第22話【グリード】その2
アウトリュウスが見せたグリードと同じ魔法。その魔法は、グリードを取り囲んだ状態で爆破して見せ、崩れ掛けていた壁や天井を破壊尽くした。
「おほっ!やったなジャック!」
爆風から姿を見せたグリードを目にし、アウトリュウスが子供のように飛び跳ねた。そのグリードの姿は、攻撃をしっかり受けており、息を切らせてその場に膝を付けている。
「はぁはぁ、まさか、私の魔法を打ってくるとは。コピー系の魔法ですかね?」
「さぁね。疑問を抱えてあの世へ行きな」
アウトリュウスは容赦なく魔法陣を展開し、それを指に集中させてグリードに向ける。銃口を向けられている状況で、グリードは爽やかに目線を下げている。
「エル.フラルゴ」
グリードがそう言った瞬間、教室全体の床が爆破した。
「上だ!」
「いや、天井が落ちて来る」
上空へ逃げようとするも、天井も爆破によって落下し、瓦礫達が爆破しながらジャックとアウトリュウスを襲う。
「こっちだ!来い!」
爆破を食らうアウトリュウスに対し、ジャックが素早く手を伸ばした。
「来いっ言うから会いに来たよ」
「喋んな」
ジャックはアウトリュウスを抱えたまま天之月を展開し、風船のようにゆらゆらと揺れる。爆破する瓦礫が落ちて来るも、傘の形をした天之月によって防御されている。
「戦闘中に仕掛けていたらしいな」
「そうだね。それに、向こうもやる気を出したようだよ」
グリードは羽織っていた服をゆっくりと脱ぎ、腕捲りをしてその場で足踏みをする。そして、両手から出現した魔法陣に手を伸ばし、何かを取り出す。
「神器、爆魔亜刀」
グリードが取り出した神器は、二つの銃剣だ。刀とも剣とも言えない刃は、刀より短くてナイフより長い。その刃の上に微かに見えるのは、小さな小さな銃口だ。とてもシンプルな形故、持ちやすく振り回しやすい。
「あの神器、銃剣か。奴の魔法と相性が良さそうだ」
その神器を見て、アウトリュウスが困ったように眠たい目を下に向ける。
「知ってるのか?」
「うん。この狭い場所であの神器はかなり厄介だよ。近距離技の刃は勿論、あの銃口から放たれる遠距離技にも注意しなくてはならない。つまり、近付いても離れても不利ってことよ」
神器に警戒する二人に、隙も油断もないグリードが神器を向けた。向けられた二つの銃口は、ジャックとアウトリュウスを完全に捉えている。
「実際に受けてみるといいですよ」
「あはっ!やばいよ!防御だジャック!」
「言われなくとも!」
「エル.フラルゴ」
銃口に浮かぶ魔法陣から、一瞬のためを得て小さな魔法が放たれた。その魔法は弾丸より小さく、スピードに特化している。ジャックもアウトリュウスも目で追うのがやっとで、体が反応出来ない程に早い。
「嘘!?」
その魔法は、当たると少し貫通し、内部から爆破した。それを諸に受けたジャックは、血を吐いて宙へと吹き飛ぶ。
「避けるんじゃなくて防御、そう言うべきだったな。わりぃ」
避けようとしたジャックと違い、防御を展開していたアウトリュウスは、かすり傷で済んでいる。
「あと一人」
「ジャックはまだ生きてる。なら、俺ちゃんが守るしかないでしょ」
「叶わない夢を見やがって。神器、爆魔亜刀」
「略奪魔法、レッド.アッド.ブルー」
アウトリュウスが魔法陣から取り出したのは、大きな黄色の本だ。更に、その本からゆっくりと見覚えのある神器が現れる。
「な、何だと……」
その神器は、今もグリードが手にしている『爆魔亜刀』だ。そして、お互いに同じ神器を構え合う。
「「エル.フラルゴ」」
同時に放たれた魔法は、弾丸のように鋭く飛んで行く。アウトリュウスは先程のように防御を固めており、グリードも手の平に展開した魔法陣で防御する。
「自分の神器と魔法だろ?威力を見誤ったな」
「ちっ、私以上に魔力を込めてたのですか」
グリードの左手は、爆破の魔法によってその場にもげ落ちてしまう。一方、アウトリュウスの右手から神器が消え、再び黄色の本から同じ神器を取り出す。
「やはり、コピー系統の魔法か。いや……コピーというより保持しているのですね?略奪魔法……てことは、その本の中にあらゆる魔法が詰まっているはずです」
「まあ、だいたいそんな感じ。あんさんがどれだけ凄い魔法や神器を見せようが、その分俺ちゃんもその凄さを見せれるってこと」
「だからと言って、この神器を扱える訳じゃない。貴方も分かってるはずですよ」
「分からない。何言ってるか分からない。さっさと来たら?」
「生意気言いおってからにぃ」
グリードの左手が治癒魔法で治ると、アウトリュウスが鏡のように同じ動きをし、神器で攻撃を仕掛ける。お互いに通り際に神器を交え、離れた瞬間に神器から魔法を放つ。
教室中を駆け回る二人は、神器がぶつかり合う音を響かせながら、そこら辺に爆破を起こす。
