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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第26話【戦う理由】

 グリードとラストによって破壊された学園は、修復の為に一週間の休みを取った。そして、その一週間が経ち、ジャックとアウトリュウスが一人づつ担任のリベに呼ばれた。


「どんなだった?」

「何の捻りもない説教だった。学園で寝るなって」

「そこかよ」


 アウトリュウスが指導教室から出てきて、ジャックと入れ違いになる。ジャックはスロウスに続いて二回目のことだから、少し気が引いていた。


「言いたいことは分かる……ね?」

「大体」


 リベはいつも通り病んだ目を下に向けており、やる気なさそうにため息をついた。


「学園が襲撃にあった時、貴方は寮で寝てる時間。どうしてそこまで首を突っ込むのです?」

「……正直に言うと、依頼だ」

「依頼?」

「日本のスサノオから依頼を受けたんだ。今神々を殺し回ってる殺人鬼を見つけ出し、そいつを始末しろと。そいつの正体が七つの亡霊って訳」

「そーゆこと」


 納得したリベだが、その表情は嫌悪そのもので、大きなため息をついて横を向いた。


「スサノオ様も最低ですね。こんな子供にそんな依頼するなんて」

「最低で悪かったな」


 声と共に、リベの背後に小さなドアが現れ、そこからスサノオが顔を出して現れた。それに驚いたリベは、自身のスカートを踏んで転けそうになる。


「大丈夫?」


 しかし、反射的に動いたジャックがリベの体を支えた。


「どうも。それより、何の誤用ですか?スサノオ様」

「少々話をしに来た。そこのジャックに」


 ジャックは主神が自ら自分の元へ来たことに驚き、警戒の目を光らせた。


「何さ」

「その依頼の件、中止だ」

「中止?」

「殺人鬼の正体がここまで凶悪な犯罪組織だと思っていなかった。そなたが一人で首を突っ込んでいいスケールではなくなったんだ」

「だから大人しく学校生活を送ってろと?」

「そうだ。この件は最高神達に任せるんだ」

「フンっ、分かったよ。依頼は取り消し、俺は好きに学校生活を送るよ」


 あっさり納得したジャックに、スサノオも面食らっているようだ。もう少し駄々をこねると読んでいたスサノオからしたら、話が早くて助かる。


「けど、俺は俺で奴らを見つけ次第始末する。残り五人は居るはずだからな」

「なっ!なぜそんな無意味なことを!奴らを倒しても報酬はやらんぞ!地位や名誉の為か?なぜ自ら危険を犯そうとする!」

「あんたこそ何でそんなに俺を引き留める。確かに、俺は一年前の英雄と呼ばれ、大英雄アマノの天だ。しかし、それ以下でもそれ以上でもない。身内でなければ、守る民衆でもない。元人間の余所者だ」

「何を言うか。守るべき大事な子供だ。元人間とか関係ない。子供は我々神々にとっても宝だ」


 スサノオは落ち着きを取り戻し、優しくジャックの肩に手を伸ばした。だが、ジャックの殺気を感じ、反射的に手を引っ込める。


「何か勘違いしてないか?俺はお前ら神々の仲間でも味方でもない。お前らが二十年間アマノにしてきたことを忘れたとでも思ったのか?俺は今でもお前らを嫌悪している。主神だろうと、先生だろうとな」

「だからと言って、戦う理由にならないだろ」

「なる。アマノの名誉を保ち続ける為、俺は嫌悪してるお前らに恩を売り続ける。死んだ後だろうが、誰もアマノを侮辱することは許さない」

「……」

「それに、戦ってる時は気分がいい」


 ジャックは少年のものとは思えぬ目と殺気を見せ、静かに部屋を出て行った。


 *


 学園が再開し、一週間後に班授業があった。ジャックとルーナがいつも通りゲームをしてる中、そこに静かにラックが現れ、二人の肩にゆっくりと手を置いた。


「俺も入れてよ」

「ゲーム集中してる時にいきなり現れないでよ」


 ラックは強引に二人の間に入って、その場にちょこんと座る。そして、思い出したかのように口を開いた。


「あ、そう言えばまた七つの亡霊の一人を倒したんだって?流石英雄様だね」

「けど、その分怒られたよ」

「誰に?」

「リベ先生。他の先生や神々は褒めてくれるのに、先生だけ不満そうにしてる。しかも、ヒステリックネガティブイカレ教師なんだ」

「あはは!心配なんだよ。彼女は素晴らしい天使だからね」

「どこがだよ。生徒を嘲笑うように笑うし、生徒の股間蹴ってたし、何より情緒不安定で先生としてダメだろ」


 笑ってたラックの表情が大人しくなり、ほんの僅か下を向いて悲しそうにする。


「けど、聞いた話によれば昔はあんな感じじゃなかったらしいよ」

「どんな感じ?」

「礼儀正しくて、表情豊かな八方美人。仕事には真面目で、常に成長を怠らない天使だったらしい」

「どうしたらこんな変わるんだよ」

「噂では、仕えていた神の失踪が原因だとか。その神は彼女の心の支えらしく、それが無くなって今のような彼女になってしまった。だから、神々がそんな彼女を哀れんで先生という仕事を与えた……らしいよ」


