第23話【グリード】その3
ジャックは、戦闘不能になったアウトリュウスへの被害を恐れ、グリードを誘導しながら学園内を飛んでいる。そして、地下から脱出し、神秘的な泉のようなエリアまでやって来た。
「フッ、エル.フラルゴ」
だが、痺れを切らせたグリードが神器から放った爆破魔法をジャックの腕に当てる。
「そう慌てるな」
しかし、ジャックの手は膨大な魔力と強化された筋肉によって防御してある。それを目にしたグリードは、不満そうに舌打ちをする。見た目が変わったせいか、グリードの仕草が段々と子供ぽくなっていく。
「エル.フラルゴ」
グリードの爆破魔法が倍以上に早くなっている。本来なら避けることが出来ないはずだが、ジャックは攻撃とほぼ同時に避け、泉の水面を滑って華麗にグリードへ攻撃を仕掛けてる。
「ちっ。最初は避けきれずに食らっていたはずなのに、強化された私の攻撃を避けれるようになってる。一体何をしたんでしょうね」
「さぁな」
深い斬撃の攻撃が命中したジャックは、ゆっくりと振り返り、チラッと真理の義眼を見せた。だが、まだグリードはその力に気付いていない。
「エル.フラルゴ!」
「ライト.ファロン」
またまたグリードより一瞬早く動いたジャックは、爆破魔法に光魔法を当ててグリードの手前で爆破させる。その死角を見逃さなかったジャックは、水面を滑ったままグリードにワイヤーを結び付け、二つの神器で引っ張りあう。体がちぎれそうになるグリードだが、その体を爆破させてワイヤーを切断した。
「やはり奴に触れた物は爆破してしまうか」
「ええ、こんな風に!」
更に、グリードが蹴り飛ばした水がジャックに掛かり、水そのものが連続的に爆破を起こす。諸に爆破を食らったジャックは、泉の中へ潜り、身を避難させる。
(液体をも爆弾そのものへと変えてしまうのか。恐らく、触れた一瞬で魔法をかけているんだ)
奥へ奥へと泳ぐジャックは、水の中で魔法陣を出現させる。
(闇魔法)
その魔法陣からタコの炭のように黒い魔力が現れ、周りを真っ黒に染めてしまう。
「目くらましですか」
グリードからジャックの姿が見えなくなる。グリードは水の中からの攻撃を警戒し、身を宙へと避難させ、冷静に水の中の動きを見ている。
「いいや、チャンスです。フフフッ、エル……フラルゴ」
グリードは自身の腕を掻っ切って、流れる血を泉へと垂れ流す。その血は、黒い水の中に渦のように混ざり合い、奇妙な動きで泡を吹き出した。そして、泡と共に黒い水が激しく爆破した。
「この程度のことで死なないはず。一体どう対処したんですかね?まあ、大体読めますけど」
グリードが見たのは、泉から上空へ飛び上がったジャックの姿だ。だが、グリードの指揮者のような動きと共に黒い水が竜の形になってジャックを追い掛けた。
「ちっ」
「逃げれる訳があるか!ここで死ぬんですよ!あんたはさ!」
水の龍は、しつこくジャックを追いかけながら口から黒い水の玉を放つ。それを避けるジャックだが、玉が建造物に当たり、その威力を目の当たりにして唾を飲み込んだ。黒い玉は、建造物に当たった瞬間に爆破を起こし、内部と外部の両方から破壊を行っている。それがジャックに当たれば、即死は勿論、運が良くても致命傷だ。
「ここで死ぬのはお前だ!グリード!」
ジャックは泉の中に隠していたワイヤーをグリードの背後から伸ばし、グリードの両腕を切断して体を拘束した。両腕は、手に持っていた神器と共に泉の中へと落ちていく。
「私に龍を誘導させるのは読んでいましたが、ここまで出来る子ちゃんだとは思いませんでしたよ。流石一年前の英雄」
ジャックは追いかけてくる龍を利用して、それをグリードにぶつける形で飛行している。しかし、龍の黒い玉が飛んでくると同時に、グリードの体そのものが爆破し、バラバラになってワイヤーの拘束を解いた。良く見れば、バラバラの体は長い血管のような物で繋がれている。
更に、泉の中に沈んでた腕が血管に引っ張られたように戻ってきた。流れるように続いた動きは、無駄のない一瞬の動きだ。
「だが!所詮は一年きりの英雄!貴様は英雄でも神でもない!ここで死にゆく独りよがりの人間なのですよ!」
「なっ!?」
グリードは黒い玉の爆風に巻き込まれ、ジャックの方まで飛んできた。だが、体の体勢は取れており、真っ直ぐこちらに神器の銃口を向けている。流石のジャックも、この一瞬で防御や回避は間に合わない。
しかし、上空から落ちて来た刀がグリードの肩に刺さり、体制を崩したことで銃口の向きが変わった。弾丸はジャックの耳元をかすり、しばらく進んだところで爆破した。
「フフッ」
それでも、グリードの笑みは止まない。
「お前、片腕は?」
その笑みと違和感に気付くのが遅かったようだ。グリードの片腕は、切断されたままで血管だけが泉の中へと入っている。
それに気付いたと同時に、ジャックの背に激しい痛みと爆破が起きた。
「エル.フラルゴ」
