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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第25話【グリード】その5

 不思議な少年ラースとその幼馴染のラトニーが住む城には、もう一人住み込みで働くことになった。暴君ネロ王は、過去と名前を捨てて、専属執事グリードと生まれ変わることにした。常に危険と隣り合わせの生活に飽きていたグリードにとっても、悪い選択ではない。

 一応、グリードにも城に住む理由があった。それがラースだ。ラースという神を知る為、好奇心で城の執事をすることにしたのだ。グリードにとって、ただの暇つぶし程度にしか考えていなかった。


「いでっ」

「大丈夫?怪我はない?」

「わざとだ。怪我はない」


 グリードがラースのことで一番最初に気付いたのは、飛び抜けたドジだ。何もないところで転けては、血を流す程怪我をし、食器を持てば壊し、空を飛べば何かにぶつかる。一日の平均ドジ回数は五十は超える。

 そんなヘタレに対し、幼馴染のラトニーが毎度毎度フォローをしている。その状況に理解できなかった。


(こんなドジ野郎のどこが良いんだ?)


 それどころか、ラースの残念ポイントはこの程度では収まらなかった。威風堂々としているから、凄い能力の高い神だと思い込んでいた。そんなグリードからしたら、拍子抜けの数々だ。


「ラース、私の下着知らない?」

「知らないな。それと、俺の昼寝を邪魔するな」

「ごめん」


 ラースはハンモックに揺られながら、目隠しにしてるブラジャーを捲り、覗き込む片目でラトニーを追い払う。


「ラース、全部赤点だったね」

「たまには弱者の立場になってみようと思ってね」

「流石ラース。再テストも余裕だね」

「……一緒に勉強なんてどうだ?」

「毎日教えてあげてるじゃん」

「ドーナツ作ってやるぞ」

「ラース料理できないじゃん」

「今度何か奢ってやる」

「最近財布無くしてなかった?」

「……俺は勉強してくる。いつでも来ていいから、ね?」

「今日はいいや」

「お前がいないと寂しいよ」

「気取ってないでたまには正直に言ってみたら?」

「……」


 グリードから見て、ラースはとても情けない奴だ。何もできない癖に、プライドが高く見えっぱり。それでいて自分の弱点を偽り続けようとする。ラトニーがラースを見放さない理由も分からないし、今まで貴族の子として立ち振る舞えたのも疑問に思えてくる。


「いでっ」


 ラースがいつものように転けた。しかし、ラトニーは近くに居らず、居るのはそれを見下す執事のグリードだ。最初は何とも思わなかったグリードだが、ある日突然、変化した思考が行動へと現れた。


「はあ、大丈夫ですか?ラース様」


 痺れを切らせたグリードは、ゆっくりと転けたラースに手を差し伸べる。それをジーッと見るラースは、いつもの情けないラースの目ではない。そして、その違和感にグリード自身も気が付いた。


(ッ!こ、この俺が……な、何で手なんか差し伸べてんだ?いくら執事として振舞ってたからとしても……有り得ないことだ。俺は絶対的な存在、栄光の血を引く大王だぞ?その俺が他人に手を差し伸べるなんて……有り得ない)


 慌てて手を引っ込めようとしたが、ラースがそれを拒むようにグリードの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。


「珍しいこともあるね。けど、正直に言うよ。ありがとう、グリード」

「い、いえ……」


 してやられた気分だった。自分より能力も経験も遥かに劣る少年が、自分を少し変えてしまったからだ。


(親は何も出来ない赤子に何でもかんでもするが……その心理がこれだと言うのか?俺は、何も出来ない奴に何かしたいと無意識に思ったのか?ラトニーがラースに何でもかんでもするのも、同じなのか?)


 グリードが執事として生活し、一年以上が経つ。そんなある日、ラースがグリードに問い掛けた。


「君に夢や野望はないのかい?」

「私にですか?」

「もう一年以上僕に仕える。未だに、君の心には暴君ネロが眠っているのかい?」

「……今は夢や野望らしいものはないですね。ラース様は?」

「フフフッ、よくぞ聞いてくれた!我が野望は神々を殲滅し、我が真の神となって世を正すことだ!」


 ラースは待っていたかのように舞い上がり、自慢げにドヤ顔する。しかし、グリードに鼻で笑われて少しムッと怒った。


「グリード貴様、信じてないな?」

「当然。貴方程度の神がどうやって神々を殲滅するのですか?そもそも真の神って何です?」


 グリードは以前クスクス笑いながら、小馬鹿にするように言う。


「優れた生物は個体数が少ない。なのに神のこの状況は何だ?人間程ではないが、ゴミのように溢れ返っている。この失態を犯したのは最初の神、天之御中主神アメノミナカヌシだ。そいつの罪をこの僕が背負ってやるのさ。数があるから悪意で溢れかえるこの現状に、偉大なるこのラースの手で終止符を打ってやるのさ」


 いつもより静かに喋るラースは、深く考えているような素振りを見せる。しかし、グリードの目にはラースが何も考えないで話しているように見えた。


「それ、正しいことと思ってやるならやめることをおすすめしますよ。誰も感謝しないし、貴方も痛い目に遭う」

「善悪はちょびっとも気にしてないよ?ただ、自分がやりたいと思って、それをやり通そうと決めたからやるだけだ」

「じゃあ、悪ですね。私と同じです」

「じゃあ、悪、じゃあ悪。邪悪……もしかして今のギャグ?」

「違います」

「そうか」


 グリードは薄々気付いていた。ラースの偉大なる目的に、特に大きな理由がないこと。先程なんにも考えてないないように見えたのは、そういうことなのだろう。少なくとも、グリードはそう捉えた。