 その話を、ジャックもルーナも静かに聞いていた。特に、ルーナは目こそゲームに集中しているが、耳はラックの話に夢中で、少し困ったように下に目線を下げる。


「仕えてた神って、なんて名前?」

「さあ。なんせ、彼女の仕えていた神なんて居ないはずなんだ」

「どう言うこと?」

「つまり、正式に仕えてたんじゃなくて、隠れて仕えていたってこと。何でそんなことをしてたかは分からないけど、リベ先生はその神について一言も話さなかったらしいよ。勿論今も」

「ふーん。だとしたら随分親しかったんだろうね。でなきゃここまで変わらないよ」


 空気がほんの僅か冷めてしまったようだ。ルーナもゲーム内でゲームオーバーになって、表情を固めた。


「あ、珍しい。ルーナがミスるなんて」

「いや、リベ先生可哀想だなって思って……ちょっとミスった」

「俺もリベ先生可愛いと思うよ。正直抱きたいね。何回もアプローチしてるけど、今のとこ相手にされない」

「「……」」


 ラックの飄々とした態度と発言は、ジャックとルーナを呆れさせた。二人はラックを無視し、再びゲームに集中する。


 * 


 休日、ジャックは買い物に出掛けていた。毎週買い物に行っては、毎日料理をする。この習慣をつけようと、ジャックなりに頑張っている。


「今日は何を作るの?」


 買い物カゴの中から、ポム吉がヒョコッと顔を出した。それを一瞬だけ見下ろすジャックは、すぐに前を向いてポム吉の頭に牛乳を落とした。


「ホワッ!」

「今日はサンドイッチとかパンを焼いたり。明日は牛肉の黒ビール煮込み。明後日はポム吉の丸焼き」

「しょんなっ!?」


 ポム吉と適当に話をしながら、食材をどんどんカゴの中に入れる。徐々に、ポム吉の居場所がなくなるが、それはそれで嬉しそうだ。


「ん?あいつは……」


 ジャックの視界に、見覚えるのある男が入った。男は、周りを確認する動作を見せ、カートに足をつけてローラスケートのように遊び始めた。しかし、足が滑って中に入ってる食材をぶちまけてしまう。


「いててっ」

「何やっての……ラース」


 男ーーラースは、ジャックと一度会ったことのある男だ。七つの亡霊のリーダーでもあるが、ジャックはそれを知らない。


「君は……英雄ジャック。久しぶり。まさか私を探しにここまで来たのか?」

「違う。たまたまあんたのドジを見てただけだ」


 ジャックは呆れながら落ちてる食材を拾い集め、元のカゴの中へと入れてあげる。


「別にドジじゃない。わざと転んで、どれだけの者が助けてくれるのか検証してたんだ。どうやら、この場で助けてくれるのは君だけだな」

「そもそもここに俺しか居ない。あんた、カートに乗る時周り居ないか確認してたろ」

「……」


 誤魔化すラースは、服の汚れを軽くほろって何事もないように買い物カートを押す。


「随分買うね。それも高いものばかり」


 ラースのカゴの中身は、値段の高い物ばかりで、数もものすごい数だ。ラースは少し照れたように頬を触り、小さくフードを被った。


「明日妻の……いや、彼女?どっちかよく分からないけど、とにかく私のガールフレンドの誕生日なんだ。それで、明日のご馳走の準備をしてるんだ」

「わお。それはおめでたい。けど、何でそんなあやふやな言い方なの?」

「あやふや?」

「奥さんなのか彼女さんなのか分からない。結局どっち?」

「ん〜、子供も居るし、一応奥さんなんだけど、正式な結婚はまだなんだ」

「何で正式な結婚しないの?」

「約束したから。ある目標を達成した暁月に結婚すると」

「ふ〜ん」


 ジャックは細い目で照れるラースを睨むも、すぐにクスッと笑って顔を背けた。


「何だい?言いたいことがあるなら言ったらどうだい?」

「別に。応援してる」

「ほお!やはりいい子だね、君は」


 ラースが撫でようと手を伸ばすも、ジャックがそれを当然のように避ける。


「そうだ。明日の誕生日パーティー。君も来るといい」」

「……いいの?」

「勿論。まあ、パーティーと言っても妻と私だけだと思うけどね。息子にも来るように言ったが、恐らく来ない」

「もしかして、その息子と仲悪い?」

「いや。ただ、あの子は私以上に自由気ままだから。親の誕生日なんて興味ないよ」

「酷い息子だ」

「それは否定できない」


 クスッと笑うラースだが、その目は笑ってなく、ほんの一瞬だけ殺気に近い何かを発した。ジャックもポム吉も、それに気付かなかった。


「では明日。大英雄アマノの像がある場所で待ってるよ」

「分かった」


 そう言って立ち去ろうとしたラースだったが、服のあちこちを触って焦った仕草を見せる。そして、冷静さを取り戻してジャックの元へ足を運ぶ。


「ッ?」

「一勝負しないか?今買ってる物の奢りを掛けて。勝負の内容はあそこに居る女ーー」

「財布を落としたんだな?」

「……」

「回りくどいこと言いやがって。奢ってあげるから着いてきな」

「……フッ」


 どや顔を浮かべて鼻で笑うラースは、カッコつけてフードを深く被る。しかし、近くを通った女神のお尻に、カゴからはみ出てる長ネギが当たり、痴漢と勘違いされて蹴りを入れられる。


「何晒しとんじゃ!痴漢野郎!」

「げっ、ポム吉みたいなことすんなよ」

「くそっ、長ネギめっ……」


 ラースは鼻から血を垂らし、クラクラする頭を押さえてその場に倒れた。

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