ジャックの背に放たれた魔法は、グリードの神器爆魔亜刀から放たれものだ。泉の中から出てる切断された腕が、ジャックの背後を取り、攻撃を成功させたのだ。
おかげで、ジャックの背中は羽根もろとも損傷し、深く抉れて腑が飛び出る。それでも、別の羽根を生やし、その羽根で傷口を治療する。
「げっ、羽根から魔法を使用しているのですか?魔力を集中し慣れてない場所なのに、良くもまあ器用なことをやってのける。だが無意味です」
再び、前方のグリードが銃口を向けてくる。同時に、背後の神器がジャックの首元狙って振り翳しており、挟み撃ちの状態になっている。更に分が悪いことに、上空からは先程の黒い龍が襲ってきている。下は爆破する泉の水で、逃げ場など全方向どこにも無い。
「御愁傷様」
「やはりこの程度の作戦か。読み通りだぜ」
ジャックは迷いなく一歩素早く前進した。すると、背後の神器と飛んできた魔法の衝突で爆破がおき、その爆風でグリードの方向へぶっ飛んでいった。無論、爆破に巻き込まれている為、無傷でない。しかし、この一瞬でジャックとグリードの距離がゼロ距離まで縮まった。
「アホですかあ?学びませんね!」
だが、それを分かっていたようにグリードの体が内部から爆破した。先程のように、血管がバラバラの体を繋ぎ止めており、何らかの魔法で死を免れている。
その爆破を諸にくらったジャックは、大火傷と負傷を負って遠くへと吹き飛ぶ。
「待ってたぜ。そ、その技を……内臓全てが丸見えになるその瞬間を」
グリードは体の一部に違和感を感じた。その違和感はグリードの最も大切なハート――心臓だ。
「照れちゃう!」
その心臓に抱きついているのは、白いクマのぬいぐるみーーポム吉だ。ポム吉も、グリード同様に光を放って内部から爆破する体制に入っている。
「いつの間に!魔力は感じなかったのに!や!やばい!よせーー」
「ほわっ!」
ポム吉と心臓は、共に内部から激しく爆破する。心臓が破壊されたことにより、周りのバラバラになってる体が朽ちるように泉の中へ落ちていく。それを見たジャックは、安心したように親指を立てて軽く笑って見せる。その笑みを見たポム吉は、「照れちゃう」と言って頭をかく。
「ナイス吉だ」
「照れちゃう!流石ジャックと僕!」
「照れてないでこっち来てくれ。傷が酷くて起き上がれない」
「了解!」
ジャックはグリードの爆破に巻き込まれて重症を負っている。自分で治癒することもできない状態で、ポム吉が居なければここから移動も出来ない。
「ぺちゃ!」
ポム吉はそう言い、傷ついたジャックの胸に飛び込み、すりすりと顔を擦り付ける。
「動けないことをいいことに調子乗んなや。早くしないと燃やすぞ」
「ごめんなしゃい」
ポム吉がドラゴンに変身しようとしたその時、泉の中から飛んできた手がポム吉を強く握り掴んだ。その手は、死んだはずのグリードの手で、手には血管が長々と繋がってる。
「ほわっ!?」
「何だと……」
その手の近くで、粉々に消えた筈の心臓がじわじわと元の形に戻り、一気に体の部位を引っ張り、元のグリードの姿を見せた。グリードはジャックに受けた傷はあるものの、爆破による疲労やダメージはないようだ。首の骨を鳴らし、暴君のようにジャックを見下ろしている。
「ゴミカスの分際で……よくぞここまでやったものですよ。正直、とても焦りました」
「なぜ?確かに、ポム吉が心臓を破壊したはず」
「破壊したのは私自身ですよ。この幻獣が自爆する前に、私の心臓を爆破させて逃したのです。ほんと、間一髪でした」
「クソッ、一手外したか」
動けないジャックは、絶望的な状況で不思議とクールだった。自分がほぼ確実に死ぬ状況だからこそ、逆に諦めがついて冷静なのかもしれない。それでも、自分が生き残る道を探し続けていた。
(ポム吉は奴の手の中だ……もう使い物にはならない。神器はあるが操る力も集中力もない。ただでさえ吐きそうなくらい苦しい状態だってのに……打つ手なしか?いや……まだ真理の義眼と地獄門の召喚がある。真理の義眼で奴の動きを把握し、地獄門でトドメを刺すしかない。俺ならやれる……というかやれなきゃ死ぬのは俺だ。やってやる)
ジャックの中で作戦が完了したようだ。グリードも、ジャックにトドメを刺す決心が着いたように見える。
「どうした?やれよ」
「妙に冷静ですね。まだ何か企みがあるのですかな?」
「ああ、あるぜ。ほら、実行される前に俺を殺したらどう?」
「随分と死にたがりですね」
「がはっ!?」
ジャックは血を吐いたフリをし、そのまま下を向いて帽子の鍔で目元を隠す。そして、緩やかに真理の義眼を発動させる。しかし、その発動が少々遅れたと後悔することになった。
「神器!爆魔亜刀!」
真理の義眼発動と同時に、グリードが距離を取って高い位置から銃口を向けて来た。この距離では、ジャックの封印魔法、地獄門の召喚の射程距離外だ。
「チッ、ちくしょうが」




