第21話【グリード】その1
深夜の学園は、爆発によって激しく崩れている。学園からは、教師や生徒がぞろぞろと脱出し、何人かは救助活動に回っている。
そんな学園の瓦礫の影で、ジャックと謎の二人組が睨み合っている。二人組は、一人がもう一人におんぶして貰っており、後ずさりして今にも逃げそうだ。
「逃げれるか?」
「いや、逃げれなそうですよ」
だが、二人組も逃げれる可能性が僅かなことに勘づいている。
「呑気な奴らだ。逃げれるかじゃなく、生きるか死ぬか考えたらどうなんだ?」
「そうだ!とっ捕まえて牢屋に入れてやるぞ!」
ジャックとポム吉は、先手を取ったことで少し余裕がある。
「ラスト。君は瀕死だし、何より顔を見られたら面倒だ。ここは私の策に乗って下さい」
「あぁ、頼むよグリード。俺様、頭クラクラスト」
瀕死の男――ラストを背負うグリードは、崩れている学園とその通路に目を向け、再びジャックに目線を向けた。
「貴方、英雄ジャックですね?大英雄アマノの天であり、弟子である元人間」
「そうだが、だとしたら何だ?」
「飛びっきりの大ニュース……大英雄アマノは死んでませんよ」
「何っ!?デタラメ言うな!アマノの死は俺がこの目で確認してるんだぞ!」
「けど、ほら後ろ」
グリードは惚けた顔でジャックの背後を指差した。その言い方とフードの下の表情は、大真面目に見える。
おかげで、ジャックとポム吉がまんまと背後を振り返り、数秒の時間を盗まれる。
「はっ!」
ジャックが再び正面を見ると、グリードはラストを背負ったまま学園内へと逃げていた。
「アマノ居ないよ!そこに居るなら返事してよ!」
「バカ吉!騙されたんだ!あいつ真面目な顔であんなこと言いやがって!アマノの名を使って俺を騙しやがった!絶対ぶっ殺してやる!」
「そんな!?酷すぎる!」
ジャックは怒りに煮えたぎり、グリードを追い掛ける。そのスピードは、すぐにでもグリードに追い付きそうな速さで、周りの瓦礫を魔力と突風で吹っ飛ばしている。
「やばいぞグリード!騙したのは逆効果だったんじゃねぇか!?」
「私もう少し後悔してます。あれは、執念という悪魔です」
グリードも高速でパルクールをするように華麗に逃げる。通り過ぎる壁や瓦礫を触りながら、下の階へと逃げて行く。
「逃がすか!」
ジャックも下の階へと向かう。しかし、突然爆破が起き、ジャックは後方へと吹き飛ぶ。
「トラップだ!あいつが仕掛けたトラップだ!迂闊に動いたらダメだよ!」
「くそっ」
ジャックとポム吉は迂闊に動けなくなり、足を止める羽目になる。しかし、おかげで僅か少しの冷静さが生まれ、そこに思考が伴った。
「奴は一階に向かった」
「つまり?」
ジャックは静かに目を瞑り、全身の魔力を集中させて何かを探る。そして、その何かを見付けて、瞬間的に床にかかと落としを入れる。
「ほわっ!?」
当然、床は激しく壊れ、下の階へ瓦礫が落ちて行く。ジャックとポム吉は、宙に浮いたまま下の階を見下ろしている。
「ライト.ファロン」
ジャックが下の階に向けて光を放つ。その先には、瓦礫に囲まれたグリードが居て、光を諸に食らっている。
「ぐはっ!」
「流石ジャック!魔力探知で居場所を探っていたのか!」
ジャックはゆっくりとグリードの元に降りて、周りをきょろきょろと見渡した。
「ラストとか言うやつは……居ないな。俺に追い付かれることを分かって仲間を逃がしたんだな?」
「その通りです。転移魔法で逃げたので、もう居ませんよ」
「覚悟は良いな」
「貴方こそ」
ジャックは床に足が着いた瞬間に、再び爆破を食らう。それも、先程の爆破より圧倒的な火力だ。
「ちっ。警戒して体に魔力を覆っていたのにこの威力」
「親切に教えてあげますよ。貴方の周りはトラップだらけになっています。迂闊に動かないようにしましょう」
グリードは二階へ繋がる瓦礫の方へと登り、ジャックの方を見ながらニヤッと笑った。
「待て!」
「貴方を殺るのは私じゃない。二人程貴方を殺したがっている人が居ますからね。それでは」
グリードは近くのベットを踏み台にし、上空へと飛び立とうとした。急ぐジャックだが、近くで爆破が起きて、再び遠くへ吹き飛ばされる。
「くそっ!」
「フッ」
ジャックが舌打ちをし、グリードも逃げれることを確信した。しかし、下のベットから死人のような色白の手が伸び、グリードの足をガッチリと掴んだ。
「なっ!?」
その手は、そのままグリードを振り回し、ジャックの方向へと吹き飛ばす。ジャックは、近くの壁に埋まったグリードとベットの白い手を交互に見た。
「この部屋、よく見れば俺の教室だ。ま、まさか……」
「一体誰だぁ?この俺ちゃんとセーレのエッチを邪魔したのはぁ?」
