第20話【戦いの準備】後編
一週間の自宅待機を終えたジャックとベルは、教室に行く前に先生であるリベに呼ばれた。
「今回はお手柄だったわね。最高神の何人かは貴方達に賞状を与えるようですよ」
リベはいつも通り目のクマが酷く、スカートを引きづっている。
「けど、心配する者も居るのですよ。七つの亡霊のような得体の知れない敵からは逃げること。まだ子供の貴方達が出しゃばる必要はないのです」
「分かりました」
「神々は実績が全てだからって焦っちゃダメです。例え英雄でも」
「はい」
ジャックとベルは、リベの軽い説教を受けて教室へ戻る。二人は、少し意外そうに顔を合わせた。
「リベ先生って、結構いい人?何かまともぽかったよね?」
「あれが本来あるべき先生の姿なんだろうけど、確かにいつものリベ先生からは想像付かない態度だった。神々が俺らを褒める中、リベ先生だけは怒ってくれた」
「素敵だね」
「それはそうと、この額のキスマーク取れないんだけど……ベルだよね?俺の額にこれ付けたの?」
ジャックは思い出したかように、額の黒いキスマークを見せ付ける。すると、ベルは知らんぷりして顔を逸らした。
「さぁ?私がキスマ付けるハレンチな女に見える?リベ先生とかじゃない?あるいはクレイジーサイコホモのアウトリュウスとか」
「適当言うな」
「えへへ。多分それ取れない。ごめんっ!」
ベルはヘラッと笑い、教室の中へ走って逃げた。
「おい!誤魔化すな!待て!」
ジャックもそれを追い掛けて教室へ入って行く。瞬間、生徒達の目線が一瞬にして扉を開けたジャックに向いた。
「ッ!」
思わず、足を止めてしまう。
「やぁ、英雄さん。久々に会えると思ったら、随分騒がしいな」
その緊迫した空気の中で、ルーナが気さくに話し掛けて来た。それを見て、ジャックが安心したようにいつもの定位置に着く。
「ゲームのエンディング見た?」
「いや。一時停止しといたさ。次の班授業で見ようぜ」
「うん」
ジャックとルーナがいつも通りに接する中、ハンモックから降りたカーマが二人に近寄って来た。ベルやセーレも、そんなカーマを横目で見ている。
「四年生のロイス、そいつがスロウスだったとはな」
カーマのその一言は、教室の空気を凍らせた。
「それが何?」
「スロウスにお爺ちゃんと呼ばれていた男、そいつと戦闘になったらしいな」
「そうだよ」
「顔、特徴、使用する魔法、全てを教えろ」
「顔は見てない。特徴は2mを超える身長と大きな体、魔法は闇魔法を使用していた」
「そうか。どうも」
カーマはジャックから聞くだけ聞いて、再びハンモックの上に寝っ転がる。それを見て、ルーナがニヤッと笑った。
「復讐か?」
「そうだ。決着は俺が着ける」
「フッ、いいな。応援してるぜ」
「……」
ここ最近のカーマは、入学初日以上にピリついている。そんなカーマに気軽に話し掛けれるのは、クラスではルーナだけだった。
*
次の班授業、ジャックはルーナと共にゲームのエンディングを目にした。
「どうだった?」
「主人公の家族?何だか可哀想だったな。主人公も最初は家族が成せなかった王になる夢を叶えたいだけだったのに、次第に手段を厭わなくなった。王になれたから良いけど、なれなかったら完全にバットエンドだ」
「それがいいんだろ。このハッピーでもバットでもないビターエンドが。このシリーズは、それが売りなんだ」
「ふーん」
エンディングを見終えたジャックは、懐からゲームソフトを取り出し、それをルーナに渡した。
「これは?」
「ロイスが持ってたんだ。多分、前言ってたこのシリーズの新作。希望の物語?」
「あぁ、そう言えば。タイトルは『エルピス~不死の希望~』。シリーズ五作品目か」
「どうせなら、やってみようかなって」
「おいおい。ならシリーズ一作品目からやろうぜ?」
「一作品目は?何てタイトル?」
「タイトルは無いな。シリーズ最初だからシリーズ名だけ……無印ってこと」
「そう。じゃあ、それからやるよ」
「ナイスッ」
二人が楽しそうにゲームソフトを漁っていると、教室の扉からラックが入って来た。ラックと余り関わったことのない二人は、少し警戒して口数が少なくなる。
「あいつ、初授業の時俺達のこと踏みつけたよな?俺苦手なんだよ」
「俺も」
初授業のこともあり、ロイスとは真逆の信頼感だ。だが、そんなラックは、無神経にも二人の所へやって来て、ゲームソフトを覗き込むように眺める。
「俺も入れて」
「……女遊びはどうした?」
「もう遊んで来た。今日は君らと遊びたい気分なんだよ」
「……俺は良いけど、ジャックは?」
「別にいいよ」
「よし来た!」
ラックは二人にした事なんて忘れている。それ所か、ニコニコと笑って楽しそうに二人の間に入った。
「ロイスのこと、悲しくないの?そこそこ仲良さそうだったよね?それに、犯罪組織の一員だったんだよ?」
ジャックは一瞬の躊躇いを得て、率直に質問する。すると、ラックはほんの少しだけ目を細め、悲しそうに下を向いた。
「悲しいよ。仲良しだったもの」
「そう……だよね。無神経に質問してごめん」
「いいんだよ」
ラックは悲しい表情を無理に吹き飛ばし、ニコッと笑ってジャックの頭をポンッと撫でた。ジャックはラックの本音を聞けて少し安心する。
「あー、俺も聞きたいんだけどさ、ジャックってどっちなの?」