一見互角に見える戦いだが、その差はすぐに出た。神器の扱い、魔法の放つタイミング、攻撃の素早さ、全てがグリードの方が上手だ。それも、その差は広がる一方。
「所詮コピー系統の技。やはり、オリジナルの私以上に技や武器を扱える訳ないですね。どうです?わざわざ真似しなくてもいいのですよ」
「気遣いご無用。さっさと来てよ」
「お望み通り。黄泉の国へ」
アウトリュウスの挑発は、グリードをその気にさせる。先程よりスピードが早くなり、アウトリュウスが手も足も出ない状況になる。
だが、アウトリュウスは瞬間的に戦闘スタイルを変えてほんの僅かグリードを翻弄する。
手元の神器、爆魔亜刀をグリードに向けて投げ捨て、もう片方の爆魔亜刀から放った魔法で、その神器を撃ち抜き、起動を直角に変える。
起動が変わった爆魔亜刀は、予想外の動きでグリードの背に刺さり、畳み掛けるように飛んで来たもう一つの神器も腹に刺さった。
「がはっ!?」
「ヘヘッ。やっぱし、瞬間的な変化に対応出来ないタイプだな。バイチャ〜」
黄色の本から出現したピストルから放たれた弾丸は、容赦なくグリードの胸を貫いた。グリードは胸を抑え、血を吐いてその場に呆気なく倒れる。
「ヘヘッ。ジャック〜!終わったよ」
倒れたグリードに弾丸をもう一発放ったアウトリュウスは、少し遠くで瓦礫に埋まってるジャックを気遣う。
「ううっ」
「大丈夫?」
心配そうに眉を寄せるアウトリュウスは、ゆっくりとジャックを起き上がらせ、胸を撫でるように触る。当然、秒で殴られ、ジャックが素早く起き上がる。
「今回は助かった。どうも」
「そ、その仕打ちがこれ?」
「だからその程度で済んだ」
「ジャックって好き嫌い分かりやすい」
「ふんっ」
「俺ちゃんのこと好き過ぎる」
「何でそうなる――」
突然だった。事が済んで話し込んでいたアウトリュウスの体が、なんの前触れもなく内部から爆破し、血や肉片がジャックにべっとりと付着する。
「ちっ……くそっ……」
腹の中心から深く体が破損したアウトリュウスは、痛みと苦痛に耐えることも出来ずにその場に倒れ、苦しそうにもがく。
慌てて治癒魔法を使用するジャックだが、その目線は自然と別の場所へと向けられた。
「嘘だろ」
ジャックの目先にあるのは、先程グリードが倒れた場所だ。いつの間にか爆風で砂埃が舞っており、禍々しい魔力で溢れていた。その爆風から、徐々にグリードが姿を見せる。
「まさか、この私が子供程度に本気を出さなくてはならないとは……」
エメラルドグリーンの髪、白い服、紳士的な声と雰囲気、それは間違いなくグリードだ。だが、姿が先程と違う。高身長の紳士から中性的な青年の姿へと変わっており、瞳も闇のように深い黒から赤くて鋭いものになっている。
メガネも掛けておらず、服装も変わっており、全体的にシュッとした体型になって、得意げに爆魔亜刀を手元で回している。
「まっ、もうその必要もなさそうですね。残りは英雄さんだけ……フフフッ、いい遊び相手になりそうです」
「それが、真の姿って訳か」
グリードに疲労やダメージは見られない。寧ろ、先程より魔力とエネルギーに溢れており、状況が悪化している。
「アウトリュウス、借りは返すぜ。後はいつも通り寝てろ」
「くっ……ううっ……」
ジャックの言葉はアウトリュウスに届いていない。治癒魔法を使用したというのに、大きなダメージが残っているようだ。
「ジャック、やるんだね?」
瓦礫から飛び出たポム吉が、ジャックの肩に乗って震えながらグリードの姿を確認する。
「当然、修行の成果を見せてやるよ」
「ま、まさか」
「真理の義眼を使用する。でなければ、今の俺程度が奴と渡り会えない。ぶっ壊れたら時は……頼む」
「まかしぇろ!」
アウトリュウスを後に、ジャックがゆっくりと羽根を広げる。その羽根は動物の威嚇のような物で、グリードを殺気と魔力で抑えているようだ。
「それが噂の魔王の羽根。体の倍大きい羽根を扱えるとは、流石英雄ですね」
「薄っぺらな態度はよせ。そののぼせ上がった薄ら笑みを見ると反吐が出るんだよ」
「フフフッ、酷い言いよう。でも分かりますよ。私も貴方みたいに神の力で調子乗ってる元人間を見ると……腹立たしくて仕方ないんですよ」
「安心しな。その腹立たしさもすぐに消えるぜ。その薄汚れた体と一緒に、綺麗さっぱりな」
「口の減らない子だぁ」
「三種の神器!天之月、桃凛剣、魔漂線」
「神器、爆魔亜刀」
お互いに神器を構え合う二人は、見下ろし合いながら距離を取る。だが、天井が爆破し、瓦礫が崩れ落ちて来たことでその距離は一気に縮んだ。
ぶつかり合う二人の周りは、激しい魔力が溢れ出ており、頑丈な教室を吹き飛ばし、邪魔になる壁や瓦礫を綺麗に消し飛ばした。