ベットの中からムクっと起き上がったのは、毛布に包まるアウトリュウスだ。まだ眠そうに片目を閉じており、もう片方の目をぐるぐると回す。
「アウトリュウス……こいつまさか、教室で寝落ちしたのか?よく爆破で起きなかったな」
「あれ?セーレ居ない?てことは、エッチは夢か。どっちにしろ、エッチな夢を邪魔した奴は許さん」
「邪魔したのはあいつだ。そこに居るグリードとか言う奴だ」
ジャックがグリードの方を指差すと、アウトリュウスは片目を細めてグリードに突っ込んで行った。そして、そのままグリードに蹴りを入れ、首に手を伸ばす。だが、その手は突然爆破し、その場でもげてしまう。
「引けアウトリュウス!」
「いや」
それでも、アウトリュウスは引きはしない。再び蹴りを入れ、その足が爆破しようが構わずに蹴りを入れ続ける。
「バカ!引き時を知らないのか!」
痺れを切らしたジャックは、ワイヤーでアウトリュウスを縛り、手元に引き寄せる。その手と足は、爆破によって使い物にならなくなっている。それだと言うのに、アウトリュウスはピンピンしていて、痛みなど感じていない。
「治癒魔法」
「治癒魔法」
ジャックがアウトリュウスの手足を治療すると同時に、グリードも自身の傷を軽く手当する。だが、グリードの治癒魔法よりジャックの治癒魔法の方が優れているようだ。
「凄い回復力だね」
「元の力の主のアマノが治癒魔法得意だったからな」
「そう。流石アマノ様」
アウトリュウスはヘラヘラとしながらジャックの目玉をペロッと舐める。当然、ジャックは反射的にアウトリュウスを殴る。
「いっ!?何してんだてめぇ!」
「もっ、元人間の目玉……おいぴぃ」
「きめぇ。悪魔みたいな奴だなお前」
アウトリュウスの治療が完了した。同時に、グリードも治療が終えて、体をグッと伸ばして立ち上がった。
「戦わないといけないのか。私もついてないな」
グリードは埃まみれになったフードを脱ぎ捨て、姿を見せた。薄緑の髪、金の丸メガネ、タキシード姿――紳士的な雰囲気は、ジャックとアウトリュウスを少しだけ油断させた。
「どうしたのですか?二人同時で構いませんよ」
「ちっ、どいつもこいつも舐めやがって」
ジャックはそう言って濡れた片目を拭い、隣のアウトリュウスを睨んだ。アウトリュウスもジャックの方をチラッと見て、ゆっくりと薄い笑顔を見せ付けた。
「二人でやる?それとも一人でやりたい?」
「どっちでもいい。俺の邪魔しないでくれれば何でいい」
「オーケイ、助けて欲しかったら俺ちゃんに投げキッスしな。いつでも助けあげる」
「死んでもしねぇから安心しろ」
ジャックは神器を構えてグリードと距離を保つ。だか、先に仕掛けたのはグリードだった。手袋をギュッと引っ張り、宙を舞いながら壁や天井を駆け回る。それを目で追いかけるジャックは、とても冷静で感覚が研ぎ澄まされている。
「爆破魔法、エル.フラルゴ」
グリードはあちらこちらの瓦礫を吹き飛ばし、ジャックやその周りに当てる。その瓦礫は、何かに触れると即座に爆破して、周りを軽く吹き飛ばす。
「くっ」
「やばいな」
戦っているジャックは勿論、近くに居るアウトリュウスもその場から離れる。だが、崩れ落ちて狭くなっているこの空間では、どこもグリードの射程距離内だ。
「クロス.フラルゴ」
更に、天井に出現した魔法陣から無数の十字架が落ちて来る。その十字架は、一つ一つは小さいが、禍々しい魔力を放っている。
「避けろアウトリュウス!」
「避けれない。ジャック、投げキッスしたら守ってやるよ」
「言ってろ」
無数の十字架は、無慈悲にジャックとアウトリュウスを襲う。全ての十字架は、上下左右に配置されて大爆発を起こす。
「これで死んでくれたら有難いのですが……」
今の爆破で天井や壁が破壊される。爆風と埃から出てきたのは、二つの影だ。一つは、傘の神器、天之月を差して亀の甲羅のように防御するジャック。もう一つは、青い本を片手に持ち、バリアの魔法を広げているアウトリュウス。
二人共、全然攻撃が効いていない。
「ジャック、そのまま傘を広げてな。んっ、チュッ」
アウトリュウスはバリアを展開したまま、ジャックに投げキッスをする。その投げキッスを傘で防ぐジャックは、言われた通りに傘で防御を固める。
「返却致しますぜ。クロス.フラルゴ」
アウトリュウスが手に持つ青い本から、先程グリードが見せた魔法と全く同じ魔法が放たれる。それを見たグリードは、目を泳がせて複数の十字架を見上げた。
「私の魔法……なんてこったい」
「バァイ!」
複数の十字架は、グリードに向かって行き、その全てがグリードを取り囲んで爆破した。その爆破は、防御を展開するジャックとアウトリュウスにも及ぶ程だ。