「どっち?」
「いや、女の顔して俺俺言ってるし、仕草が男ぽいからさ……分かんないんだよ」
ラックのその発言で、隣のルーナが手を叩いて清々しく笑った。
「アハハッ!」
「なっ!?おっ、男だ!れっきとした男だ!」
「えっ、あ、そう?」
「そうだよ」
「けど、背も低いから全然分からないよね。見た感じ140cmもないよね?135cmくらい?」
ラックは、不機嫌になったジャックを更に不機嫌にしていく。コンプレックスの二撃目を放ったことで、ジャックがラックを睨み、隣でルーナがクスクスと笑う。
「背はこれからさ」
「いや、これから伸びないぜ」
ルーナの一言で、ジャックの怒りは頂点に達する。
「なぜそう言いきれるんだ?あぁ?」
「いや、お前元々人間だろ?人間から神様になったら身長とか若さはその時点で止まってしまうんだ」
「え?」
その怒りは、その衝撃の一言で止んだ。
「嘘……」
「いや、嘘じゃないって。実際、人間から天使になったことで有名なメタトロンも青年のような顔付きと166cmという身長だろ?あれは、メタトロンがまだ若い時に天使になったからその時点で見た目の成長が止まったんだよ。お前は10歳か11歳で神になったからその時点で成長が止まったんだよ」
「そんな……」
ジャックは余りのショックでその場に倒れてしまう。
「あぁ!大丈夫!?」
「可哀想にな」
*
その日の夜、とあるお城では。
「グリード、ラスト、お前ら二人でギリシャの学園をぶっ壊しに行け」
女が食卓の準備をする中、ラースが近くに居る二人に言った。
「分かりました」
「いいの?学園にはジャックやベルが居る。あいつら殺したらあの老いぼれが怒るんじゃない?」
「大丈夫だ。二人は学園と離れた寮で寝てる時間帯だ」
「流石リーダー、天才だね」
「まぁな」
「じゃあ、行こうか。グリード」
ラストと呼ばれる男は、乗り気で立ち上がり、その場にグラビア雑誌を置いた。ラストは、茶髪と青眼が特徴的な美形の男――ラックだ。
「やっとあの学園を破壊できるぜ。このイケメン神様ラスト様が直々に解体しようではないか」
*
ジャックはすやすやと眠っている。毎日メタトロンとの修行で体が疲れていて、サンダルフォンを演じるのに心が疲れている。
「て、照れちゃう」
隣で、ポム吉が寝言を言いながらベットから落ちる。瞬間、ジャックの目に激痛が走り、夢と現実の狭間のような感覚が走る。
「いてっ!ああぁ!!」
「ほわっ!?どうしたの!?」
その痛みで目を覚ましたジャックは、両目を抑えてベットに蹲る。ポム吉もジャックの声で目を覚まし、飛び跳ねる。
「今のは、大男が学園に来た時と同じ。今度は、二人組が学園を襲う未来だ」
「真理の義眼の危険信号?」
「その通りだ。来いポム吉!学園に行くぞ!」
「おうっ!」
ジャックは近くに掛けていた服を手に取り、着替えながら部屋を出て、一階にある学園への扉へ入る。
「まだ。何もないな」
学園は、まだジャックの見た未来のように襲われていない。だが、学園の中は所々明かりが付いていて、まだ神や天使が居るようだ。
「まだ明かりがついてるよ!」
「教師や上級生だ。いつも深夜過ぎても居残りしてる」
「学園が襲われるなら、まずいんじゃない?」
「全員に呼び掛けしてる時間はない。未来予知した二人組を探し出し、奴らが何かする前に捕らえるしかない」
「その二人組って、あれじゃない?」
ポム吉が指さした場所を見た瞬間、その場所は音を立てて大爆発した。そのせいで、ポム吉の言う二人組の姿は見えない。
「手遅れだったな」
「ごめん」
「来い。まだ奴らは俺らに気付いてない」
ジャックとポム吉は、爆発が起きたどさくさに紛れ、二人組が居ると思われる場所まで移動する。
しかし、学園は連続して爆発し、あちらこちらで大爆発する。そのせいで、ジャックの上に瓦礫が落ちて来る。
「神器、天之月」
その瓦礫を神器で切り裂き、瓦礫の傘になるような場所へ移動する。そして、ポム吉が言っていた二人組を見付ける。幸運なことに、まだジャックに気付いていない。
「ラッキーだ」
「ラッ吉!」
「今なら暗殺できる!」
ジャックは二人組の暗殺を測った。魔力と気配を押し殺し、無心で静かに宙を進む。
(メタトロンの瞑想のようだ。この気配の消し方、修行で更に深い物となっている)
ポム吉も、ジャックの圧倒的な静けさに息を飲む。そして、ジャックの刀が二人の首を斬り裂いた。一人は、血を吐いてよろめいた。しかし、もう一人の首に刀が刺さった瞬間、首元が爆破して神器の先端を破壊した。面食らったジャックは、すぐに二撃目を振るう。
「危ないですね」
しかし、ピンピンしてる方の男がダメージを受けてる方を引っ張り、ジャックを蹴り飛ばす。蹴られたジャックは、腹が軽く爆破してダメージを受けた。
「やべぇ。死ぬぞこれ」
「我々相手にここまで気付かれないとは、かなりのやり手だ」
「いや、よく見ろ。あいつ、英雄ジャックだ」
首からどくどくと血を流す男は、もう一人の肩を借り、頭を強く抑えてる。
「逃げるぞグリード。傷が深すぎる」
「逃げれる相手じゃないですよ」
「じゃあ、おんぶして」
傷付いた男は、もう一人におんぶしてもらった。先手を取ったジャックだが、妙な不安がまだ止まない。