「どっちにしろ、神々を敵に回して生き残れる訳がありません」

「その為に君が居るだろ?見届けてくれよ、僕の夢を」

「儚く散ることに、私の命かけてもいいですよ」

「言ったな?なら、僕は完璧に叶うことに僕の命をかける。負けた方が死ぬ。いいな?」

「はい」


 勿論、その目的を達成出来ると思っていないし、その意思もどこかで風化してしまうと思っていた。


高御産巣日神タカミムスビノカミを仲間に!?」

「そうだ」


 しかし、その考えは覆る。かつて、神の中で二番目に早く誕生した高御産巣日神タカミムスビノカミがラースの仲間になった。

 これは、グリードかしても有り得ないことだった。


「そんなバカな!奴はかつての私以上の凶暴さを持つ神!天之御中主神にしか気を許してなかった!奴と目があったやつらは片っ端から殺されたという程……」

「たまたま意見が一致したんだ。磁石のように、我々は惹かれあったのさ」


 結局、グリードはラースがどのように高御産巣日神タカミムスビノカミを仲間にしたの知らないままだ。

 それでも、ラースの言葉にできないカリスマ性を見て、心が派手に踊っていた。


(こいつの全てが知りたい!認めたくないことだが、天性の王であるこの私が、初めて仕える側になりたいと思った!こいつは、いつも刺激も安心もバランスよく与えてくれる)


 その後、有言実行の数々を熟すラースを長い時を得て見守ってきた。時間が経つ程、自分の選んだ選択に間違えがなかったと思った。全てを持って生まれた王様が、マイナスを持って生まれたラースに仕えたのだ。


「僕らの子だ」


 その数年後、グリードはラースとラトニーの間に生まれた子供――ラストの育て親となった。


「神を減らす者が神を増やしてどうするのですか?」

「フフフッ、これで絶対的な仲間が増えたろ?」


 ラースはドヤ顔でそう言ったが、隣のラトニーが困った表情で首を横に振った。


「嘘だよグリード。ラース、この前我慢できないとか言って――」

「ラトニー!それを言ったのは君だろ?全くドスケベな女め〜」


 誤魔化そうとしたラースだが、ラトニーに頬叩かれて酷く落ち込む。


「まぁ、思った通りです。これ以上は増やさないで下さいね」


 ラストはグリードに丁寧に育てられた。しかし、ラースの血があったせいか、思ったような性格の持ち主にはならなかった。

 傲慢で強欲、気分屋でお調子者。更に酷いのは、暴君と呼ばれたグリードすら引いてしまうよな生まれ持っての邪悪な心。

 思うがまま動くその姿は、まさに神その者だ。


 それでも、グリードはラース以上の興味を持てなかった。ラース以上の能力を備えているラストに、ラース以上の魅力を感じなかった。

 それでも、ラストの瞳を見るのだけは好きだった。なぜなら、その瞳はかつての幼くて純粋なラースを思い出させてくれるから。


 *


 ジャックとアウトリュウスが地を這いつくばるグリードに近付いてきた。だが、グリードはもう時期死ぬ。目の前の幼いラースの写真に手を伸ばし、唇を噛み締めている。


(あの元人間がラースに何かできる訳ない。そんな訳ないが、奴をこのまま生かしておく訳にはならない。あの薄汚れた血を引く人間と、我が王を同じ土俵に立たせてたまるか)


 グリードの体は、バチバチと火花を発している。それはまるで、線香花火が落ちる前のようだ。


「きっ、貴様のような愚民以下の人間がっ!我が王に勝てるなどと思うなあぁぁ!」


 その線香花火のような体は、破裂して肉片が綺麗に飛び散った。しかし、飛び散った肉片がジャックとアウトリュウスにへばりつき、バチバチと音を立てた。


「何!?」


 更に、その肉片からグリードの顔が生え、取り込む二人を暴君の如く見下ろした。


「我が命と共に散れ」


 二人は、グリードの肉片に取り込まれたまま大爆発した。その爆風に巻き込まれたポム吉も吹き飛び、少し遠くで困惑したように立ち止まった。


「じゃっ、ジャック……。ジャックー!」


 爆風から見えたのは、グリードの生首だけで、他は何も見えない。ポム吉の目から涙は出ないが、心はぐしゃぐしゃで涙でいっぱいだった。

 しかし、爆風の煙に混じってた白い雲が奇妙に動いたのを目にし、体が硬直した。


「俺ちゃんが居て良かったろ?ジャック」

「まじ助かった。けど、何でこんな魔法まで持ってんだよ」


 その白い雲は、形を取り戻し、ジャックとアウトリュウスの姿へなる。それを見て、ポム吉も大はしゃぎし、二人へ駆け寄った。


「ゼウス様の魔法さ。一年前のアイムとの戦いの時、ストックしといたんだよ。切り札の一つだったんだけどね」

「やるな」

「え?やる?いいの?」


 アウトリュウスは、ジャックを抱っこしたままお尻を撫でた。当然、ジャックに打たれる。


「どんだけ都合いい耳してんだ」

「どんだけいい尻してんだ」

「マジでいい加減にしろよ」


 イラつくジャックと飄々とするアウトリュウスは、表情や様子以上に気分良さげだ。そんな気分良い二人を、地に落ちていくグリードが不機嫌そうに眺めている。


「くっ、くそガキ共があああーー」


 最後の断末魔も、首から崩壊していったことで途絶えた。残ったのは、グリードの片目と宝物のラースの写真だ。その片目でラースの写真を眺めるも、片目もゆっくりと崩壊して消えた。

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