


 ご馳走を食べ終えたラースが、口元の汚れを拭いて静かに言った。


「聞いてないよ」

「四人招待したんだけど、一人は来れなくて、もう二人は先月亡くなったんだ」

「亡くなった?ま、まさか……今世間を騒がせてる七つの亡霊に……殺されたの?」


 ジャックは悟ったようにラースの顔色を伺う。案の定、ラースの表情は曇っており、奥底には怒りと闇が隠れているようだ。


「まあ。そうだ……七つの亡霊。誰がそう呼び始めたかは知らないが……」

「……」

「最後の一人は、遅れて来ると言ってた。亡くなった一人が、そいつの曾孫でな。喜んでたよ」

「喜んでた?」


 曇っていたのは、ラースの表情だけではない。空気が一気に重くなり、城全体に一瞬の揺れが生じた。


「曾孫を殺した英雄を殺せるって」


 ラースがそう呟いた瞬間、ジャックの背後の窓を突き破れ、大きな影がジャックを蹴り飛ばした。


「がはっ!?」

「ジャック!?ホワッ!」


 ジャックが黒い煙に縛られたと同時に、それを助けようとしたポム吉も隣のラースに頭を抑えられて拘束される。


「よくやったエンヴィー。まだ殺すなよ。事が終えたら好きにして良いから……分かったかな?」

「分かっている。ささっと終わらせてくれ」


 窓から入ってきた大男ーーエンヴィーは、ジャックの見覚えのある男だった。スロウスと戦う前、学園を襲撃した大男だ。その時は不意をついたジャックも、今回は不意をつかれたようだ。

 だが、そんなことジャックにとってどうでもよかった。あるのは、遅れてやってくる理解と、その衝撃だ。ラースとラトニーが、当たり前のようにエンヴィーと接している。察しのいいジャックは、一瞬で分かってしまった。ラースとラトニーが七つの亡霊のメンバーだということを。


「ラース!貴様も七つの亡霊だったのか!」

「そう。私こと六神の亡霊を束ねる絶対神、七つの亡霊リーダーのラースだ」

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